インタビュー記事

第15回 文化と地域をテーマにデザインする 「グラフィックデザイナー」 南 裕子さん【後編】

今回のお相手:南 裕子さん

岡山おかやまけん備前びぜん出身しゅっしんで、いま神奈川かながわ県にんでいるグラフィックデザイナー。デザインに興味きょうみち、大学生のころから演劇えんげきのチラシやパンフレットのデザインをしていた。大学卒業そつぎょう、デザインの専門せんもん学校で本格ほんかくてきにデザインを勉強して独立どくりつ地域ちいき文化ぶんかにも興味があり、地元じもとである備前市や瀬戸内せとうち魅力みりょく発信はっしんしている。

子ども取材班しゅざいはん

No.5 かのぴ:
画力がりょくを上げることを頑張がんばっている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことがうれしかった。

No.9 わー:
にわとりの世話を頑張っている。書道の級が上がったことが嬉しかった。

No.13 みかん:
勉強やダンスを頑張っている。水槽すいそうから飛び出した魚が生きていて、元気になったことが嬉しかった。

デザインの力で地元じもとゆたかにしたい

かのぴ:
みなみさんがこれからやっていきたいことはなんですか?

地元の子たちに、デザイナーのやりがいやおもしろさをつたえたいです。

私が子どもの時は、地元にデザイナーがいなかったんですよ。もしかしたらいたのかもしれないけれど、出会う機会きかいがありませんでした。だから、地元にかかわるデザインをしたいし、「デザインの仕事しごとつうじてこんなこともできるよ」って伝える機会をつくりたいです。

それにいまはグラフィックデザインを専門せんもんにしていますが、これからは文化ぶんか地域ちいきがもっと豊かになるための「仕組しくみのデザイン」もしていきたいです。

専門=プロとしてその仕事をしていること

かのぴ:
仕組みや地域とデザインのことも含めて、今まで活動かつどうしてきたなかで、具体ぐたいてきにどんなことで地元のかたと関わってきましたか?

備前びぜんやき文房具ぶんぼうぐをつくりました。

かのぴ:
備前焼の文房具?

焼き物を文房具にすれば、いろんな人に備前焼を伝えられそうだとおもって、地元じもと仲間なかま企画きかくした商品しょうひんです。

備前焼は、焼き方によっていろんながらができるんですね。たとえば焼き物を焼くときに、お皿の上にわらいてかまに入れると、こういうふうにせんがつくの。

うつわとしてだけではなく、一筆いっぴつせんやノートなら気軽に備前焼をってもらえるし、だれかに手紙てがみを書いたりおみやげとしてわたせるよね。

この企画をやってみて、今まで焼き物には興味きょうみがなかったけど文房具がきな人が興味をってくれました。それに、「地方ちほうでおもしろいことをやってる人たちが好きだ」という人があつまってきてくれて、今までり合えなかった人と出会えたり、交流こうりゅうが広がったりしました。

一筆箋=ひとことメッセージを書く紙のこと

かのぴ:
交流のきっかけにもなるんですね。

そうだね。ものづくりは、人と人とのつながりをつくることもできます。「こういうことをしたい」と話していたら、自然しぜん仲間なかまえていくんだよね。ぶつかったり賛成さんせいしたりして意見いけん交換こうかんをすると、かんがえてもみなかったアイデアがうまれることもあります。

ものづくりを通じて、その土地とちのよさに気づいてもらう仕組みや、仲間を増やす仕組みをデザインしていけるといいなと思います。

かのぴ:
仕組みとデザインってそういうことだったんですね。

仲間たちと企画して作った備前焼の便箋

「こうだったらいいのに」という気持ちを大切に

わー:
ではここからは、「く」と「お金」の関係についても聞いていきます。「働く」ということについてどう思いますか?

先にみんながイメージする「働く」について聞いてみようかな。わーちゃんはどうかな?

わー:
私は、「必要ひつようなこと」というイメージです。

生活にとって必要なこと?

わー:
はい。

みかんちゃんはどう?

みかん:
私にとって働くっていうのは、「りとの関係かんけいたもつこと」。

おぉーふかい。周りとの関係ね。

みかん:
そう。新しいこととかにもれることができると思うので。

たしかにそうだよね。どんどん新しい世界せかいが広がるよね。じゃあ、かのぴちゃんは?

かのぴ:
二つあります。一つ目は「意味いみがある」。楽しまないと仕事ってつづけられないから、「働く=楽しいことをしている」というイメージでありたいです。

なるほどね。楽しいことをして、ちゃんと意味があるもの。

かのぴ:
二つ目は、楽しいことといっても、ずっと同じ楽しいことをしてもすぐきちゃうから。働いて頑張がんばってもらったおかね温泉おんせん旅行りょこうに行ったり…… 「働くのは娯楽ごらくのためにある」というイメージです(笑)。

娯楽=仕事から離れて楽しめるものごと

それも大事だね。みんなが言ってくれたこと全部ぜんぶ大事だな。もちろん生活のために必要だし、仕事をつうじて周りとの関係もつながっていくし、やっているからには楽しいことや意味があることもしたい。

私が高校のときに、先生から「自分じぶんいきどおりをかんじていることを仕事にしなさい」と言われたんですよ。

全員:
憤り?

いかりの気持ちなんだけどね。「なんでこれってこうなってるのよ!私がえてやるわ」みたいな(笑)。怒るだけじゃなくて、自分だったらもっとこうしたいという気持ちを大事にする。好きなことを仕事にするのと、意味はおなじかもしれません。

私は高校生まで地方ちほうらしていたので、近所きんじょ劇場げきじょうがありませんでした。だから、「なんで地方にんでいるというだけで、演劇や文化に触れ合える機会がこんなにすくないんだろう」って憤りを感じていましたね。

地元の子たちがもっと気軽きがるに文化に触れ合える環境かんきょうをつくりたい。例えば劇場やギャラリー、美術びじゅつかんえるようなことがしたい。演劇をる人が少ないのであれば、演劇を観るのは楽しいことなんだよってつたえる仕事がしたいと思ってきました。

自分が「世の中こうであったらいいのに」と思ったことで働けたら、楽しいだろうなと思います。それで本当に変わっていくかどうかはわからないけど、今の自分ができることを、こうだったらいいなと思うことをやり切るために働いていますね。

地方=東京、大阪以外の場所のことをいうことが多い

ギャラリー=作品がたくさんかざってある部屋

南さんが手がけたデザイン

お金を稼ぐことは信頼しんらいあかし

かのぴ:
「お金」についてはどう思いますか?

お金については…… そうだなあ。お金のために働くという感覚かんかくももちろんあるし、お金がたくさんあったほうが、旅行にも美術館にも行けてうれしい気持ちもある。娯楽も大事だからね。

ただ、お金のために仕事をしているのかと言われると…… ちがう気持ちも半分はんぶんはありますね。

自分や社会が「こうであったらいいのに」という気持ちや、デザイン、演劇、文化が好きというおもいを仕事でも感じたい、体験たいけんしたい。自分が好きなものに関わるための時間をいただいている感覚が強いんですよね。

だから、お金を手にするために仕事をしているというよりも、好きなものに関わる時間をもらうために仕事しています。

かのぴ:
順番じゅんばんをつけると、一番は娯楽が大事ですか?

うーん、どうだろう…… 。仕事が一番大事かな。ただ、仕事をし続けるためには生活もしなければいけないから、そのために、やった仕事に対してのお金をいただくことは必要ひつようなのかな。

かのぴ:
先ほどと少し質問しつもんですが、お金を「かせぐ」ということについてどう思いますか?

お金を稼げる人でありたいとは思っています。ただ、なんでお金を稼げるのかというと、高いお金を相手あいてはらってくれるから、自分はお金を稼げるわけだよね。

じゃあなんで、相手は高いお金を支払ってくれるのか?

それは、支払う相手がそのお金の分だけ成果せいかを出してくれるはずだと、しんじてくれているからだと思うんですよ。だからこそ、信頼してお金をたくしてくれる。

お金を稼げる人になりたいと同時どうじに、相手が安心して、この人に仕事をまかせられると思ってもらえるデザイナーになれたらいいですね。

託す=任せたり頼んだりすること

成果=やりげたことで結果けっか

わー:
給料きゅうりょうはどうやって決まりますか?満足まんぞくしていますか?

お給料は、基本きほんてきには実際じっさいにつくるもののりょうやスケジュール、つくったものが実際に使つかわれる範囲はんいまってきます。一つのおみせの中でしか使わないものと、全国ぜんこくで使われるものだと値段ねだんも変わる。そこは最初さいしょち合わせでしっかりとお話を聞いて、依頼いらいしゃ金額きんがくを伝えるようにしています。

あとは、大きな企画きかくだとデザインするものもたくさんあります。例えばチラシ、ポスター、パンフレットなど、それぞれ10種類しゅるいのものをつくらなければいけないこともありました。そうなると全部を自分でつくるのは大変なので、自分以外いがいのデザイナーさんも一緒に、チームで動かなければいけない場面ばめんも出てきます。ディレクションをするのも、お仕事の一つです。

お給料には満足しているけれど、ひとつひとつの仕事にもっと丁寧ていねいき合いたいので、ひとつに対するお金も時間も、もうすこやせたらいいなとも思います。

範囲=限られた広さ

ディレクション=監督かんとくのような仕事。予定よていを立てたりみんなをまとめたりして、どうすればうまく進められるかなどを考える。そして実際に進めたり指示しじをしたりすること

好きなものに関わりながら、丁寧に仕事に向き合う

「文化と地域」をテーマにデザインの仕事をする

みかん:
南さんはなんのために働いていますか?

「文化と地域のための仕事」を自分の働くテーマにしていて、だれもがたり前に文化・芸術げいじゅつあいする文化のある社会になるよう、仕事をしています。

演劇や地域で「もっとこうだったらいいのに」と思うことに対して、未来みらいをつくるためでもあります。今まで演劇のお仕事をすることが多かったけれど、今は芸術や工藝こうげいの仕事にもかかわっていきたい。誰かがつくりあげたものがみんなに愛されて、大事にされて、これから先も続いていく環境をつくるために働いていきたいです。

そのために何をするのかを考え、デザインや広報こうほうを通じて、伝えるお手伝いができたらと思っています。

工藝=普段ふだん使っているものの中でも、うつくしいと感じるものや、それをつくる技術ぎじゅつのこと

デザインと広報の力で、文化や地域のよさを伝えている

かのぴ:
文化と地域のための仕事を自分の働くテーマにしているのは、どうやって働くテーマをつくってきたんですか?

「文化と地域」を働くテーマにしようと決めたのは、最近のことなんですよね。仕事をしはじめたときは、演劇がきというだけで何もかんがえていなかったので(笑)。だから、働いている間に失敗しっぱいしてかべにぶつかりながら、もがいていた時間が長かったです。

とにかく「ものをつくる人のお手伝いがしたい」と思って、いろんな会社で働いていました。そこでいろいろな働きかたや仕事を経験けいけんして、時にはすごく有名ゆうめい作家さっかさんに関わらせてもらったり、たくさんお給料をいただいていた時期じきもあったりしました。

でも、たくさん稼がなくてもいいから、自分自身が「この人を応援おうえんしたい、この人の作品をずっと見続けたい、この人の価値かちを社会に伝えたい」と思える人と仕事をしたいと思うようになったんです。それは誰だろうと思ったら、自分の地元の備前焼作家さんや、地域やアートに関わる人たちでした。

いろんな会社で働いて、「あぁでもない、こうでもない」って何がしたいのかを考え続けるうちに、今ここに辿たどきました。

価値=どれほどすばらしいか、またどれくらい大切かということ

わー:
最後に子どもたちにメッセージをお願いします。

とにかくたくさんのことを経験して、いろんなものを見て、自分の引き出しをどんどん増やしていってほしいなと思います。

私が今、デザインという仕事をするうえでも、たくさん漫画まんがんだ経験が今の自分につながっているし、演劇えんげきをやっていた経験も、物語ものがたりをつくる方法が今の仕事にやくっています。チームでものづくりや仕組しくみづくりをするときも、演劇が参考さんこうになっていますね。

だから、むかしやっていたことが将来しょうらい自分じぶんの仕事にきてくるかもしれない。いつかはわからないけど、でも必ず役立つときがくるから。自分が好きだな、やってみたいな、興味きょうみあるなと思ったことは、ぜひ経験してほしいな。

全員:
ありがとうございました!

こんなお話もしました

みかん:
南さんは京都きょうとが好きだと聞きましたが、私は京都の近くの滋賀しがけんんでいるんですよ。なんで京都が好きだったんですか?

小学生のときに新撰しんせんぐみが好きだったんだよね。新撰組の漫画をたくさん読んでいたから、京都には新撰組ゆかりのまちがあるし、歴史れきしや文化も多いし、住んだらきっと楽しいだろうなと思っていました。

読んだ漫画や小説を通じて、京都に対する憧れがどんどんつのっていって。いつかは住みたいなと思っていたんです。

結局住むことはありませんでしたが、今では毎年京都にあそびに行きます。きっかけは新撰組だったけど、今は新撰組以外の歴史のある場所やおてらをめぐるのも大好きです。

グラフィックデザイナーってどんな仕事?

・電車の中の広告やポスター、お菓子のパッケージ、雑貨、イベントなどのために、いろんなグラフィックのデザインをつくる

・ウェブサイトに出すためのイメージビジュアルやバナーをつくる

・印刷所への入稿や、色校正をしてデザインを調整する

・相手が期待していることや、どうしたいと思っているのかを聞き出す

・デザインだけではなく、完成するまでのディレクションをする

グラフィックデザイナーの魅力

・デザインという仕事を通じて、熱い想いを持った人と直接話をし、刺激を受けられる

・一つひとつが勉強になり、「この人のためなら頑張りたい」という気持ちになれる

・新しい表現について考えることができて、とてもおもしろい

・情報に優先順位をつけて整理できるようになると、どんな仕事にも役立つ

大変なこと

・著作権や肖像権、薬機法などの法律について知っておかないといけない

・忙しくて寝られないときがある

・相手の思いを正確に汲み取ること

・自分の頭の中のイメージ通りにデザインをつくること

「働く」と「お金」の関係について

・お金を手にするために仕事をしているというよりも、好きなものに関わる時間をもらうために仕事をしている

・やった仕事に対してのお金をいただくことは必要

・支払う相手が、そのお金の分だけ成果を出してくれるはずだと信じてくれているから、信頼してお金を託してくれる

・お金は生きていく上で必要なもの

・たくさん稼がなくてもいいから、自分自身が応援したい人と仕事をしたい

南さんが思う大切なこと

・つくることはもちろん大事だけど、それと同じくらい最初の打ち合わせも大事

・相手が何をしたいかを聞き出す

・お客さんの手に渡るものなので、最後まできちんと確認する

・デザインする側がどんな人にも伝わるデザインを勉強して、考えて、設計する

・記憶に残るデザインを考える

・自分だったらもっとこうしたいという気持ちを大事にする

・たくさんのことを経験して、いろんなものを見て、自分の引き出しをどんどん増やす

・自分が好きだな、やってみたいな、興味あるなと思ったことをやってみる

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【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:かのぴ、わー、みかん
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:スナミアキナ
サムネイルデザイン:スナミアキナ
編集:吉川ゆゆ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO