今回のお相手:並木優さん
株式会社クオルで、エリアマネジメントに関わる仕事をしている。東京都新宿区にある「みちくさくらす」のオーナーでもある。仕事でもプライベートでも、まちづくりに励んでいる。子どもが二人いて、子どもに楽しく働く母の姿を見せたいと、毎日笑顔で働くお母さん。音楽が大好き。
子ども取材班
No.9 わー:
にわとりの世話をがんばっている。書道の級が上がったことが嬉しかった。
No.12 虹太:
お母さんが読んでいる新聞を、自分も読むことをがんばっている。山を散策して木を切ったことや、ビームライフルの体験をしたことが嬉しかった。
生活をするためにお金を稼ぐ仕事のことを「生業」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。
今回のゲストは並木優さんです。まちづくりコーディネーターって、いったいどんなお仕事なのでしょう?
わー、虹太:
よろしくお願いします。
並木さん:
よろしくお願いします。
まちづくりは人と人がつながるきっかけになる
わー:
子どもの頃、どんな大人になりたいと思っていましたか?
小学生の頃はピアノの先生になりたいと思っていました。ピアノやエレクトーンを習ったり、合唱をしたりと、とにかく音楽が好きだったので。
でも、あまり職業については考えていませんでしたね。親や親戚が自営業をしていたので、自分が会社に勤めるイメージはあまりありませんでした。
自分で何かを生み出していく仕事がしたいなと、なんとなく思っていたかな。大人になってから、父や祖父と同じ職業を目指せばよかったと後悔しました(笑)。
自営業=自分で仕事を生み出して働いていること
勤める=会社やお店などで働くこと
祖父=自分のおじいさん
虹太:
おじいさんの職業は何だったんですか?
誰かが亡くなったときや、家や土地を売ったり買ったりするときに手続きをする、司法書士という資格を持って自営業で仕事をしていました。
私は栃木のすごく田舎の出身なんですが、祖父はそこで町長もやっていました。自分でいろんなことをやっている人だったので、「すごいなあ」「いいなあ」と思っていましたね。
好きなものや興味から、なんとなく「こうなりたいな」と思うことはありましたが、将来のことを全然考えてはいなかったな。
亡くなる=死ぬこと
栃木にある並木さんの実家
虹太:
憧れていた人はいますか?
家族みんなのことをすごいなあと思っていました。家族を尊敬していたんだと思います。
また、高校のときの音楽の先生に憧れていました。本当にいい先生で、おかげで音楽をより好きになったし、合唱部で楽しい時間を過ごせました。
わー:
並木さんの職業名はなんですか?
一言で言うのは難しいですけど、「まちづくりコーディネーター」です。
私は会社員で、ざっくり言うとまちづくりの仕事をやっています。また、コミュニティスペース「みちくさくらす」のオーナーです。
コミュニティスペース=まちの人たちが集まって交流する場所
虹太:
つまり、何をしているお仕事なんですか?
みちくさくらすは、3年前から近所に場所を借りて、夫と二人で運営しています。子ども向けのイベントや、人が集まるきっかけづくりとなるイベントをしています。
会社でも、同じようなことをやっています。まちづくりは、ただ新しい建物を建てるだけではありません。イベントの企画や、いろんな仕掛けを考えながら、まち全体を盛り上げるようにしています。
私は自分がその場で何かをするというよりは、いろんなスキルを持った人を集めてきて、つないだり、人と人がつながるきっかけづくりとなるイベントを考えたりしています。
夫=結婚している相手(男の人)
企画=アイデアを出して計画を立てること
スキル=技術
わー:
なるほど。
詳しく言うと……例えば、2人はどのあたりに住んでいますか?
わー:
茨城県です。
茨城なんだ!虹太くんは?
虹太:
愛知県です。
愛知県!そっかあ、みんな東京都内あたりだと思ってた!私は栃木出身なので、茨城は近いですね。愛知は旅行で行ったことがありますよ。
そうだな、じゃあ駅前をイメージしてみて。つくばや名古屋の駅前には、大きなビルが建っていると思います。そのビルは人が住むおうちなのか、会社が入っているのか、はたまたご飯屋さんやお洋服屋さんなどのお店が入っているのか。
全員:
ビル、あります。
あるよね。そんな風に大きな建物を建てたり、まちを整備して雰囲気を変えていくことを「開発」と呼びます。でも建物を建てるだけでは、まちはよくならないし、元気にはならない。
そこで、じゃあどうしたらまちが盛り上がるかを考える。考えて提案をして、それを運営、実行する仕事です。具体的に言えば「どんな仕組みで活動をやっていくか」「お金はどうするか」などですね。
それって、1人じゃできないと思うんだよね。じゃあどういうチームを組んでやるのか、を考える。人と一緒に地域のコミュニティをつくったり、 魅力を上げたりすることを目指して、コンサルティングをしています。これを「エリアマネジメント」といいます。
会社とみちくさくらすでは、やっていることの大きさはちがうけれど、どちらもまちに関わる仕事です。私にとっては仕事をしている感覚がなく、毎日楽しくまちのことを考えています。
整備=整えること
みちくさくらすが、地域の保育園や大学生に協力してもらっておこなったアートイベント
わー:
コンサルティングって何ですか?
例えば、まちを大きく開発しようとするのは、建物を建てる会社や電車を走らせている会社、不動産会社が多い。でも、じゃあどういう風にまちづくりをやったらいいのか、専門家じゃないからわからないんですね。
そこで、まちづくりのプロである私たちの会社に、「どういう風に開発したらいいですか?」と依頼がくる。そこで私たちは「こういう風にやると、もっとよくなると思いますよ」というアドバイスをする。開発しようとしている会社たちが、「なるほど」「じゃあそれでやっていこう」と納得するようなお手伝いをする。
これを「コンサルティング」と呼んでいます。アドバイスやお手伝いをして、開発がいい方向に進むようにしています。
不動産=土地や建物を管理する仕事
専門家=その分野のプロ
依頼=ものごとを頼むこと
身近なところから生活を変えたい
虹太:
エリアマネジメントって、会社で具体的にどういうことをするんですか?
エリアマネジメントは、開発するときに「どんなまちづくりをやっていこうか考えていく」役割です。会社のホームページをお見せしますね。
私は「クオル」という会社で働いています。「エリアマネジメント専門まちづくり会社」と書いてありますね。
例えば昔は、市役所や区役所などの公務員が、「ここでは20年かけて、こういうまちづくりをしよう」と決めていくようなまちづくりの仕方が普通でした。
でも今は、市や区でまちをつくっていく時代から変わってきているんです。大きい建物をひとつ建てるときでも、「みんなで同じ気持ちを持ってまちを盛り上げていこう」というまちづくりの仕方が増えています。
住んでる人だけではなくて、建物、人、地域資源をつなげる。そして地域の魅力を地域全体でアピールして、発信して、いろんな人に知ってもらおうとしている。こういう取り組みのことを、エリアマネジメントと呼んでいます。
今あちこちで、エリアマネジメントを使ったまちづくりが増えています。古い公園を直すだけじゃなくて、いろんな仕組みを考えて、もっと人が来るようにするのもエリアマネジメントです。
発信=いろんな人に知ってもらうために動くこと
地域資源=その地域の魅力となるもの、特徴となるもの
クオルがみちくさくらすで行った、ワークショップのようす
わー:
並木さんは、なぜみちくさくらすを始めようと思ったんですか?
私はもともと、公務員として東京都内の自治体で働いてました。自治体には、そのまちに住んでいる人が来ます。私は大学で、まちづくりや土木、建築を学んでいたので、それを活かして、まちやまちの人たちと関わりたかったんです。
公務員を経験してみて、もちろんまちの人とは距離が近かったです。でも公務員というのは、融通がきかないところがあったり、できることが限られてたり、行動に制限があったりと、私にとってはマイナスの面が多く、自分がやりたいと思っていることが実現できませんでした。
公務員として働くうちに、働いている自治体ではなくもっと身近なところで、自分の生活を変えていくような活動ができないかと思うようになりました。
自治体=都道府県や市町村など、地域の人のために働いている団体
土木=トンネル、橋、道路などをつくること
建築=学校、会社、家などの建物を建てること
融通がきかない=その場その場に合わせた対応ができないこと
制限=限られること
わー:
なるほど。
私には、もうすぐ小学生になる子どもがいるので、それぐらいの子どもが集まったり、お母さんたちが集まったりする場所が近所に欲しかったんですよね。いずれ来る「小1の壁」への不安もあったし、その頃はいざというときに頼れるご近所さんもいませんでした。
そこで、自治体を辞める直前からみちくさくらすの活動を始めました。自分で始めるので制限はないし、自分が好きなことやつくりたい場所を、自分の思うようにつくっていけますから。
虹太:
「小1の壁」ってなんですか?
2人はもう高・中学年だし、学童には行っていないかな?
虹太:
行ってないです。
そっか。私も夫も働いているんだけど、お母さんお父さんが働いていると、学童に行く子もいます。でも東京都内では最近、子どもの人数が多くて学童に入れない、という話を聞くようになりました。日本では、産まれてくる子どもの数が減っているのが問題なのに、不思議だよね。
保育園では、夜6時頃まで子どもを預かってくれるところが多いです。だから親が仕事をしていても、子どもの居場所がありました。でも小学校になると、低学年はお昼の1時や2時に学校が終わってしまう。
親の仕事が終わるまでの数時間を過ごすために、学童があります。でもその学童がいっぱいで入れなくなっています。小学生になった途端、お母さんとかお父さんの負担が増えちゃう。そんな風に頭を悩ませることになっているのが、「小1の壁」です。
たくさんの思いを込めた、みちくさくらす
わー:
クオルのお仕事は、なぜ始めたんですか?
みちくさくらすでは、子どものことや、地域のことに取り組めて楽しいです。自分のやりたかったことは、みちくさくらすで実現しました。でもやはりみちくさくらすはお金を稼ぐことが目的の活動ではないですし、とても小さな活動です。まちの仕事をもっと大きな視点で見られるような仕事をしながら、自分の活動も続けていこうと思いました。
ご縁があってクオルに就職したところ、やはりみちくさくらすとやっていることが近かった。公務員の頃は、大学を出て、同じような学部を出て就職してきた人が多かったけれど、クオルは20人ぐらいの小さな会社で、カメラマンをやっていた人や海外で仕事をしていた人など、いろんな仕事や経験をしている人が多くて。建築やまちづくりとは、全然関係ない仕事をしていた人もいますね。
みんなでまちの話題を共有する中で、会社の人に魅力を感じ、2年くらい働いています。
視点=ものごとの見方
就職=働く場所が決まること
共有=分け合うこと
みちくさくらすの取り組みがすばらしいと、賞をもらった
虹太:
みちくさくらすという名前は誰が決めたんですか?
私と夫で考えて決めました。みちくさくらすは、古い建物を借りて、中をきれいに直して使っています。ホームページをお見せしますね。
子どもたちが安心して、時間をもっと有効に使える場所をつくりたかったんですよね。あとは、おいしいご飯が食べられる場所や子どものことなど、暮らしに密着した場所をつくりたいという思いもあります。
ホームページには「暮らすキッチン」って書いてありますね。暮らしに密着しているという意味で、みちくさくらすの「くらす」は「暮らす」。それから「教室」を英語にした「クラス」。
「みちくさ」は、放課後ちょっと立ち寄るという意味で「道草を食う」の「道草」。それから、近くの早稲田というエリアに、夏目漱石が住んでいた場所があります。夏目漱石が住んでいた場所が近いので、「みちくさ」と付けたのもひとつ。
夏目漱石って知ってるかな?『坊ちゃん』とか、『吾輩は猫である』とか。
密着=くっついていること
夏目漱石=日本の作家
全員:
知ってます。
有名だよね。彼は『道草』という小説も書いています。猫も夏目漱石から連想されるので、ロゴマークに猫を使っています。
連想=あることから、さらにつながって思い浮かぶこと
虹太:
みちくさくらすのロゴもかわいくて気に入ったんですが、誰がデザインしたんですか?
私と夫は同じ大学で、そこで出会った友達がつくってくれました。友達はまちづくりの仕事もしながら、絵をずっと描いています。ロゴをつくったり、ポスターを描いたりするのが上手なんです。
ロゴのイメージは私と夫で考えました。猫の絵が付いていたらおしゃれだなとか、女の子が本当にみちくさして帰ってるような感じがいいよねとか。「みちくさくらす」の字も、かわいくてゆるい感じの字にしたいと、そんな風にイメージを伝えてお願いしました。
わー:
どうやったらまちづくりコーディネーターになれるんですか?
建築やまちづくりについての専門的な知識は、あるとよりいいです。例えば夫は一級建築士という資格を持っています。建築について専門的なことや、法律について学んできました。他にも建築やまちづくり、開発に関係する資格はたくさんあります。
まちづくりをするのに特別な資格はいらないけれど、私が会社で必要だと思うのは、コミュニケーションの力です。さっきコンサルティングの話をしましたよね。
コンサルティングは、新しいことや難しいことを解決する案を出して、相手が納得してくれるように、わかりやすく話します。理由も伝えながら、説明する場面もたくさんあります。それに、いろんな会社の人と話すことも、まちに住んでいる人と話すこともとても多い。だから相手とうまく喋る力も必要です。
例えば「住んでる場所が近いね」とか、小さなところから会話を広げる力も、大事なのかなと思います。特別な資格はいらないけど、そういう力があると、さらにおもしろい仕事ができるんじゃないかな。
法律=国の決まり
魅力的な人たちに出会える仕事
大人も子どもも集まるみちくさくらす
虹太:
並木さんのやる気は、どこからわいてきますか?
すごくいい質問ですね。うーん、なんでしょうね……。公務員だったときは、制限がいろいろあったり、できないことがすごく多かったりして、やる気が減ってしまうことがありました。
今は、仕事もみちくさくらすの活動も、あと子育てしている毎日も楽しいです。きっとどれも実際に、自分のこととして考えられているからなんじゃないかな。みちくさくらすでいうと、自分の好きなことを自分の好きなように、しかも自分の生活に密着したところでできる。それがやる気につながっています。
例えば2人も、得意な教科とそうじゃない教科がありますよね。得意な教科は勉強していて楽しいと思います。それと一緒で、自分が興味があって、自分の毎日につながっていることは、どんどんやりたくなるんです。
それがそのまま仕事になっていることが、私のやる気につながっていると思います。
虹太:
並木さんは、常に行動力があるタイプですか?
行動力はあると思います。何かやろうと思ったら、すぐやっちゃう。逆に行動が早すぎて大丈夫?というところもあるけれど。
「ああなったらどうしよう」「こうなったらどうしよう」といろいろ考えて、計画を立ててからやる人もいると思います。でも私はやりながら考えるタイプ。「とりあえずやってみよう」「やってみてできなかったら、後から考えればいいし、何とかなるだろう」と思って、始めちゃいます。
子ども時代に感じていたことや、人とまちとのつながりの大切さ、そしてまちづくりへの熱い想いをお話ししてくださった並木さん。後編では、子どもたちが楽しく生きられる世界とはどんなものか、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係についても聞いていきます。
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:わー、虹太
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:吉川ゆゆ
サムネイルデザイン:南 裕子
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO