今回のお相手:中里希さん
東京の神宮前にあるご飯屋さん「ことり食堂」の店主。食材の仕入れから料理、お客さんに注文をきいて料理を出すことまで全部一人でおこなっている。食品ロスについても考え、普段から生産者の顔が見えるようにしている。ご飯を食べて喜んでもらえることが幸せ。
子ども取材班
No.5 かのぴ:
画力を上げることを頑張っている。将来の夢はイラストレーター。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことが嬉しかった。
生活をするためにお金を稼ぐ仕事のことを「生業」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。
今回のゲストは中里希さん。食堂の店主です。食堂の店主って、いったいどんなお仕事なのでしょう?
かのぴ:
よろしくお願いします。
中里さん:
よろしくお願いします。
ことり食堂はひとりでやっているお店
かのぴ:
子どもの頃、どんな大人になりたかったですか?
具体的になりたい職業はなかったです。リンゴが好きだからリンゴ屋さんになりたいとか、絵を描くことが好きだから絵を描く仕事がしたいとか、なんとなくそう思っていました。
中学生のときの作文では「かっこわるいことはしない大人になる」と書いていました。その作文は中学校を卒業するときに作ったタイムカプセルに入っていて、20歳になったときに家に送られてきたんですが、それを読んで「こんなこと考えてたんだ!」と思いましたね。人としてこうなりたくない、というのはあったかな。
大学生になったときも、成人式のときも、まだどんな仕事をしたいというのはなかったんです。なりたいものがなかったので、その時その時を楽しんでいました。
具体的=詳しく
タイムカプセル=手紙や思い出のものを埋めたりしまったりして、数年後に開けて懐かしく思うもの
かのぴ:
そうだったんですね。では今の職業名は何ですか?
ことり食堂の店主です。
ことり食堂の店内
かのぴ:
お店はひとりでやっているんですか?
ひとりでやっています。大変です!(笑)
かのぴ:
うわあ!大変そうですけど、つまりは何をしているお仕事なんですか?
お店で毎日、朝に料理をしてお客さんにご飯を出します。ケータリングといって、たまにお店から出て違う場所にご飯を持っていったり、違う場所で料理をつくったりすることもあります。
かのぴ:
仕事内容をくわしく教えてください。
私の地元は栃木ですが、週1回栃木から有機野菜が送られてきます。有機野菜というのは、農薬を使わず自然の力で育てられた野菜のことです。その野菜を使って料理をつくります。
朝7時から11時半くらいまでは準備をしていますね。開店時間になるとお客さんが少しずつやってきます。メニューはワンプレートの定食です。毎日違うメニューにしているんですよ。
お客さんにご飯を食べてもらって、お金をもらって、お皿を洗って片づけをして、次の日の準備をして帰る。それを8年ずっとやっています。
農薬=植物を元気にしたり、虫がつかないようにしたりするための薬。農薬が強すぎる作物を食べると、体に影響が出ることもある。
定食=ご飯やおかず、汁物がセットになったメニュー
有機野菜でつくったお弁当
ふしぎな縁からはじまった
かのぴ:
ではなぜその仕事をしようと思ったのか、そして続けているのかを教えてください。
これはすごくふしぎな縁なんですよね。
大学卒業後、旅行が好きだったので、ひとまず大きな旅行関係の会社に就職しました。でも「なんか違うな」と思って、そこの会社を一年くらいでやめました。そのときはきっといろんなことがわかんなくなったんでしょうね。何がしたかったのか、働くって何なのかを考えすぎていたように思います。その結果、会社の社長とけんかをしてやめてしまいました。
その後はいくつかお仕事を変えました。不動産会社社長の秘書や、お店を紹介する広告の営業、携帯のアプリを作る会社の営業などですね。ことり食堂の前にしていたのが、建築デザイン会社の事務員でした。働く期間が決まっている契約社員というのをしていたんですが、ある日「正社員にならないか」と言われたんです。
その頃ちょうど、お付き合いしていた彼氏と別れました。結婚するのかなと思っていたけどそれがなくなったから、今までと全然違うことをしようと思い、正社員にはならずに辞めることにしました。
縁=つながりや関係を感じるきっかけになるもの
就職=学校を卒業した後に働くこと
不動産=土地や建物を管理する仕事
秘書=社長など会社で特に重要な仕事をしている人の、予定や仕事内容をサポートする仕事
営業=会社のお金が上がるように、商品などをおすすめして売る仕事
建築=建物や橋などを建てること
事務=資料を作ったりお金の計算をしたりするなど、机の上で行う仕事
かのぴ:
そうなんですね。
私はそれまでお料理をしたことがなかったんです。外食ばかりだったのと、彼氏がいつもつくってくれていたのもあって。でも別れたし、東日本大震災のあとショックでご飯が食べられなくなったり、年々「食」の大切さを感じるようになったりしていたので、「ちゃんと料理をつくってみよう」と思うようになりました。
その時に不思議なタイミングで、今のお店のオーナーと話す機会がありました。このお店は、実はもともと夜に他の人がバーをしているんですが、お昼は空いていたんです。そこでバーの方に「ここで料理を出してみたら?」と言われて。自分の人生を大きく変えたくて、「やってみよう」「何でもいいから挑戦したい!」と思いお店を始めました。
はじめは全然できなくて苦しかったですね。最初は料理サイトを見てつくっていたんですよ。友達が最初の一か月は手伝ってくれたんだけど、「なんでこんなに料理ができないのに始めたの!」って怒られました(笑)。
外食=お店で食事をすること
東日本大震災=東北地方で起きた、ものすごく大きな地震のこと。津波が来て街や人が流されたり、原子力発電所が爆発して故障したりと、今も人が住めなくなっているところがある
バー=お酒やちょっとした食べ物を出すお店
かのぴ:
でも今は……
できるようになった!(笑)毎日やっているとできるようになりますね。かのぴは料理してる?
かのぴ:
家庭科ではやります。おみそ汁などはつくったことがあるけど心配です。料理がつくれるようになりたいです。
やっていればできるようになるよ。はじめは人に教えてもらうといいと思うよ。
とってもおいしそうなケータリングの料理たち
全部が目の前で起こる幸せ
かのぴ:
お仕事をするのに資格は必要ですか?
うん、食べ物のお店は資格が必要ですね。まずは事前に場所の許可を取ります。そして料理をつくって出すのに必要な「食品衛生責任者」という資格がいります。講習を受けてテストに受かれば一日で取れますよ。
講習=人が集まって勉強や練習を教わること
かのぴ:
資格を取るのは大変でしたか?
ずっと座って話を聞いているのが眠かった(笑)。
かのぴ:
そうなんですね(笑)。この職業の魅力と大変だと思うことを教えてください。
魅力は、ごはんを食べて喜んでくれる人が目の前にいることです。
自分がやったことの結果が目に見えるし、全部が目の前で起こる。すごく幸せな気持ちになります。携帯のアプリを作る会社で働いていたときは、すごく忙しくて、しかも誰がそれを使っているのかわからなかった。お給料は高かったけど、誰がこれを喜んでくれているかわからなかったんですよね。今は全部が目の前で起こって、それがわかるからやりがいがあります。
大変なことは、全部一人でやっていることです。
風邪をひいたりけがをしたりしたら、休まなくてはいけません。そうしたらお給料も減るし、不安になります。全部自分でしないと始まらないし終わらない。たまに、誰かと一緒にやりたいと思うことがあります。
かのぴ:
中里さんは生まれ変わってもまたこの仕事がしたいですか?
うーん、悩むけど……。今のように一人でやるかはわからないけど、自分がやったことで目の前で誰かに喜んでもらい、思いが届いてるとわかる仕事を選ぶとは思います。
自分のしたことが人を笑顔にするって嬉しい
かのぴ:
今の子どもにこのお仕事をおすすめできますか?
大変なので、1人でやるのはおすすめしないかな。でも自分がやったことに対して 「おいしかった」と声をかけてもらえることは、すごく幸せなことだと思う。次の日も頑張ろうって思えるから、毎日幸せな気持ちで眠れます。
だからやってみてほしいですね。人や食べ物に対しても、新しいものの見方ができると思います。
かのぴ:
これからやっていきたいことはなんですか?
そうだなあ。ことり食堂に関わってくれているお米屋さんや農家さんのことを、食べてくれる人に紹介したいです。食材をつくってくれる人のことがわかると、食べる方もより幸せに感じると思います。
食材をつくっている人たちにも食べに来てほしいし、その人たちの食材を売りたい。あと、友達がつくる紅茶やお菓子なども置きたいですね。顔が見える人たちと、一緒にやっていきたいですね。
農家=野菜やお米などをつくったり、食料になるお肉を育てたりする農業をしている人
かのぴ:
買いに行きたいです!
嬉しい。ぜひ!
-ことり食堂を始めたきっかけややりがいについてお話ししてくださった中里さん。後編では想像力や命についての思い、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係についても聞いていきます。
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:かのぴ
編集部:スナミアキナ、吉川由
ライティング:吉川由
編集:スナミアキナ
編集長:吉川由
主催:YOKARO