今回のお相手:みうらひさこさん
漁業を生業としている。東日本大震災をきっかけにボランティアとして岩手県に行き、復興支援を経験。漁業の魅力を知り、現在住む町に移住した。牡蠣とワカメを育てている。実はあまり泳げない。
子ども取材班
No.3 ゆう:
英語や水泳を一生懸命がんばっている。英語のスピーチコンテストに選ばれたのが嬉しかった。
生活をするためにお金を稼ぐ仕事のことを「生業」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。
今回のゲストはみうらひさこさん。岩手で漁業をされています。漁業女子って、いったいどんなお仕事なのでしょう?
ゆう:
よろしくお願いします。
みうらさん:
よろしくお願いします。
きっかけは東日本大震災
ゆう:
みうらさんは、子どもの頃どんな大人になりたかったですか?
どういう人になりたいかは考えたことなくて。小学生の時に漫画を読むのが大好きだったので漫画家に憧れていました。
漫画を読んで面白かったり、キャラクターにイライラしたり、漫画を通していろんな感情を教えてもらいましたね。ストーリーを読んで自分も入り込みたいと思ってました。
感情=喜び、怒り、悲しみ、楽しさなどの気持ちのこと。
ゆう:
今の職業は何ですか?
漁師とライターです。
牡蠣とワカメを育てる漁師と、少しだけど文章を書くライターの仕事をしています。
ゆう:
2つもあるんですね。ではまず、漁師について詳しく教えてください。
みんなが学校で植物を育てたりするように、私も海で牡蠣とワカメを育てています。牡蠣とワカメを赤ちゃんの状態から育てて、食べてくれるお客さんまで届けるのが仕事です。
大まかに言うと、
1. 仕込み:牡蠣・ワカメの赤ちゃんをロープに挟み込んで海へ
2. 水揚げ作業:成長したら海から陸上へ連れてくる
3. 出荷:食べられるようにきれいにして箱詰め
みんなが食べるおみそ汁や牡蠣フライなど、料理のもとになる食材を育てています。
仕込み中の牡蠣。
ワカメに光が反射して、とってもきれい!
ゆう:
ライターは、どういうことをされてるんですか?
海のことについて知ってもらう文章、暮らしの文章を書いています。こういう仕事があるんだなあといろんな人たちに知ってもらうきっかけになればいいなと思っています。水産物の紹介もします。
水産物=こんぶやワカメといった海藻と魚介類を合わせた言い方。
暮らしの記事は、選択肢を多くしたいと思って書いています。誰かの暮らしを読んだまた違う誰かが、自分の暮らし方や生き方について、参考にしたり考えたりできたらいいなと思います。
選択肢=選べるもの
ゆう:
どちらもつながってるんですね。漁師とライター、なったのはどちらが先ですか?
漁師です。ボランティアに来たことがきっかけで始めたので、スタートは2014年の4月ごろからですね。
ボランティア=お金をもらわず働いたりお手伝いをすること
ゆう:
ボランティア!?なぜしようと思ったんですか?
東日本大震災ってわかる?
ゆう:
わかります。
私が大学生のときに、今住んでいる岩手県陸前高田市にも大きな地震と津波が来て。そのせいで街の半分が壊れたんです。大学生のときにボランティアとしてそこに行き、お仕事のお手伝いをしました。それがきっかけですね。
今までまったく見たことない海の仕事に驚きながらも、興味がわきました。楽しかったので、岩手県に引っ越して今でも働いています。
ゆう:
そうだったんですか……。どうやったら漁業をする人になれるんですか?
漁師さんと知り合いになったりすると近道な気がするけど、どうやって始めたらいいかわからないかもしれないね。
漁師になるためのお仕事相談会のようなものがあるんですよ。漁師や海の仕事の方々のお話を聞くことができます。気になる人はお仕事相談会に行くのがいいかもしれませんね。
やりたい気持ちがあれば、きっと大丈夫。もし船を動かしたかったら、操縦するための免許は必要ですけどね。
ボランティアから漁師になったみうらさん。
自然の美しさや厳しさを感じられる仕事
ゆう:
お仕事の魅力は何ですか?
季節の自然を感じられることです。季節によって朝になる時間や空気が違うので、全身で季節を感じられてすてきです!夜から少しずつ朝になっていくグラデーションのある夜明けの海がとてもきれいで、ずっと見ていたくなります。自然の中で時間の流れを感じられることは、実はすごく豊かなことだと思います。
グラデーション=その色を残しながら、少しずつ色が変わっていること
また、手間ひまをかけた牡蠣やワカメを食べていただいて「おいしい」って言ってもらえるとすごく嬉しいです!「頑張ってよかった~!」という気持ちになります。
水揚げしたワカメは、きれいにして出荷される。
ゆう:
ではお仕事の中でどんなことが大変ですか?
真夏は暑すぎる、冬は寒すぎるというのを全身で感じることです。重たいものをたくさん持たなくてはいけないのも大変ですね。陸上での作業も多いけど、海の上でも作業があります。
真夏は汗だくになるし、冬は寒い海に出て手足がかじかんだりして、自然の力を全身で感じます。野外や力仕事もあるから、体力がたくさんないと大変かな。
野外=外のこと
寒いのは好き?
ゆう:
暑いよりは寒いほうが好きですけど、聞くだけで大変そうです。他に育ててみたいものはありますか?
ウニ。ウニはかわいいですね。かわいいと思って見てしまいます(笑)。牡蠣を取っていると1センチくらいのウニがくっついてくるんですよ。
ゆう:
へえ~!私は、ウニも牡蠣もあんまり食べたことないんです。牡蠣フライ以外にも、牡蠣をおいしく食べる工夫はありますか?
牡蠣の炊き込みご飯が好きなんです。牡蠣からすごくダシが出る。おいしいです!あと私は牡蠣を餃子の皮で包んでネギと一緒に牡蠣餃子にもします。
ただ、日常的に牡蠣をたくさん見ていることもあって、牡蠣はあんまり食べないですね。遊びに来た友達がいると一緒に食べますが。わかめは時期が限られるので3,4月はよく食べますよ。
日常的=毎日の生活
時期=決まった期間のこと
ゆう:
なるほど、おいしそう……!みうらさんは生まれ変わってもこの仕事がしたいですか?
そうですね、したいです。おもしろいし、自然と接する仕事ってすごくいいなと思っていて。人と接するのも楽しいけど、自然と接することで、大変なところやきれいなところをたくさん感じられますからね。
水揚げされた牡蠣。
人間には、なくてはならない仕事
ゆう:
今の子どもたちにみうらさんの仕事をおすすめできますか?
できます。
ゆう:
それはどうしてですか?
漁師だけではなくて農家さんなどもそうですが、食べ物に関わる仕事って大切な職業だと思うんです。大切だし、ないといけない。そういう仕事ができているのがありがたいですね。
自然と生き物が相手だからコントロールはできないし、大変な部分も多いです。でも、たくさん手をかけて育った食材や獲ったものを食べてもらった時の感動はものすごいです。
食べ物を自分で育てたりする力があるということは、生き延びられる力をつけることにもなると思っています。人間というのは、昔から長い間そうして生きてきた生き物ですしね。
向き合っている生き物の命があって、私たちの口に入る食べ物になっています。そういう仕事に関わってくれる人が多くなるのは嬉しいです。
だんだんと夜が明けていく。
「働く」と「お金」について
―ここからは、「働く」ことと「お金」の関係についてもお聞きしていきましょう。働く大人はこの二つについてどのように考えているのでしょう?
ゆう:
まずは、「働く」ということについてどう思いますか?
「働く」というのは、「生きること」だと思います。
学校に行って友達と接したり習い事や家族と過ごしていたら、1日は終わりますよね。ゆうちゃんにとっての学校が、私にとっての働くことです。働いている時間って、1日の中の3分の1もあるから、生活する上でとても大事な部分だと思います。
楽しいことだったら働くのが楽しい時間になるし、そうでなければ苦しくなる。苦しいなという時間が長いのは嫌だなあ。暮らしの中での大半が働くことです。いろんなことを経験することができますね。
ゆう:
「お金」についてはどう思いますか?
生きていく上で本当に大事。欲しいものを買ったり、暮らしたりしていくのに必要なものです。自分が暮らせるくらいは、お金はあったほうがいい。あったほうが、できることも増えると思います。
ゆう:
ではそのお金を「稼ぐ」ということについてどう思いますか?
どれくらい稼ぎたいかにもよりますが……。稼ぐというのは、自分がこれからどういう風に生きていきたいかというのを考えることかもしれません。どんな暮らしをしたいか、どんな生き方をしたいかによって、変わってくると思います。
一日の自然の流れを全身で感じることができる。
続けることが、いつか宝物になる
ゆう:
お給料は、どうやって決まるんですか?
私の場合だと、毎月固定のお金ではなく、どれくらい働いているか、頑張っているかによります。できることが増えるにつれてお給料も上がる。これができてすごい、となったらお給料も上がる。同じ内容でも、それを決める漁師によってお給料は違ってきます。
固定=決まっていること
ゆう:
みうらさんは、なんのために働いているんですか?
自分のためです。楽しいなと思うことをやっていますし、自分がやったことによって周りが喜んでくれることもあります。それが嬉しいですね。
ゆう:
働くこととお金の関係についてはどう思いますか?
働いたことが絶対お金に反映されるかというとそうではないんですよね。始めはみんな初心者だからお給料は少ないけど、だんだん経験してできるようになって成長してお金が増えていきます。そういうことによって、関係はどんどん変わっていくのかなと思います。
反映=影響がある
―これからやっていきたいことはなんですか?
ひとつは、育てること。今は地元の漁師さんたちのもとで、サポートという形でやっています。いずれは自分の名前でできたらいいなと思っています。
もうひとつは、広めること。この仕事をするまで、私は漁師や漁業について知らなかったんです。この仕事に接する人じゃないと、仕事や考えについて知らないですよね。みんなに知ってもらうきっかけづくりをしたいし、本みたいなものを来年くらいから作ってみたいです。イベントもやりたいですね。
ゆう:
では最後に、子どもたちへのメッセージをお願いします!
子どものうちは、いろんな大人の話を聞く機会が大切だと思います。みんなお父さんお母さんを見ていると思うけど、実は世の中にはいろんな仕事や働き方をしている人がたくさんいます。働いてるときの話をいっぱい聞いて、自分の中での選択肢をたくさん増やして欲しいです。今ひとつに決めなくても、いろんな選択肢の中で選べるほうがいいと思うから。
漁師の仕事は、辞める人もいます。どんな仕事でも続けていく中で評価されることも、できることもやりたいことも増えていく。続けられる人がそんなに多くはないです。
だからこそみんなには、自分の中で興味があること、大好きなこと、やりたいということがあったらずっと続けて欲しい。大好きなことをずっと続けることは、大事だし難しいことです。それを続けてこられたというのは、宝物になると思いますよ。大人になったときにきっと、幸せだと思えることがある。興味のあることはどんどんやったほうがいいと思います。
ゆうちゃんは英語を頑張っていると聞いたけど、英語ができるといろんな国の人と話せるし仲良くなれるしいいよね。大好き?
ゆう:
大好きです。英語を続けたいし、英語を使って働く仕事がしたいです。
うん、諦めないでずっと続けていって欲しい。好きなことが一つでもあるってすごく大切なこと。難しいことだと自分も実感しています。
もし他のことが続かないとしても、その中で一個続けられたらそれだけで十分。大人になった時にきっとよかったと思うことが増えてくると思うよ。楽しんで続けていって欲しいな。
ゆう:
英語は楽しいです。
じゃあ大丈夫だね!
ゆう:
ありがとうございました!
―みうらさんの働いている漁家さんでは、地域の小学校の社会科見学や会社の研修で体験の受け入れもしています。遊びに来てくれれば体験できるそうですよ。ぜひ行ってみてくださいね!
漁業ってどんな仕事?
・牡蠣とワカメを育てている(みうらさんの場合)
・暑い夏も寒い冬も海に出る
・魚介を赤ちゃんの状態から育てて、お店や家に届くようにする
漁業の魅力
・季節の自然を感じられる
・一日の自然の流れがわかる
・食べ物に関わるという、なくてはならない仕事ができる
大変なこと
・夏は暑すぎるし、冬は寒すぎるのを全身で感じる
・重いものを運ばなくてはならない
漁業という仕事をおすすめする理由
・食べ物を自分で育てたり獲ってきたりするという、人間にとって大事な仕事に関わってくれる人が多くなるのは嬉しいから
「働く」と「お金」の関係
・生きていくうえで本当に大事なこと
・稼ぐというのは、自分がこれからどういう風に生きていきたいかというのを考えること
・成長に合わせてお金が増えるなど、「働く」と「お金」の関係はどんどん変わっていく
みうらさんの思う大切なこと
・いろんな大人の話を聞く
・選択肢を増やす
・好きなことを続ける
・続けることが宝物になる
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:ゆう
編集部:スナミアキナ、吉川由
ライティング:吉川由
サムネイルデザイン・編集:スナミアキナ
編集長:吉川由
主催:YOKARO