インタビュー記事

第16回 光の現代アーティスト 「美術家」 髙橋 匡太さん【前編】

今回のお相手:髙橋たかはし 匡太きょうたさん

美術びじゅつ。「光の現代げんだいアーティスト」として、日本だけでなく海外でも活躍かつやく中。建物たてものに光をあてたダイナミックな作品さくひんづくりや、たくさんの人とつくる参加さんかがたのアートプロジェクトを生業なりわいにしている。「FUTUREフューチャーSCAPEスケープ PROJECTプロジェクト 2021」では、ひがし日本大震災しんさいから10年間全国ぜんこくつづけている「ひかりの」という作品を展示てんじした。

子ども取材班しゅざいはん

No.5 かのぴ:
画力がりょくを上げることを頑張がんばっている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことがうれしかった。

No.8 琴ノ助:
ピアノとダブルダッチを頑張っている。卒業式でリコーダーがうまく吹けたことが嬉しかった。

今回こんかい取材しゅざいは10/3に行われた公開こうかい取材のようすをまとめたものです。
(ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT 2021の会期中に開催)

生活をするためにお金をかせぐ仕事のことを「生業なりわい」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。

なんと今回NARIWAIは、画面を飛び出して、初めての公開取材に挑戦!横浜・象の鼻テラスで、かのぴと琴ノ助が、たくさんのお客さんの前でインタビューをしました。

今回のゲストは高橋匡太さん。美術家です。美術家って、いったいどんなお仕事なのでしょう?

かのぴ・琴ノ助:
よろしくおねがいします。

高橋さん:
よろしくお願いします。

「光」のアートで、まちのみんなを笑顔えがおにする

公開取材中の髙橋匡太さん

琴ノ助:
ではまず、匡太さんの職業しょくぎょう名はなんですか?

職業名を聞かれたら、「美術家」とこたえています。芸術げいじゅつ家って言うと身近みぢかじゃない気がするし、アーティストって言うと音楽の人だとおもわれて、「どんな歌を歌っていますか?」なんて聞かれることもあるから。だから最近さいきんは「美術家」や「光のアーティスト」と答えるようにしています。

そして3人だけの、小さな小さな会社かいしゃ代表だいひょう取締とりしまりやくでもあります。

代表取締役=社長のこと

かのぴ:
匡太さんの自己じこ紹介しょうかいをおねがいします。

京都きょうと生まれの京都そだちで、今回の「FUTURE SCAPE PROJECT 2021」では「ひかりの実」という作品を展示てんじしています。普段ふだんは「光」を使ったアートプロジェクトにり組んでいます。

今日きょうはちょっとだけ作品の紹介もしていこうかな。まず、ちょっと自慢じまんしたいと思います。あまりにうれしかったので。

かのぴ:
図工ずこう教科きょうかしょだ!

小学校や高校の美術の教科書に、ぼくの作品の紹介がっているんです。

琴ノ助・かのぴ:
きれい!

「ひかりの実」という作品が、教科書で紹介されました。ぼくも教科書に載るとは思っていなかったので、すごく嬉しかったです。

匡太さんの作品がのった図工の教科書

ぞうはなテラスや横浜よこはまのまちなかで発表はっぴょうした作品も、すこしだけ紹介しようかな。

たとえば「スマートイルミネーション」という横浜の夜景やけい開発かいはつするプロジェクトでは、毎年まいとしいろいろな作品をつくっていて、その中に「たてもののおしばい」というシリーズがあります。

機関きかんしゃトーマスってありますよね?

