今回のお相手:南 裕子さん
岡山県備前市出身で、今は神奈川県に住んでいるグラフィックデザイナー。デザインに興味を持ち、大学生の頃から演劇のチラシやパンフレットのデザインをしていた。大学卒業後、デザインの専門学校で本格的にデザインを勉強して独立。地域や文化にも興味があり、地元である備前市や瀬戸内の魅力も発信している。
子ども取材班
No.5 かのぴ:
画力を上げることを頑張っている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことが嬉しかった。
No.9 わー:
にわとりの世話を頑張っている。書道の級が上がったことが嬉しかった。
No.13 みかん:
勉強やダンスを頑張っている。水槽から飛び出した魚が生きていて、元気になったことが嬉しかった。
デザインの力で地元を豊かにしたい
かのぴ:
南さんがこれからやっていきたいことはなんですか?
地元の子たちに、デザイナーのやりがいやおもしろさを伝えたいです。
私が子どもの時は、地元にデザイナーがいなかったんですよ。もしかしたらいたのかもしれないけれど、出会う機会がありませんでした。だから、地元に関わるデザインをしたいし、「デザインの仕事を通じてこんなこともできるよ」って伝える機会をつくりたいです。
それに今はグラフィックデザインを専門にしていますが、これからは文化や地域がもっと豊かになるための「仕組みのデザイン」もしていきたいです。
専門=プロとしてその仕事をしていること
かのぴ:
仕組みや地域とデザインのことも含めて、今まで活動してきたなかで、具体的にどんなことで地元の方と関わってきましたか?
備前焼の文房具をつくりました。
かのぴ:
備前焼の文房具?
焼き物を文房具にすれば、いろんな人に備前焼を伝えられそうだと思って、地元の仲間と企画した商品です。
備前焼は、焼き方によっていろんな柄ができるんですね。たとえば焼き物を焼くときに、お皿の上に藁を置いて窯に入れると、こういうふうに線がつくの。
器としてだけではなく、一筆箋やノートなら気軽に備前焼を買ってもらえるし、誰かに手紙を書いたりおみやげとして渡せるよね。
この企画をやってみて、今まで焼き物には興味がなかったけど文房具が好きな人が興味を持ってくれました。それに、「地方でおもしろいことをやってる人たちが好きだ」という人が集まってきてくれて、今まで知り合えなかった人と出会えたり、交流が広がったりしました。
一筆箋=ひとことメッセージを書く紙のこと
かのぴ:
交流のきっかけにもなるんですね。
そうだね。ものづくりは、人と人とのつながりをつくることもできます。「こういうことをしたい」と話していたら、自然と仲間が増えていくんだよね。ぶつかったり賛成したりして意見交換をすると、考えてもみなかったアイデアがうまれることもあります。
ものづくりを通じて、その土地のよさに気づいてもらう仕組みや、仲間を増やす仕組みをデザインしていけるといいなと思います。
かのぴ:
仕組みとデザインってそういうことだったんですね。
仲間たちと企画して作った備前焼の便箋
「こうだったらいいのに」という気持ちを大切に
わー:
ではここからは、「働く」と「お金」の関係についても聞いていきます。「働く」ということについてどう思いますか?
先にみんながイメージする「働く」について聞いてみようかな。わーちゃんはどうかな?
わー:
私は、「必要なこと」というイメージです。
生活にとって必要なこと?
わー:
はい。
みかんちゃんはどう?
みかん:
私にとって働くっていうのは、「周りとの関係を保つこと」。
おぉー深い。周りとの関係ね。
みかん:
そう。新しいこととかにも触れることができると思うので。
たしかにそうだよね。どんどん新しい世界が広がるよね。じゃあ、かのぴちゃんは?
かのぴ:
二つあります。一つ目は「意味がある」。楽しまないと仕事って続けられないから、「働く=楽しいことをしている」というイメージでありたいです。
なるほどね。楽しいことをして、ちゃんと意味があるもの。
かのぴ:
二つ目は、楽しいことといっても、ずっと同じ楽しいことをしてもすぐ飽きちゃうから。働いて頑張ってもらったお金で温泉や旅行に行ったり…… 「働くのは娯楽のためにある」というイメージです(笑)。
娯楽=仕事から離れて楽しめるものごと
それも大事だね。みんなが言ってくれたこと全部大事だな。もちろん生活のために必要だし、仕事を通じて周りとの関係もつながっていくし、やっているからには楽しいことや意味があることもしたい。
私が高校のときに、先生から「自分が憤りを感じていることを仕事にしなさい」と言われたんですよ。
全員:
憤り?
怒りの気持ちなんだけどね。「なんでこれってこうなってるのよ!私が変えてやるわ」みたいな(笑)。怒るだけじゃなくて、自分だったらもっとこうしたいという気持ちを大事にする。好きなことを仕事にするのと、意味は同じかもしれません。
私は高校生まで地方で暮らしていたので、近所に劇場がありませんでした。だから、「なんで地方に住んでいるというだけで、演劇や文化に触れ合える機会がこんなに少ないんだろう」って憤りを感じていましたね。
地元の子たちがもっと気軽に文化に触れ合える環境をつくりたい。例えば劇場やギャラリー、美術館が増えるようなことがしたい。演劇を観る人が少ないのであれば、演劇を観るのは楽しいことなんだよって伝える仕事がしたいと思ってきました。
自分が「世の中こうであったらいいのに」と思ったことで働けたら、楽しいだろうなと思います。それで本当に変わっていくかどうかはわからないけど、今の自分ができることを、こうだったらいいなと思うことをやり切るために働いていますね。
地方=東京、大阪以外の場所のことをいうことが多い
ギャラリー=作品がたくさんかざってある部屋
南さんが手がけたデザイン
お金を稼ぐことは信頼の証
かのぴ:
「お金」についてはどう思いますか?
お金については…… そうだなあ。お金のために働くという感覚ももちろんあるし、お金がたくさんあったほうが、旅行にも美術館にも行けて嬉しい気持ちもある。娯楽も大事だからね。
ただ、お金のために仕事をしているのかと言われると…… 違う気持ちも半分はありますね。
自分や社会が「こうであったらいいのに」という気持ちや、デザイン、演劇、文化が好きという想いを仕事でも感じたい、体験したい。自分が好きなものに関わるための時間をいただいている感覚が強いんですよね。
だから、お金を手にするために仕事をしているというよりも、好きなものに関わる時間をもらうために仕事しています。
かのぴ:
順番をつけると、一番は娯楽が大事ですか?
うーん、どうだろう…… 。仕事が一番大事かな。ただ、仕事をし続けるためには生活もしなければいけないから、そのために、やった仕事に対してのお金をいただくことは必要なのかな。
かのぴ:
先ほどと少し似た質問ですが、お金を「稼ぐ」ということについてどう思いますか?
お金を稼げる人でありたいとは思っています。ただ、なんでお金を稼げるのかというと、高いお金を相手が支払ってくれるから、自分はお金を稼げるわけだよね。
じゃあなんで、相手は高いお金を支払ってくれるのか?
それは、支払う相手がそのお金の分だけ成果を出してくれるはずだと、信じてくれているからだと思うんですよ。だからこそ、信頼してお金を託してくれる。
お金を稼げる人になりたいと同時に、相手が安心して、この人に仕事を任せられると思ってもらえるデザイナーになれたらいいですね。
託す=任せたり頼んだりすること
成果=やり遂げたことで得る結果
わー:
お給料はどうやって決まりますか?満足していますか?
お給料は、基本的には実際につくるものの量やスケジュール、つくったものが実際に使われる範囲で決まってきます。一つのお店の中でしか使わないものと、全国で使われるものだと値段も変わる。そこは最初の打ち合わせでしっかりとお話を聞いて、依頼者に金額を伝えるようにしています。
あとは、大きな企画だとデザインするものもたくさんあります。例えばチラシ、ポスター、パンフレットなど、それぞれ10種類のものをつくらなければいけないこともありました。そうなると全部を自分でつくるのは大変なので、自分以外のデザイナーさんも一緒に、チームで動かなければいけない場面も出てきます。ディレクションをするのも、お仕事の一つです。
お給料には満足しているけれど、ひとつひとつの仕事にもっと丁寧に向き合いたいので、ひとつに対するお金も時間も、もう少し増やせたらいいなとも思います。
範囲=限られた広さ
ディレクション=監督のような仕事。予定を立てたりみんなをまとめたりして、どうすればうまく進められるかなどを考える。そして実際に進めたり指示をしたりすること
好きなものに関わりながら、丁寧に仕事に向き合う
「文化と地域」をテーマにデザインの仕事をする
みかん:
南さんはなんのために働いていますか?
「文化と地域のための仕事」を自分の働くテーマにしていて、誰もが当たり前に文化・芸術を愛する文化のある社会になるよう、仕事をしています。
演劇や地域で「もっとこうだったらいいのに」と思うことに対して、未来をつくるためでもあります。今まで演劇のお仕事をすることが多かったけれど、今は芸術や工藝の仕事にも関わっていきたい。誰かがつくりあげたものがみんなに愛されて、大事にされて、これから先も続いていく環境をつくるために働いていきたいです。
そのために何をするのかを考え、デザインや広報を通じて、伝えるお手伝いができたらと思っています。
工藝=普段使っているものの中でも、美しいと感じるものや、それをつくる技術のこと
デザインと広報の力で、文化や地域のよさを伝えている
かのぴ:
文化と地域のための仕事を自分の働くテーマにしているのは、どうやって働くテーマをつくってきたんですか?
「文化と地域」を働くテーマにしようと決めたのは、最近のことなんですよね。仕事をし始めたときは、演劇が好きというだけで何も考えていなかったので(笑)。だから、働いている間に失敗して壁にぶつかりながら、もがいていた時間が長かったです。
とにかく「ものをつくる人のお手伝いがしたい」と思って、いろんな会社で働いていました。そこでいろいろな働き方や仕事を経験して、時にはすごく有名な作家さんに関わらせてもらったり、たくさんお給料をいただいていた時期もあったりしました。
でも、たくさん稼がなくてもいいから、自分自身が「この人を応援したい、この人の作品をずっと見続けたい、この人の価値を社会に伝えたい」と思える人と仕事をしたいと思うようになったんです。それは誰だろうと思ったら、自分の地元の備前焼作家さんや、地域やアートに関わる人たちでした。
いろんな会社で働いて、「あぁでもない、こうでもない」って何がしたいのかを考え続けるうちに、今ここに辿り着きました。
価値=どれほどすばらしいか、またどれくらい大切かということ
わー:
最後に子どもたちにメッセージをお願いします。
とにかくたくさんのことを経験して、いろんなものを見て、自分の引き出しをどんどん増やしていってほしいなと思います。
私が今、デザインという仕事をするうえでも、たくさん漫画を読んだ経験が今の自分につながっているし、演劇をやっていた経験も、物語をつくる方法が今の仕事に役に立っています。チームでものづくりや仕組みづくりをするときも、演劇が参考になっていますね。
だから、昔やっていたことが将来自分の仕事に活きてくるかもしれない。いつかはわからないけど、でも必ず役立つときがくるから。自分が好きだな、やってみたいな、興味あるなと思ったことは、ぜひ経験してほしいな。
全員:
ありがとうございました!
こんなお話もしました
みかん:
南さんは京都が好きだと聞きましたが、私は京都の近くの滋賀県に住んでいるんですよ。なんで京都が好きだったんですか?
小学生のときに新撰組が好きだったんだよね。新撰組の漫画をたくさん読んでいたから、京都には新撰組ゆかりの街があるし、歴史や文化も多いし、住んだらきっと楽しいだろうなと思っていました。
読んだ漫画や小説を通じて、京都に対する憧れがどんどん募っていって。いつかは住みたいなと思っていたんです。
結局住むことはありませんでしたが、今では毎年京都に遊びに行きます。きっかけは新撰組だったけど、今は新撰組以外の歴史のある場所やお寺をめぐるのも大好きです。
グラフィックデザイナーってどんな仕事?
・電車の中の広告やポスター、お菓子のパッケージ、雑貨、イベントなどのために、いろんなグラフィックのデザインをつくる
・ウェブサイトに出すためのイメージビジュアルやバナーをつくる
・印刷所への入稿や、色校正をしてデザインを調整する
・相手が期待していることや、どうしたいと思っているのかを聞き出す
・デザインだけではなく、完成するまでのディレクションをする
グラフィックデザイナーの魅力
・デザインという仕事を通じて、熱い想いを持った人と直接話をし、刺激を受けられる
・一つひとつが勉強になり、「この人のためなら頑張りたい」という気持ちになれる
・新しい表現について考えることができて、とてもおもしろい
・情報に優先順位をつけて整理できるようになると、どんな仕事にも役立つ
大変なこと
・著作権や肖像権、薬機法などの法律について知っておかないといけない
・忙しくて寝られないときがある
・相手の思いを正確に汲み取ること
・自分の頭の中のイメージ通りにデザインをつくること
「働く」と「お金」の関係について
・お金を手にするために仕事をしているというよりも、好きなものに関わる時間をもらうために仕事をしている
・やった仕事に対してのお金をいただくことは必要
・支払う相手が、そのお金の分だけ成果を出してくれるはずだと信じてくれているから、信頼してお金を託してくれる
・お金は生きていく上で必要なもの
・たくさん稼がなくてもいいから、自分自身が応援したい人と仕事をしたい
南さんが思う大切なこと
・つくることはもちろん大事だけど、それと同じくらい最初の打ち合わせも大事
・相手が何をしたいかを聞き出す
・お客さんの手に渡るものなので、最後まできちんと確認する
・デザインする側がどんな人にも伝わるデザインを勉強して、考えて、設計する
・記憶に残るデザインを考える
・自分だったらもっとこうしたいという気持ちを大事にする
・たくさんのことを経験して、いろんなものを見て、自分の引き出しをどんどん増やす
・自分が好きだな、やってみたいな、興味あるなと思ったことをやってみる
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:かのぴ、わー、みかん
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:スナミアキナ
サムネイルデザイン:スナミアキナ
編集:吉川ゆゆ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO