今回のお相手:國吉美貴さん
鳥取県の大山のふもとで、「國吉農園」を経営している。家族と仲間と一緒に、「食べるとおいしくて幸せになれる野菜」をつくるため、日々頑張っている。大学時代にアフリカのタンザニアに行ったことがきっかけで、野菜とお米をつくり始めた。毎年小学校に行って、6年生に農業の話をするなど、子どもたちにも農業のことを伝える活動をしている。
子ども取材班
No.1 ケイティ:
空手や書道を一生懸命がんばっている。空手で館長賞を取ったことが嬉しかった。
No.5 かのぴ:
画力を上げることを頑張っている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことが嬉しかった。
生活をするためにお金を稼ぐ仕事のことを「生業」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。
今回のゲストは國吉美貴さん。農家です。農家って、いったいどんなお仕事なのでしょう?
ケイティ・かのぴ:
よろしくお願いします。
國吉さん:
よろしくお願いします。
食べることが大好きだった子ども時代
かのぴ:
子どものころ、どんな大人になりたかったですか?
獣医といって、動物のお医者さんになりたかったです。家で飼っていた犬が時々体調をくずすことがあったので、助けてあげたいと思っていました。動物だけではなく、生き物が好きでしたね。
獣医になれなかったら、料理人になりたいとも思っていました。
給食など、食べることが好きだったんですよ。特にお米が好きで、おかずがなくても食べられるくらい。おいしいものを食べると元気が出るので、自分でもつくりたいと思っていました。3、4年生の頃から、よく自分で料理をしていました。
僕には双子のきょうだいがいて、一緒にお菓子や料理をつくっていたので、その影響が大きかったかなと思います。
ケイティ:
その2つ以外にもなりたいものはありましたか?
テニスを小学校5年生くらいからやっていたので、プロになれたらいいなと思うことはありました。スポーツが好きでした。
かのぴ:
憧れていた人物はいますか?
図書館で借りた漫画偉人伝で『ヘレンケラー』を読んだんですが、目も見えない、耳も聞こえない、話せないの三重苦なのに、勉強家で努力家ですごい人やなと。勇気をもらえました。こんな風に強く生きたいと、尊敬していましたね。
ケイティ:
それは今の仕事に影響していますか?
そうですね。仕事してて大変な時、くじけそうな時に他の人も頑張っているなと思うと、「自分も頑張ろう」と思えます。勇気をもらえるので、影響を受けているんでしょうね。
ケイティ:
そうなんですね。
かのぴ:
では國吉さんの職業名は何ですか?
農家。農業をやっています。
ケイティ:
つまり何をしているお仕事なんですか?
お米や野菜など、食べ物をつくっています。鳥取の大山って聞いたことある?
ケイティ・かのぴ:
うーん……ないです。
大山町は、中国地方といわれる岡山、鳥取、広島、山口、島根の5県の中で、一番大きい山がある町なんです。その山の名前が、大山。そのふもとでお米や野菜をつくって、スーパーやホテル、レストラン、個人のお客さんに販売をしています。 野菜は、年間30~40種類つくっています。
國吉農園でつくられている野菜たち
個人=この場合はお店や会社の人ではない、町の人たち
ケイティ:
わたしのおばあちゃんの実家が農業をしているんですが、朝早くから働いていると言っていました。國吉さんもそうですか?
時期によるかな。日中に収穫するので夏はけっこう早くて、うちは6時くらいからやります。でもそんなに早い方ではないですね。早い農家さんは、夜中の2時くらい。
例えばこのあたりの地域は、ブロッコリーがいっぱい作られています。ブロッコリーは日が当たるとどんどん柔らかくなって、おいしくなくなってしまいます。なのでその前に収穫しなくてはいけません。そうすると、収穫が夜中になってしまうわけです。
夜中10時くらいから、日が出るまでの間収穫している人もいます。大変で体を壊す人もいるので、僕は6時くらいから(笑)。
早く採らないといけないものは早いうちに、日が当たっても大丈夫なものは後にしています。普段は8時半から働いています。
実家=生まれてから家族などと過ごした家のこと
収穫=育った作物を採ること
かのぴ:
みんな朝の4時くらいからやっているんだと思ってました。
この辺の農家さんは8時や8時半くらいからですね。ブロッコリーの収穫も毎日ではないので、夜中に採るのは5, 6月。他の時期は早くても7時くらいの人が多いかな。
うちの場合は、畑に出ているのはほとんど午前中だけのことが多いです。午後は収穫した野菜を袋に詰めたり、段ボールに入れて送る準備をしたりしています。
かのぴ:
なるほど。お米や30~40種類の野菜をつくっているということは、土地はものすごく広いんですか?
広さは、農家の単位で4帖5反あります。1反は10m×100mなので、1反×45がうちの広さです。
ケイティ・かのぴ:
広い!
1人じゃできないので、僕と奥さんと働いてくれている友達2人の、合計4人で畑の面倒を見ています。
豊かな自然の中でつくられている
大山でめちゃくちゃおいしい野菜をつくる
ケイティ:
なぜ大山町でやろうと思ったんですか?
いい質問!(笑)
ブナの木って知ってる?大山は、ブナの木がたくさんあります。根っこが深く地中に張って、葉っぱを落とす落葉広葉樹のひとつです。
それが、山の地面に雨水を溜める役割をしています。その雨水をきれいにして川に流してくれるので、水がきれいでおいしい。それに標高が1,729mあるので、けっこう雪が降るんでよすね。このあいだ50センチくらい降りました。その雪解け水が川に流れるから、夏でも川の水の温度が7, 8度しかない。水が冷たくてきれいなんです。
野菜の体はほとんど水分でできているので、使う水がおいしいと野菜もおいしい。水がきれいというのが、大山を選んだ理由のひとつです。
もうひとつは、土にミネラルがいっぱい含まれていること。大山は昔火山だったので、火山灰が降っていたんです。ミネラルを含んでいる火山灰が、地面に降り積もって重なって、そこに植物が生まれ、枯れて、それを繰り返して土ができる。
その土で野菜をつくると、ミネラルがたくさん含まれます。野菜は水分とミネラルで味が決まりますから、めちゃくちゃおいしい野菜ができるようにと大山を選びました。
標高=山などの高さ
雪解け水=雪が解けて水になったもの
ミネラル=栄養分のひとつ
火山灰=火山が噴火するときに出る粉のようなもの(灰)
かのぴ:
なるほど!もう少し詳しく仕事内容を知りたいです。
野菜の種をまいて芽が出たものや、それをもう少し大きくして畑に植え替えたものに水をあげて育てます。普通はここで農薬を使います。虫がつかないように、雑草が生えないように、野菜が病気にならないように使うんですが、実はうちは農薬を使っていません。
かのぴ:
え、すごい!
僕はもともと、自分の食べたいものをつくって、おいしくできたらみんなにも食べてほしいなと思って農家の仕事をしています。薬を使ったものはあまり食べたくないという思いがありました。
育てるときは、できるだけ手作業です。雑草を抜いたり、倒れないように土を寄せたり。そして収穫してお客さんのもとに届けて、お金をもらっています。
畑や田んぼは、使わないと土地が荒れてしまう。雑草だけでなく、木が生えてくることもあります。畑や田んぼを使うことは、景色を守る役割もあるんですよ。
あとは水をよく使うので、水路や川の掃除をしています。農業をすることで、野菜を育てるだけではなく、地域の景色や周りの整備をすることにもつながっています。
手作業=機械を使わず、人間の手で作業をすること
水路=農業などで水が通る道
愛情いっぱいに育てられている
ケイティ:
天候が悪くて野菜が採れないときはどうするんですか?
そういうこともありますね(笑)。今回も雪で収穫できないことがありました。そういう時は諦めて雪が解けるのを待つか、どうしても野菜が欲しいと言われたときは、雪かきして野菜を掘るときもありますね。
他にも「なたまめ」という、ジャックと豆の木のお話のモデルになった豆を育てていて。大きいので、支えられるように3, 4mくらいの棚をつくっていたんです。広さが2反ほどなので、 20×100mの幅で置いていたんですが、台風で棚が全部倒れてしまいました。それはもう収穫できないので諦めました(笑)。
天候=天気の状態
ケイティ・かのぴ:
えっ、大変!
ケイティ:
次はどんな野菜を育てるのに挑戦したいですか?
今興味があるのは……僕実はカレーが好きなので、インド米をつくってみたいですね。
ケイティ・かのぴ:
カレー!好きです!
日本のお米は、水分をたくさん含んでいるのでもちもちでおいしいんですよね。インド米は細長くてぱさぱさしています。でもそれがカレーにすごく合うんです。
まだ日本でつくっている人がいるとは聞いたことがないので、やってみたい。ちゃんとつくれるのか、日本のお米と形が違うから精米できるのか、などの問題もあるけど、挑戦してみたいと思っています。
精米=お米から「ぬか」といわれる部分を取って、白米にすること
ケイティ:
野菜を料理などにして販売することもありますか?
たけのこはすぐ掘って料理しやすいように水煮にしたり、大豆をお味噌にしたり、干芋をつくったりします。量が少ないのであまり販売はしていないんですけどね。自分たちで加工するというよりは、お届け先のお店が商品にして販売してくれています。
水煮=水や塩水で煮たもの
加工=この場合は、調理するなどして野菜に手を加えること
無農薬、そして手作業で大切に育てている
生きることは、食べること
かのぴ:
なぜその仕事をしようと思ったのか、そしてしているのかを教えてください。
難しく考えるのが苦手で、シンプルに生きたいとずっと思っていました。大学生になったときに、バックパッカーとしてアフリカのタンザニアに行ったんです。タンザニアの都市部は都会で、アメリカなどの大手銀行やファストフードもありました。英語も通じるし、道路も整備されている。
でも田舎は道路がコンクリートじゃないし、雨が降ると水たまりが大きくなって湖のようになるので、車も通れなくなります。
また水道がなく、水をくみに行かないといけない。マサイ族は家をわらや牛の糞でつくるなど、昔ながらの方法で暮らしている人もいます。
田舎の村に行ったとき、現地の人に泊めてもらいました。彼らが大事にしていたのが、農業。「生きるために、食べ物をつくらなきゃいけない」と言っていました。じゃないと家族も生きられないし、それをしないと何も始まらない。女性が特によく働いてましたね。男性はあまり働いていなかったな(笑)。
その時に、「自分もシンプルに生きたい」「人間は食べなきゃ生きられないから、日本に帰ったら食べ物をつくれるようになりたい」と思いました。日本に帰ってきて、大学の畑や田んぼで野菜とお米をつくりはじめました。
大学を卒業して、お米づくりや野菜づくりが体験できる会社に就職しました。その時は実際にはつくらず、場所の管理をしていたけど、自分のつくったおいしいお米や野菜を届けたいと思って今農家をしています。
生きることは食べること。シンプルに生きて、自分で育てたおいしいものを食べて幸せになりたいと思っていました。
バックパッカー=少ないお金をうまく使って外国を旅する人。バックパックはリュックのこと
都市部=人が多く、政治や文化の中心になっている場所
大手銀行=扱う金額が大きく、またいくつかの銀行があわさってできた大きな銀行
マサイ族=タンザニアに昔から暮らしている民族(人たち)
現地=実際に行われている場所、現場
就職=学校を卒業した後に働くこと
ケイティ:
どうやったら農家になれるんですか?資格は必要ですか?
農家になるのに資格は必要ありません。開業届といって、「農家になります」という届を出せばなれちゃう(笑)。
地域によって違いますが、うちの地域で必要なものは、農地を最低2反、つまり100m×20mの広さの土地があって、野菜かお米をつくっていて、それに合った道具があるというのが決まりです。
そんな風に、地域の決まりがそれぞれあると思います。うちの地域ではトラクターと、2反以上の土地が必要です。
農地=畑や田んぼ
かのぴ:
じゃあ土地と必要な道具と家さえあれば、開業届を出して農家になれるんですか?
簡単に言うとその通り。作業場もあるといいね。野菜を収穫してきれいにする場所。かのぴが言ったことと作業場、最低限その4つがあればなれちゃう。
ケイティ:
資格は必要ないけど、農家になるためにどんな勉強をしたんですか?
とにかくまずは育ててみる。最初は全然うまくいかなくて、ひたすら作って観察していました。この野菜はこんな虫がつくんだ、こんな病気になるんだ、じゃあどうすればいいのか?と実践で学んでいました。
本もいろんな人の経験が集まっているので、よく読んでいましたね。野菜や土、虫などの生態、野菜を食べにくるイノシシ、シカ、あらいぐま、たぬき、きつねなどの動物、科学や理科の勉強もしました。
農業は現場だけでなく、経営といって、どうやってお金を稼ぎながら仕事をするかということも考えます。算数はしっかりできているほうがいいな。経営では算数をすごく使うので。
例えば、土地は真四角ではないので、面積や割合の計算をします。どういうつくり方をしたらどれくらい収入になるかといったことも計算します。機械や物理の勉強もするし、結局はどの勉強も農業に関わってくる。
インターネットに詳しくなれば、自分でホームページをつくって野菜を販売することもできます。他にも、田んぼを使って田んぼアートをするように花や野菜を育てる人もいます。どの勉強をしてても、農業に無駄なものはないと思いますよ。
生態=生活している様子
科学=ものとその変化を研究する科目
経営=会社などの目的を達成するため、計画したり実行したりして進めていくこと
面積=表面の大きさや広さ
割合=全部を100パーセントとしたら、そのうちのどれくらいか
収入=手にしたお金
夏は、あまくてみずみずしいとうもろこしができる
農家のお仕事について、愛情をもってわかりやすくお話ししてくださった國吉さん。後編では農業への想いと楽しさ、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係についても聞いていきます。
國吉美貴さんのSNSと國吉農園のホームページ
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:ケイティ、かのぴ
編集部:スナミアキナ、吉川由
ライティング:吉川由
編集:スナミアキナ
編集長:吉川由
主催:YOKARO