象の鼻テラス=横浜にある、みんなが使つかえるまちのスペース

開発=新しいものを生み出したり、使えるようにしたりしていくこと

かのぴ:
ありますね。

機関車トーマスのビルばんのようなものをつくりました。ビルからかおたちが、「普段ふだんしゃべることのないビル同士どうしがお芝居しばいをしたら、どんなことをしゃべるかな?」と思ってつくった「たてもののおしばい」です。そういったまち風景ふうけい演劇えんげき空間くうかんにする作品をつくっています。

演劇=お芝居

ビルがおしゃべりするアート「たてもののおしばい」

あと、ふたりに今の「ゆめ」の話を聞いて、今日どうしても紹介したいと思ったものがあります。

1万人の夢のたねプロジェクト

「1まん人の夢のたねプロジェクト」というプロジェクトです。

かのぴ:
わあ。幻想げんそうてきです。

幻想的ですよね。実際じっさいに夢のたねがっているところも見てほしいな。ねっ気球ききゅうをドンとち上げて、そこからキラキラした「夢のたね」をくんですけど、その1まい1枚が手紙みたいになっているんです。

この時は、大人から子どもまでみんなに自分じぶんの夢を書いてもらい、1万人の「夢のたね」をあつめました。

琴ノ助:
すごい!

「夢のたね」に書かれただれかの夢を読んで、これはどんな子が書いたんだろうと想像そうぞうしたり、自分の夢ってなにかな、どんな子が自分の夢の種をっていってくれたかなって考えたり……。

そういう「夢の交換こうかん」や「人にたいしての想像力」をテーマにしたいと思ってはじめたプロジェクトです。

小学校でワークショップをすると、てい学年から中学年の子は、すぐ夢が書けるんだよ。自分は何にでもなれると思っているから。でも学年が上がるとだんだんなやみ出す。

大人は「家族かぞくみんなが健康けんこうらせますように」とか「これからもずっと平和へいわでありますように」と書く人がおおいね。

夢をいろいろ集めていると、年齢ねんれいによって夢ってわっていくんだなあ、思いがふかくなっていくんだなあとかんじました。

かのぴ:
すてきな気づきです。

作品をつくるたびにいろんな気づきや出会いがある

「ひかりの実」という作品にめた思い

かのぴ:
実はさっき匡太さんの「ひかりの実ワークショップ」を体験たいけんしてきました。すごくかわいらしかったし、ひかりの実をかざった木を見て「こんなにたくさんの人がやっているんだ!」と思いました。

琴ノ助:
わたしも、いろんな人たちの10年間のねがいが込められていて、すごくいいなと思いました。

二人ともとてもかわいいのをつくってくれたよね。あれは誰の顔をいてくれたんですか?

琴ノ助:
わたしはおかあさんの絵を描きました。

かのぴ:
わたしは誰かわからないけど、今日夢に出てきた女の子を描きました。

へぇ!それは今聞くまでわからなかった。おもしろいね。

ひかりの実ワークショップにチャレンジ!

木に2人がつくったひかりの実を取りつけます

さっき二人にも体験してもらったのだけど、「ひかりの実」のワークショップをするときは、まず目をつぶってもらって、「大好きな人を思いかべてください」と問いかけます。

そしてその時思い浮かんだ人の笑顔を描いてもらうんです。自分の笑顔でもいいし、お友達ともだち、お母さんやおとうさん、おじいちゃんやおばあちゃん、誰でもいい。

心の中に大きな人の笑顔を思い浮かべることが、「ひかりの実」のすごく大事だいじ部分ぶぶんだと思っているからです。

みんなの笑顔がきらきら輝く「ひかりの実」

横浜・象の鼻パークでの展示の様子

表現ひょうげんすることでみとめられるのが嬉しかった

琴ノ助:
子どものころは、どんな大人になりたかったですか?

子どもの頃の夢はいろいろと変わりました。物語ものがたり世界せかいに入り込むタイプだったので、仮面かめんライダーを見たら「大人になったらバイクにるんだ!」とか、宇宙うちゅう飛行ひこうのドキュメンタリーをテレビで見たら「どうやったらなれるんだろう?」とか、やりたいことがたくさんありました。

ただ大きくなってくると、宇宙飛行士は体が強くなきゃいけないとか、エリート中のエリートがなれるものなんだとか、だんだんわかってきて。

ぼくは、子どものときは体が弱くて、学校もけっこう休みがちでした。運動うんどう全然ぜんぜんだめだったんですよ。

でも、本を読んだり、映画えいがやテレビを見たり、絵を描いたり工作こうさくをしたりするのが好きだったから、そういうことをかしたいなと思ったんです。小学校の卒業そつぎょう文集ぶんしゅうには「画家がかになって、世界の人とつながりたい」と書いたのをおぼえていますね。

ドキュメンタリー=実際じっさいのできごとについての映画や番組ばんぐみ

エリート=優秀ゆうしゅうで力がある人

かのぴ:
事前じぜんアンケートに、絵や工作のコンクールでたくさん賞状しょうじょうをもらったと書いてあったので、子どもの頃からすごくチャレンジ精神せいしんがあったんだなと思いました。

チャレンジ精神=挑戦ちょうせんしようという気持ち

そうですね、いろんなコンクールに参加さんかしていました。人って、みとめられると嬉しいじゃないですか。

かのぴ・琴ノ助:
そうですね。

体は弱かったけれど、絵を描いたり、工作したりすることで、なんだか認められる感じがしました。みんながよろこんでくれたり、ほめてくれたりしたときの嬉しさというのは、何かをはじめるきっかけになりますよね。

かのぴ:
子どもの頃に憧れていた人はいますか?

小学生のときにすごいなと思ったのが、画家のゴッホですね!

ゴッホが子どものときに描いた絵が、ものすごく上手いんです。犬が走ってきて、キュっときびすかえ瞬間しゅんかんが描いてあるんだけど、ほんとうに上手で。「自分と同じくらいの年でこんな絵を描いていたのか」「ぼくには描けないなあ」と思いました。

それから、自分と同じ年でどんな作家がいるのかをよく考えるようになりました。ある海外の詩人しじんも、14歳ですばらしい詩を書いているんですよ。憧れというよりも、ちょっと嫉妬しっとに近かったかもしれません。

踵を返す=きゅうきを変えること

詩人=詩を書く人

嫉妬=うらやましいと思う気持ち

かのぴ:
「アーティストになるってすごく大変だぞ」ってまわりの人から言われたそうですが、わたしはそういうプレッシャーにすごく弱いんです。プレッシャーのはねのけ方って、何かありますか?

ぼくも、プレッシャーにはそんなに強くないんですよ。

ぼくは中学から高校2年生まで、芸術家への道をあきらめていたことがあります。活動かつどうはずっと美術部だったけどね。きっと、周りの大人や先生からの「芸術家ってすごく大変だぞ」という言葉がすごいプレッシャーだったんだと思う。

ところが、高校2年生の時にそれまでよかった成績せいせきすこちて、その時に「ぼくは本当は映画や絵を描くことが好きだったな。もしかしたら自分は表現する仕事が好きなんじゃないか」とふと気づいたんです。

ずっといい成績をらなければいけないというプレッシャーから、解放かいほうされたかったのもあるかもしれない。でもそれがあらためて自分のやりたいことを考えるきっかけになりました。

プレッシャーをはねのけたいときは、自分で「これでいいんだ!」としんじられることが大事だと思います。高校生の頃のぼくも、自分で自分にプレッシャーをかけてしまっていましたが、でも結局けっきょくは、「おれはこれが好きなんだ!これでいいのだ!」と思うしかなかったですね。バカボンのパパみたいに(笑)。

解放=自由になること

これまでに手がけたアートプロジェクトについて、たくさん紹介してくれた髙橋匡太さん。後編こうへんでは子どもの頃からアーティストになるまでに経験したこと・考えたことや、みんなでつくる「アートプロジェクト」だからこそのおもしろさ、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係についても聞いていきます。


【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:かのぴ、琴ノ助
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:南 裕子
サムネイルデザイン:南 裕子
編集:吉川ゆゆ・スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO