今回のお相手:國吉美貴さん
鳥取県の大山のふもとで、「國吉農園」を経営している。家族と仲間と一緒に、「食べるとおいしくて幸せになれる野菜」をつくるため、日々頑張っている。大学時代にアフリカのタンザニアに行ったことがきっかけで、野菜とお米をつくり始めた。毎年小学校に行って、6年生に農業の話をするなど、子どもたちにも農業のことを伝える活動をしている。
子ども取材班
No.1 ケイティ:
空手や書道を一生懸命がんばっている。空手で館長賞を取ったことが嬉しかった。
No.5 かのぴ:
画力を上げることを頑張っている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことが嬉しかった。
ずるしては稼げない仕事
かのぴ:
この職業の魅力と大変だと思うことは何ですか?
魅力は、「生きてる」感じがすることです。起きて日に当たって、体を動かして。体を動かすと、お腹が空いて何食べてもおいしいし、ぐっすり眠れる。働く時間も自分で決められるし、自分のペースで進められます。
大変なことは、自然の天候に左右されることです。雨や大雪だと外での作業ができません。でも雨が降らなすぎると、野菜は枯れてしまいます。
体力的にしんどい部分もけっこうあります。ずるして稼げる仕事ではないですね。
ケイティ:
いい作物ができたとき、どんな気持ちですか?
すごく嬉しい。生き物を育てている仕事だから……そうですね、僕にも子どもがいるんですが、農業もまるで子育てをしているような気持ちですね。育つとすごく嬉しいし、かわいいです。
作物=この場合はお米や野菜
かのぴ:
生まれ変わってもまたこの仕事がしたいですか?
うん、生まれ変わってもまた農家になります。
かのぴ:
またなりたいと思う理由はなんですか?
めちゃくちゃ楽しいから!毎日楽しいので、遊んでいるような感覚になるときもあります。
ケイティ:
生まれ変わったら、どんなところで農家をしていると思いますか?
もう一回大山でやっていると思います。そう思うくらい、大山はやっぱりいいところなので。
ケイティ:
農家のお仕事を、今の子どもにおすすめできますか?
食べ物をつくることができれば、何があっても生きていけるので、食べ物を生み出す農業はとてもおすすめです。でも、向き不向きがどうしてもあると思う。
大事に手をかけて育てても、自然災害で一発でだめになることがあります。精神的にへこむので、精神力が強い人や切り替えがうまい人は合うかもしれません。あとは地道な作業が多いから、本気で農業を好きになれそうな人、本気でやれそうな人にはすすめたいですね。
体力が必要だし、意外と頭を使う作業もとても多いので、本気でやらないとうまくいかないことが多いです。
自然災害=地震や津波、雷など、自然が起こす危険
精神=気持ち
ケイティ:
意外と頭を使う作業ってどんなことですか?
野菜を植えるとき、植えるのは簡単にできるんです。それまでに何をしておかないといけないかなどを考える「段取り」が必要です。
たとえば苗を3月3日に植えるとなると、いつ種をまいて、畑を耕して畝をつくり、手で植えるか機械で植えるかを考え、機械は動くよう整備し、苗を畑まで運ぶのはどうすれば効率がいいか、などの段取りがあります。
セッティングも計画も頭を使います。どこの畑に今年は何をつくるかなど、前もって計画しておかないといけない。パズルみたいですね。
苗=種よりも少し成長して葉が出たもの
畝=作物をつくるため、土をまっすぐ細長く盛り上げているところ
効率=実際に使った力に対しての結果がどれくらいか
整備=整えること
体力も頭も、めいっぱい使っている
もっと農業を知ってほしい
かのぴ:
これからやっていきたいことはありますか?
実は、自分の子にも農業をやってほしいと思っています。前の会社は農業体験ができるところだったんですが、そんなふうに農業に興味を持ってくれる人を増やす活動をしたいです。
今は大山の観光局と農業体験ツアーをやっているので、気軽に農業を体験して、野菜やお米がどうやってできているのかをたくさんの人に知ってもらいたいですね。
観光局=観光について考えたり伝えたりする仕事をするところ
かのぴ:
わたしは将来インターネットの旅行情報誌をつくる人になりたくて、一番やりたいのが農業体験の プランなんです。ずっと思っていたので、今日そのお話を聞けて嬉しいです。
いいね、嬉しい。大きくなったら一緒にやろうよ。
かのぴ:
嬉しいです!では次に、フードロスについて何か取り組んでいることはありますか?
野菜をつくっていると、余ってしまって売れなくなる、買い取り手がいなくなる時もあるんですよ。 取引先の中には、それを集めて買い取ってくれるところがあります。普通に売るよりはすごく安くはなってしまうんですが、そういうところに出荷して廃棄を減らしています。
あとは家の周りの人に「自由に取りに来てください」と言ったり、SNSで「欲しい人はどうぞ」と呼びかけたりもします。なので、無駄にしてしまうことはあまりないですね。
フードロス=まだ食べられる食べ物をむだにすること
取引先=仕事相手
廃棄=捨てること
かのぴ:
物々交換もしますか?そしたら野菜もお肉も買う必要がなさそうです!
そうだね、うちはイノシシも食べるんだけど……実は狩猟免許も持っているんですよ。
物々交換=お金ではなく物と物を交換して手に入れること
狩猟=動物の狩りをすること
ケイティ・かのぴ:
え!
今はちょっと忙しくて狩猟はできていないけどね。近所に同じく狩猟をやっている方がいて、「野菜と交換しよう」と言ってくれることもあります。たしかに物々交換をよくやっているかもしれない。そう思うと、買い物に行くことは多くないですね。
ケイティ:
國吉農園さんの野菜を食べて、大根が一番印象に残りました。なんであんなに甘くておいしくできるんですか?
(実はケイティは取材前に、國吉農園さんの野菜を取り寄せて食べていました。國吉さん以外は知らなくてびっくり!)
食べてくれてありがとう!大根はね、雪にあたったのがひとつ。雪にあたると、野菜は凍らないように水分を糖分に変えるんです。だから寒くなると野菜が甘くなる。今年は3回くらい雪にあたっているので、うちの大根は生でかじると甘くて梨みたいですよ。
ケイティ:
雪にあたって、水分が糖分に変わって、甘くなるんですね。
そうそう。あとは水やりをしっかりしたので、ちゃんと水分を含んだ大根になりました。だから食感も柔らかく、みずみずしくておいしくなっているんだろうなと思います。
雪にあたると、野菜は甘くなる
農家は天職
ケイティ:
「働く」ということについてどう思いますか?
働くとは、生きる上での生活の一部だと思っています。ご飯つくって食べるとか、子どもと一緒にお風呂入って寝るとか、本を読んだり勉強したりとか、そんな生活の一部。
かのぴ:
「お金」についてはどう思いますか?
お金とは、生活の道具のひとつだと思っています。さっき物々交換の話が出ましたよね。それができるとモノには困らないけど、成り立たないこともあります。
でもお金は、みんなに共通で、共有できるものです。野菜は保存できないけど、お金は腐ることもない。保存ができて、共通の価値があって、必要なものと交換もできる。お金は便利な道具だと思います。
共有=分け合う
価値=どれほどすばらしいか、またどれくらい大切かということ
ケイティ:
道具というと……?
使い方によって便利になるもの。僕の場合は、野菜をお金に替えることで今の世の中で使える道具になります。それを銀行で貯めたり、レストランに行ったり、本を買ったりすることができますよね。自分では生み出せないものに替えることができます。お金を道具として使うことで、人生を豊かにできるんじゃないかなと思います。
ケイティ:
よくわかりました!
かのぴ:
「お金を稼ぐ」ことについてはどう思いますか?
お金を稼ぐことは、自分の努力の結晶であり、結果だと思っています。
結晶=ものごとが積み重なって形になること
ケイティ:
お給料はどうやって決まりますか?そして満足していますか?
僕は給料はなく、自分でつくった野菜やお米を売った分だけ収入になります。 今のお金には十分満足しています。
つくって売った分だけちゃんと収入になるけど、働きすぎると時間がなくなる。他に自分がしたいことがあっても、その時間を農業に費やすから収入が増えるんだけど……バランスが大事かなと思います。
今はあまり自分の時間は持てていないですね。もう少し野菜をつくる量を減らそうかなと思っているところです。
ケイティ:
じゃあ天候が悪くて野菜が採れないときは、収入が減っちゃうんですか?
さっきつくって売った分が収入になるって言ったけど、働いている人たちには毎月決まったお給料を払っています。会社の社員みたいにね。なので農園の収入が減っても、その2人にはお給料を払います。
例えば大雪で野菜が採れなくて収入がうんと減った月などは、貯金を崩してやりくりすることもありました。その分を、半年後くらいに他の野菜の収入で埋め合わせをしたり、予定を変更したりして頑張っています(笑)。
かのぴ:
何のために働いていますか?
生きるために働いてます。あと、楽しいから働いてます。シンプルです。
ケイティ:
生きるためと楽しいからはどっちのほうが大きいですか?
いい質問!うーん、半々じゃないかな。自分で天職だと思うので。もともとは食べて生きていくために始めたけど、今はそれが自分に合っていると思います。いろんな人にも会えて世界が広がるし、楽しいです。
ケイティ:
てんしょくってどういう意味ですか?
自分にぴったりの仕事。好きな仕事の中でも、つらいことややりたくないことってあるけど、全部ひっくるめて自分に合ってる仕事を天職といいます。
ケイティ:
なるほど、ありがとうございます。
かのぴ:
「働く」と「お金の関係」についてどう思いますか?
循環するものだと思っています。 働いて、野菜がお金になって、お金を自分の人生が豊かになるように使って、それが必要としている人のところに届いて……の繰り返しで人生を楽しくすごしたいなと思います。
循環=まわって戻ってくることを繰り返すこと
ケイティ:
最後に、子どもたちにメッセージをお願いします!
新型コロナウィルスの影響などで、生きづらい世の中だなって思うこともあるけど、本当に大切なものを見失わないように生きてほしいです。自分の中に芯を持つことが大事です。
今いろんな情報がインターネットなどでも入ってくるけど、お金やケイタイさえあれば何でもできるようになるわけじゃない。生きていく中で本当に大事なことは何か、必要なものをしっかり考えて育ってほしいです。周りの情報にぐらぐらさせられないように生きていってください!
何かあればどんどん周りの大人も頼ってほしいと思います。
ケイティ・かのぴ:
ありがとうございました!
農家ってどんな仕事?
・お米や野菜など、食べ物をつくっている
・午前中に畑に出て、午後に収穫した野菜を袋に詰めたり、段ボールに入れて送る準備をしたりする(國吉さんの場合)
・野菜の種をまいて芽が出たものや、それをもう少し大きくして畑に植え替えたものに水をあげて育てる
・できるだけ手作業で育てる(國吉さんの場合)
農家の魅力と大変なこと
・「生きてる」感じがする
・起きて日に当たって体を動かすと、お腹が空いて何食べてもおいしい
・働く時間を自分で決められ、自分のペースで進められる
・自然の天候に左右される
・体力的にしんどい
・ずるして稼げる仕事ではない
農家という仕事をおすすめできる理由
・食べ物をつくることができれば、何があっても生きていける
・地道な作業が多いので、本気で農業を好きになれそうな人、本気でやれそうな人におすすめ
・何を勉強しても役に立つ
・とにかく楽しい
「働く」と「お金」の関係
・働くとは、生きる上での生活の一部
・お金は、保存ができて、共通の価値があって、必要なものと交換もできる便利な道具
・お金を道具として使うことで、人生を豊かにできる
・お金を稼ぐことは、自分の努力の結晶であり、結果
・「働く」と「お金」は循環するもの
國吉さんの思う大切なこと
・食べることは生きること
・仕事とお金のバランス
・シンプルに生きる
・本当に大切なものを見失わないように生きる
・自分の中に芯を持つ
・周りの情報にぐらぐらさせられない
・何かあればどんどん周りの大人を頼る
こんなお話しもしました
かのぴ:
お米や野菜以外にも、育てているものはありますか?
うちは原木しいたけも育てています。実は鳥取は「日本きのこセンター」というところがあって、日本で一番しいたけの研究が進んでいるんですよ。すごくおいしいし、品種の開発も進んでいます。「青空レストラン」という番組でも、しいたけが取り入れられたこともあります。
秋になったら山の木を倒して乾燥させ、3月くらいにドリルで穴を開け、キノコの菌を入れていく。今は1年くらいで生えてきて収穫できます。
僕はやっていないけど、大山は芝生も有名です。鳥取は、日本で2番目に芝生が多く生産されている地域。サッカー場やゴルフ場、甲子園にも使われています。
あと有名な和牛も、もともと鳥取で生まれていることが多い。友達は自分で仔牛を育てて競りに出し、その仔牛が地方の牧場で大きくなり、神戸牛や松坂牛と呼ばれるブランド牛になっています。鳥取にはそんな農家さんもいっぱいいます。
原木しいたけ=木に菌を入れて、自然の中で育てたしいたけ
品種=種類
開発=新しいものを生み出したり、使えるようにしたりしていくこと
甲子園=兵庫県にある野球場
競り=買いたい人たちで値段を言い合い、その値段を決める仕組み
國吉美貴さんのSNSと國吉農園のホームページ
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:ケイティ、かのぴ
編集部:スナミアキナ、吉川由
ライティング:吉川由
編集:スナミアキナ
編集長:吉川由
主催:YOKARO