インタビュー記事

第21回  子どもも大人も笑顔になれるまちづくり「まちづくりコーディネーター」 並木優さん【前編】

今回のお相手:並木なみきゆうさん

株式会社クオルで、エリアマネジメントにかかわる仕事しごとをしている。東京とうきょう新宿しんじゅくにある「みちくさくらす」のオーナーでもある。仕事でもプライベートでも、まちづくりにはげんでいる。子どもが二人いて、子どもに楽しくはたらはは姿すがたを見せたいと、毎日まいにち笑顔えがおで働くお母さん。音楽が大き。

子ども取材班しゅざいはん

No.9 わー:
にわとりの世話せわをがんばっている。書道しょどうきゅうが上がったことがうれしかった。

No.12 虹太こうた
お母さんが読んでいる新聞を、自分じぶんも読むことをがんばっている。山を散策さんさくして木を切ったことや、ビームライフルの体験たいけんをしたことが嬉しかった。

生活をするためにお金をかせぐ仕事のことを「生業なりわい」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。

今回のゲストは並木なみきゆうさんです。まちづくりコーディネーターって、いったいどんなお仕事なのでしょう?

わー、虹太:
よろしくおねがいします。

並木さん:
よろしくお願いします。

まちづくりは人と人がつながるきっかけになる

わー:
子どものころ、どんな大人になりたいとおもっていましたか?

小学生の頃はピアノの先生になりたいと思っていました。ピアノやエレクトーンをならったり、合唱がっしょうをしたりと、とにかく音楽が好きだったので。

でも、あまり職業しょくぎょうについてはかんがえていませんでしたね。おや親戚しんせき営業えいぎょうをしていたので、自分じぶん会社かいしゃつとめるイメージはあまりありませんでした。

自分でなにかを生み出していく仕事がしたいなと、なんとなく思っていたかな。大人になってから、父や祖父そふおなじ職業を目指めざせばよかったと後悔こうかいしました(笑)。

自営業=自分で仕事を生み出して働いていること

勤める=会社やおみせなどで働くこと

祖父=自分のおじいさん

虹太:
おじいさんの職業はなんだったんですか?

だれかがくなったときや、いえ土地とちったりったりするときに手続てつづきをする、司法しほう書士しょしという資格しかくって自営業で仕事をしていました。

わたし栃木とちぎのすごく田舎いなか出身しゅっしんなんですが、祖父はそこで町長ちょうちょうもやっていました。自分でいろんなことをやっている人だったので、「すごいなあ」「いいなあ」と思っていましたね。

好きなものや興味きょうみから、なんとなく「こうなりたいな」と思うことはありましたが、将来しょうらいのことを全然ぜんぜんかんがえてはいなかったな。

亡くなる=ぬこと

栃木とちぎにある並木さんの実家じっか

虹太:
あこがれていた人はいますか?

家族かぞくみんなのことをすごいなあと思っていました。家族を尊敬そんけいしていたんだと思います。

また、高校こうこうのときの音楽の先生に憧れていました。本当にいい先生で、おかげで音楽をよりきになったし、合唱で楽しい時間をごせました。

わー:
並木さんの職業名はなんですか?

一言で言うのはむずかしいですけど、「まちづくりコーディネーター」です。

私は会社いんで、ざっくり言うとまちづくりの仕事をやっています。また、コミュニティスペース「みちくさくらす」のオーナーです。

コミュニティスペース=まちの人たちがあつまって交流こうりゅうする場所ばしょ

虹太:
つまり、何をしているお仕事なんですか?

みちくさくらすは、3年前から近所きんじょに場所をりて、おっとと二人で運営うんえいしています。子どもけのイベントや、人が集まるきっかけづくりとなるイベントをしています。

会社でも、同じようなことをやっています。まちづくりは、ただ新しい建物たてものてるだけではありません。イベントの企画きかくや、いろんな仕掛しかけを考えながら、まち全体ぜんたいり上げるようにしています。

私は自分がその場で何かをするというよりは、いろんなスキルを持った人を集めてきて、つないだり、人と人がつながるきっかけづくりとなるイベントを考えたりしています。

夫=結婚けっこんしている相手あいて(男の人)

企画=アイデアを出して計画けいかくを立てること

スキル=技術ぎじゅつ

わー:
なるほど。

くわしく言うと……例えば、2人はどのあたりにんでいますか?

わー:
茨城いばらきけんです。

茨城なんだ!虹太くんは?

虹太:
愛知あいち県です。

愛知県!そっかあ、みんな東京都内とないあたりだと思ってた!私は栃木出身なので、茨城はちかいですね。愛知は旅行りょこうで行ったことがありますよ。

そうだな、じゃあ駅前えきまえをイメージしてみて。つくばや名古屋なごやの駅前には、大きなビルが建っていると思います。そのビルは人が住むおうちなのか、会社が入っているのか、はたまたごはんさんやお洋服ようふく屋さんなどのお店が入っているのか。

全員:
ビル、あります。

あるよね。そんなふうに大きな建物を建てたり、まちを整備せいびして雰囲気ふんいきえていくことを「開発かいはつ」とびます。でも建物を建てるだけでは、まちはよくならないし、元気にはならない。

そこで、じゃあどうしたらまちが盛り上がるかを考える。考えて提案ていあんをして、それを運営、実行じっこうする仕事です。具体ぐたいてきに言えば「どんな仕組みで活動をやっていくか」「お金はどうするか」などですね。

それって、1人じゃできないと思うんだよね。じゃあどういうチームを組んでやるのか、を考える。人と一緒に地域ちいきのコミュニティをつくったり、 魅力みりょくを上げたりすることを目指めざして、コンサルティングをしています。これを「エリアマネジメント」といいます。

会社とみちくさくらすでは、やっていることの大きさはちがうけれど、どちらもまちにかかわる仕事です。私にとっては仕事をしている感覚かんかくがなく、毎日楽しくまちのことを考えています。

整備=ととのえること

みちくさくらすが、地域ちいき保育ほいくえん大学だいがくせい協力きょうりょくしてもらっておこなったアートイベント

わー:
コンサルティングって何ですか?

たとえば、まちを大きく開発しようとするのは、建物を建てる会社や電車でんしゃはしらせている会社、不動ふどうさん会社が多い。でも、じゃあどういう風にまちづくりをやったらいいのか、専門せんもんじゃないからわからないんですね。

そこで、まちづくりのプロである私たちの会社に、「どういう風に開発したらいいですか?」と依頼いらいがくる。そこで私たちは「こういう風にやると、もっとよくなると思いますよ」というアドバイスをする。開発しようとしている会社たちが、「なるほど」「じゃあそれでやっていこう」と納得なっとくするようなお手伝いをする。

これを「コンサルティング」と呼んでいます。アドバイスやお手伝てつだいをして、開発がいい方向ほうこうに進むようにしています。

不動産=土地や建物を管理かんりする仕事

専門家=その分野ぶんやのプロ

依頼=ものごとをたのむこと

身近なところから生活を変えたい

虹太:
エリアマネジメントって、会社で具体的にどういうことをするんですか?

エリアマネジメントは、開発するときに「どんなまちづくりをやっていこうか考えていく」役割やくわりです。会社のホームページをお見せしますね。

私は「クオル」という会社で働いています。「エリアマネジメント専門まちづくり会社」と書いてありますね。

例えばむかしは、役所やくしょ役所やくしょなどの公務員こうむいんが、「ここでは20年かけて、こういうまちづくりをしよう」とめていくようなまちづくりの仕方しかた普通ふつうでした。

でも今は、市や区でまちをつくっていく時代から変わってきているんです。大きい建物をひとつ建てるときでも、「みんなで同じ気持ちを持ってまちを盛り上げていこう」というまちづくりの仕方がえています。

住んでる人だけではなくて、建物、人、地域資源しげんをつなげる。そして地域の魅力を地域全体でアピールして、発信はっしんして、いろんな人に知ってもらおうとしている。こういう取り組みのことを、エリアマネジメントと呼んでいます。

今あちこちで、エリアマネジメントを使ったまちづくりが増えています。古い公園を直すだけじゃなくて、いろんな仕組みを考えて、もっと人が来るようにするのもエリアマネジメントです。

発信=いろんな人に知ってもらうために動くこと

地域資源=その地域の魅力となるもの、特徴とくちょうとなるもの

クオルがみちくさくらすで行った、ワークショップのようす

わー:
並木さんは、なぜみちくさくらすをはじめようと思ったんですか?

私はもともと、公務員こうむいんとして東京都内の自治体で働いてました。自治じちたいには、そのまちに住んでいる人が来ます。私は大学で、まちづくりや土木どぼく建築けんちくを学んでいたので、それを活かして、まちやまちの人たちと関わりたかったんです。

公務員を経験けいけんしてみて、もちろんまちの人とは距離きょりが近かったです。でも公務員というのは、融通ゆうずうがきかないところがあったり、できることがかぎられてたり、行動こうどう制限せいげんがあったりと、私にとってはマイナスのめんが多く、自分がやりたいと思っていることが実現じつげんできませんでした。

公務員として働くうちに、働いている自治体ではなくもっと身近なところで、自分の生活を変えていくような活動ができないかと思うようになりました。

自治体=どうけんちょうそんなど、地域の人のために働いている団体

土木=トンネル、はし道路どうろなどをつくること

建築=学校、会社、家などの建物を建てること

融通がきかない=その場その場に合わせた対応たいおうができないこと

制限=限られること

わー:
なるほど。

私には、もうすぐ小学生になる子どもがいるので、それぐらいの子どもが集まったり、お母さんたちが集まったりする場所が近所にしかったんですよね。いずれ来る「小1のかべ」への不安ふあんもあったし、その頃はいざというときに頼れるご近所さんもいませんでした。

そこで、自治体をめる直前からみちくさくらすの活動を始めました。自分で始めるので制限はないし、自分が好きなことやつくりたい場所を、自分の思うようにつくっていけますから。

虹太:
「小1の壁」ってなんですか?

2人はもう高・中学年だし、学童がくどうには行っていないかな?

虹太:
行ってないです。

そっか。私も夫も働いているんだけど、お母さんお父さんが働いていると、学童に行く子もいます。でも東京都内では最近さいきん、子どもの人数が多くて学童に入れない、という話を聞くようになりました。日本では、まれてくる子どものかずっているのが問題なのに、不思議だよね。

保育園では、夜6時頃まで子どもをあずかってくれるところが多いです。だから親が仕事をしていても、子どもの場所がありました。でも小学校になると、低学年はおひるの1時や2時に学校が終わってしまう。

親の仕事が終わるまでの数時間を過ごすために、学童があります。でもその学童がいっぱいで入れなくなっています。小学生になった途端とたん、お母さんとかお父さんの負担ふたんが増えちゃう。そんな風に頭をなやませることになっているのが、「小1の壁」です。

たくさんの思いを込めた、みちくさくらす

わー:
クオルのお仕事は、なぜ始めたんですか?

みちくさくらすでは、子どものことや、地域のことに取り組めて楽しいです。自分のやりたかったことは、みちくさくらすで実現しました。でもやはりみちくさくらすはお金を稼ぐことが目的もくてき活動かつどうではないですし、とても小さな活動です。まちの仕事をもっと大きな視点してんで見られるような仕事をしながら、自分の活動も続けていこうと思いました。

えんがあってクオルに就職しゅうしょくしたところ、やはりみちくさくらすとやっていることが近かった。公務員の頃は、大学を出て、同じような学部を出て就職してきた人が多かったけれど、クオルは20人ぐらいの小さな会社で、カメラマンをやっていた人や海外で仕事をしていた人など、いろんな仕事や経験をしている人が多くて。建築やまちづくりとは、全然関係ない仕事をしていた人もいますね。

みんなでまちの話題を共有きょうゆうする中で、会社の人に魅力を感じ、2年くらい働いています。

視点=ものごとの見方みかた

就職=働く場所が決まること

共有=け合うこと

みちくさくらすの取り組みがすばらしいと、しょうをもらった

虹太:
みちくさくらすという名前はだれめたんですか?

私と夫で考えて決めました。みちくさくらすは、古い建物をりて、中をきれいに直して使っています。ホームページをお見せしますね。

子どもたちが安心して、時間をもっと有効ゆうこうに使える場所をつくりたかったんですよね。あとは、おいしいご飯が食べられる場所や子どものことなど、らしに密着みっちゃくした場所をつくりたいという思いもあります。

ホームページには「暮らすキッチン」って書いてありますね。暮らしに密着しているという意味いみで、みちくさくらすの「くらす」は「暮らす」。それから「教室きょうしつ」を英語えいごにした「クラス」。

「みちくさ」は、放課後ほうかごちょっとるという意味で「道くさう」の「道草」。それから、近くの早稲田わせだというエリアに、夏目なつめ漱石そうせきんでいた場所があります。夏目漱石が住んでいた場所が近いので、「みちくさ」とけたのもひとつ。

夏目漱石って知ってるかな?『ぼっちゃん』とか、『吾輩わがはいねこである』とか。

密着=くっついていること

夏目漱石=日本の作家さっか

全員:
知ってます。

有名ゆうめいだよね。かれは『道草』という小説しょうせつも書いています。猫も夏目漱石から連想れんそうされるので、ロゴマークに猫を使っています。

連想=あることから、さらにつながって思い浮かぶこと

虹太:
みちくさくらすのロゴもかわいくて気に入ったんですが、誰がデザインしたんですか?

私と夫は同じ大学で、そこで出会った友達ともだちがつくってくれました。友達はまちづくりの仕事もしながら、絵をずっといています。ロゴをつくったり、ポスターを描いたりするのが上手じょうずなんです。

ロゴのイメージは私と夫で考えました。猫の絵が付いていたらおしゃれだなとか、女の子が本当ほんとうにみちくさしてかえってるような感じがいいよねとか。「みちくさくらす」の字も、かわいくてゆるい感じの字にしたいと、そんな風にイメージを伝えてお願いしました。

わー:
どうやったらまちづくりコーディネーターになれるんですか?

建築やまちづくりについての専門的な知識ちしきは、あるとよりいいです。例えば夫は一級いっきゅう建築けんちくという資格を持っています。建築について専門的なことや、法律ほうりつについて学んできました。ほかにも建築やまちづくり、開発に関係する資格はたくさんあります。

まちづくりをするのに特別な資格はいらないけれど、私が会社で必要ひつようだと思うのは、コミュニケーションの力です。さっきコンサルティングの話をしましたよね。

コンサルティングは、新しいことや難しいことを解決かいけつする案を出して、相手あいてが納得してくれるように、わかりやすく話します。理由りゆうも伝えながら、説明せつめいする場面ばめんもたくさんあります。それに、いろんな会社の人と話すことも、まちに住んでいる人と話すこともとても多い。だから相手とうまくしゃべる力も必要です。

例えば「住んでる場所が近いね」とか、小さなところから会話を広げる力も、大事なのかなと思います。特別な資格はいらないけど、そういう力があると、さらにおもしろい仕事ができるんじゃないかな。

法律=国の決まり

魅力的な人たちに出会える仕事

大人も子どもも集まるみちくさくらす

虹太:
並木さんのやる気は、どこからわいてきますか?

すごくいい質問しつもんですね。うーん、なんでしょうね……。公務員だったときは、制限がいろいろあったり、できないことがすごく多かったりして、やる気がってしまうことがありました。

今は、仕事もみちくさくらすの活動も、あと子そだてしている毎日も楽しいです。きっとどれも実際じっさいに、自分のこととして考えられているからなんじゃないかな。みちくさくらすでいうと、自分の好きなことを自分の好きなように、しかも自分の生活に密着したところでできる。それがやる気につながっています。

例えば2人も、得意とくい教科きょうかとそうじゃない教科がありますよね。得意な教科は勉強していて楽しいと思います。それと一緒で、自分が興味があって、自分の毎日につながっていることは、どんどんやりたくなるんです。

それがそのまま仕事になっていることが、私のやる気につながっていると思います。

虹太:
並木さんは、つねに行動力があるタイプですか?

行動力はあると思います。何かやろうと思ったら、すぐやっちゃう。逆に行動が早すぎて大丈夫?というところもあるけれど。

「ああなったらどうしよう」「こうなったらどうしよう」といろいろ考えて、計画を立ててからやる人もいると思います。でも私はやりながら考えるタイプ。「とりあえずやってみよう」「やってみてできなかったら、あとから考えればいいし、何とかなるだろう」と思って、始めちゃいます。

子ども時代じだいに感じていたことや、人とまちとのつながりの大切さ、そしてまちづくりへの熱いおもいをお話ししてくださった並木さん。後編こうへんでは、子どもたちが楽しく生きられる世界とはどんなものか、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係についても聞いていきます。

【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:わー、虹太
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:吉川ゆゆ
サムネイルデザイン:南 裕子
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO