インタビュー記事

第8回 顔が見えるごはん屋さん 「食堂の店主」 ことり食堂 中里 希さん【前編】

今回のお相手:中里なかざとのぞみさん

東京とうきょう神宮前じんぐうまえにあるご飯屋はんやさん「ことり食堂しょくどう」の店主てんしゅ食材しょくざい仕入しいれから料理りょうり、おきゃくさんに注文ちゅうもんをきいて料理を出すことまで全部ぜんぶ一人でおこなっている。食品しょくひんロスについてもかんがえ、普段ふだんから生産者せいさんしゃかおが見えるようにしている。ご飯を食べてよろこんでもらえることがしあわせ。

子ども取材班しゅざいはん

No.5 かのぴ:
画力がりょくを上げることを頑張がんばっている。将来しょうらいゆめはイラストレーター。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことがうれしかった。

生活をするためにお金をかせぐ仕事のことを「生業なりわい」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。

今回のゲストは中里希さん。食堂の店主です。食堂の店主って、いったいどんなお仕事なのでしょう?

かのぴ:
よろしくおねがいします。

中里さん:
よろしくお願いします。

ことり食堂はひとりでやっているお店

かのぴ:
子どものころ、どんな大人になりたかったですか? 

具体的ぐたいてきになりたい職業しょくぎょうはなかったです。リンゴがきだからリンゴさんになりたいとか、絵をくことが好きだから絵を描く仕事がしたいとか、なんとなくそうおもっていました。

中学生のときの作文では「かっこわるいことはしない大人になる」と書いていました。その作文は中学校を卒業そつぎょうするときに作ったタイムカプセルに入っていて、20歳はたちになったときに家におくられてきたんですが、それを読んで「こんなこと考えてたんだ!」と思いましたね。人としてこうなりたくない、というのはあったかな。

大学生になったときも、成人式せいじんしきのときも、まだどんな仕事をしたいというのはなかったんです。なりたいものがなかったので、その時その時をたのしんでいました。

具体的=くわしく

タイムカプセル=手紙や思い出のものをめたりしまったりして、数年後に開けてなつかしく思うもの

かのぴ:
そうだったんですね。では今の職業名は何ですか?

ことり食堂の店主です。

ことり食堂の店内

かのぴ:
お店はひとりでやっているんですか?

ひとりでやっています。大変たいへんです!(笑)

かのぴ:
うわあ!大変そうですけど、つまりはなにをしているお仕事なんですか?

お店で毎日まいにち、朝に料理りょうりをしておきゃくさんにご飯を出します。ケータリングといって、たまにお店から出てちがう場所にご飯をっていったり、違う場所ばしょで料理をつくったりすることもあります。

かのぴ:
仕事内容ないようをくわしく教えてください。

わたし地元じもと栃木とちぎですが、しゅう1回栃木から有機野菜ゆうきやさいが送られてきます。有機野菜というのは、農薬のうやくを使わず自然しぜんの力でそだてられた野菜のことです。その野菜を使つかって料理をつくります。

朝7時から11時はんくらいまでは準備じゅんびをしていますね。開店かいてん時間になるとお客さんがすこしずつやってきます。メニューはワンプレートの定食ていしょくです。毎日違うメニューにしているんですよ。

お客さんにご飯を食べてもらって、お金をもらって、おさらあらってかたづけをして、つぎの日の準備をしてかえる。それを8年ずっとやっています。

農薬=植物しょくぶつを元気にしたり、むしがつかないようにしたりするためのくすり。農薬がつよすぎる作物を食べると、体に影響えいきょうが出ることもある。

定食=ご飯やおかず、汁物がセットになったメニュー

有機野菜でつくったお弁当

ふしぎな縁からはじまった

かのぴ:
ではなぜその仕事をしようと思ったのか、そして続けているのかを教えてください。

これはすごくふしぎなえんなんですよね。

大学卒業後、旅行りょこうが好きだったので、ひとまず大きな旅行関係かんけいの会社に就職しゅうしょくしました。でも「なんか違うな」と思って、そこの会社を一年くらいでやめました。そのときはきっといろんなことがわかんなくなったんでしょうね。何がしたかったのか、働くって何なのかを考えすぎていたように思います。その結果けっか、会社の社長しゃちょうとけんかをしてやめてしまいました。

その後はいくつかお仕事を変えました。不動産ふどうさん会社社長の秘書ひしょや、お店を紹介しょうかいする広告こうこく営業えいぎょう携帯けいたいのアプリを作る会社の営業などですね。ことり食堂のまえにしていたのが、建築けんちくデザイン会社の事務員じむいんでした。働く期間きかんが決まっている契約けいやく社員というのをしていたんですが、ある日「せい社員にならないか」と言われたんです。

その頃ちょうど、おいしていた彼氏かれしわかれました。結婚けっこんするのかなと思っていたけどそれがなくなったから、いままでと全然ぜんぜん違うことをしようと思い、正社員にはならずに辞めることにしました。

縁=つながりや関係かんけいを感じるきっかけになるもの

就職=学校を卒業した後に働くこと

不動産=土地や建物たてもの管理かんりする仕事

秘書=社長など会社でとく重要じゅうような仕事をしている人の、予定よていや仕事内容ないようをサポートする仕事

営業=会社のお金が上がるように、商品しょうひんなどをおすすめしてる仕事

建築=建物やはしなどをてること

事務=資料しりょうを作ったりお金の計算けいさんをしたりするなど、つくえの上で行う仕事

かのぴ:
そうなんですね。

私はそれまでお料理をしたことがなかったんです。外食がいしょくばかりだったのと、彼氏がいつもつくってくれていたのもあって。でも別れたし、東日本大震災ひがしにほんだいしんさいのあとショックでご飯が食べられなくなったり、年々ねんねん「食」の大切たいせつさをかんじるようになったりしていたので、「ちゃんと料理をつくってみよう」と思うようになりました。

その時に不思議なタイミングで、今のお店のオーナーと話す機会きかいがありました。このお店は、実はもともとよるほかの人がバーをしているんですが、おひるいていたんです。そこでバーの方に「ここで料理を出してみたら?」と言われて。自分の人生を大きく変えたくて、「やってみよう」「何でもいいから挑戦ちょうせんしたい!」と思いお店をはじめました。

はじめは全然できなくてくるしかったですね。最初さいしょは料理サイトを見てつくっていたんですよ。友達ともだちが最初の一か月は手伝てつだってくれたんだけど、「なんでこんなに料理ができないのに始めたの!」っておこられました(笑)。

外食=お店で食事をすること

東日本大震災=東北地方で起きた、ものすごく大きな地震のこと。津波が来て街や人が流されたり、原子力発電所が爆発して故障したりと、今も人が住めなくなっているところがある

バー=お酒やちょっとした食べ物を出すお店

かのぴ:
でも今は……

できるようになった!(笑)毎日やっているとできるようになりますね。かのぴは料理してる?

かのぴ:
家庭科かていかではやります。おみそしるなどはつくったことがあるけど心配しんぱいです。料理がつくれるようになりたいです。

やっていればできるようになるよ。はじめは人に教えてもらうといいと思うよ。

とってもおいしそうなケータリングの料理たち

全部が目の前で起こる幸せ

かのぴ:
お仕事をするのに資格は必要ですか?

うん、食べ物のお店は資格しかく必要ひつようですね。まずは事前じぜん場所ばしょ許可きょかります。そして料理をつくって出すのに必要な「食品衛生えいせい責任者せきにんしゃ」という資格がいります。講習こうしゅうけてテストに受かれば一日で取れますよ。

講習=人が集まって勉強や練習を教わること

かのぴ:
資格を取るのは大変でしたか?

ずっとすわって話をいているのがねむかった(笑)。

かのぴ:
そうなんですね(笑)。この職業の魅力みりょくと大変だと思うことを教えてください。

魅力は、ごはんを食べて喜んでくれる人が目の前にいることです。

自分がやったことの結果が目に見えるし、全部が目の前で起こる。すごく幸せな気持ちになります。携帯のアプリを作る会社で働いていたときは、すごく忙しくて、しかもだれがそれを使っているのかわからなかった。お給料きゅうりょうたかかったけど、誰がこれを喜んでくれているかわからなかったんですよね。今は全部が目の前でこって、それがわかるからやりがいがあります。

大変なことは、全部一人でやっていることです。

風邪かぜをひいたりけがをしたりしたら、休まなくてはいけません。そうしたらお給料もるし、不安になります。全部自分でしないと始まらないしわらない。たまに、誰かと一緒いっしょにやりたいと思うことがあります。

かのぴ:
中里さんは生まれ変わってもまたこの仕事がしたいですか?

うーん、なやむけど……。今のように一人でやるかはわからないけど、自分がやったことで目の前で誰かに喜んでもらい、思いがとどいてるとわかる仕事をえらぶとは思います。

自分のしたことが人を笑顔にするって嬉しい

かのぴ:
今の子どもにこのお仕事をおすすめできますか?

大変なので、1人でやるのはおすすめしないかな。でも自分がやったことにたいして 「おいしかった」とこえをかけてもらえることは、すごく幸せなことだと思う。次の日も頑張がんばろうって思えるから、毎日幸せな気持ちで眠れます。

だからやってみてほしいですね。人や食べ物に対しても、あたらしいものの見方みかたができると思います。

かのぴ:
これからやっていきたいことはなんですか?

そうだなあ。ことり食堂に関わってくれているおこめ屋さんや農家のうかさんのことを、食べてくれる人に紹介しょうかいしたいです。食材をつくってくれる人のことがわかると、食べる方もより幸せに感じると思います。

食材をつくっている人たちにも食べに来てほしいし、その人たちの食材を売りたい。あと、友達がつくる紅茶こうちゃやお菓子かしなども置きたいですね。顔が見える人たちと、一緒にやっていきたいですね。

農家=野菜やお米などをつくったり、食料になるお肉を育てたりする農業をしている人

かのぴ:
いに行きたいです!

嬉しい。ぜひ!

-ことり食堂を始めたきっかけややりがいについてお話ししてくださった中里さん。後編こうへんでは想像力そうぞうりょくいのちについての思い、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係についても聞いていきます。

ことり食堂さんのSNS

【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:かのぴ
編集部:スナミアキナ、吉川由
ライティング:吉川由
編集:スナミアキナ
編集長:吉川由
主催:YOKARO