今回のお相手:髙橋 匡太さん
美術家。「光の現代アーティスト」として、日本だけでなく海外でも活躍中。建物に光をあてたダイナミックな作品づくりや、たくさんの人とつくる参加型のアートプロジェクトを生業にしている。「FUTURESCAPE PROJECT 2021」では、東日本大震災から10年間全国で続けている「ひかりの実」という作品を展示した。
子ども取材班
No.5 かのぴ:
画力を上げることを頑張っている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことが嬉しかった。
No.8 琴ノ助:
ピアノとダブルダッチを頑張っている。卒業式でリコーダーがうまく吹けたことが嬉しかった。
※今回の取材は10/3に行われた公開取材のようすをまとめたものです。
(ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT 2021の会期中に開催)
生活をするためにお金を稼ぐ仕事のことを「生業」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。
なんと今回NARIWAIは、画面を飛び出して、初めての公開取材に挑戦!横浜・象の鼻テラスで、かのぴと琴ノ助が、たくさんのお客さんの前でインタビューをしました。
今回のゲストは高橋匡太さん。美術家です。美術家って、いったいどんなお仕事なのでしょう?
かのぴ・琴ノ助:
よろしくお願いします。
高橋さん:
よろしくお願いします。
「光」のアートで、まちのみんなを笑顔にする
公開取材中の髙橋匡太さん
琴ノ助:
ではまず、匡太さんの職業名は何ですか?
職業名を聞かれたら、「美術家」と答えています。芸術家って言うと身近じゃない気がするし、アーティストって言うと音楽の人だと思われて、「どんな歌を歌っていますか?」なんて聞かれることもあるから。だから最近は「美術家」や「光のアーティスト」と答えるようにしています。
そして3人だけの、小さな小さな会社の代表取締役でもあります。
代表取締役=社長のこと
かのぴ:
匡太さんの自己紹介をお願いします。
京都生まれの京都育ちで、今回の「FUTURE SCAPE PROJECT 2021」では「ひかりの実」という作品を展示しています。普段は「光」を使ったアートプロジェクトに取り組んでいます。
今日はちょっとだけ作品の紹介もしていこうかな。まず、ちょっと自慢したいと思います。あまりに嬉しかったので。
かのぴ:
図工の教科書だ!
小学校や高校の美術の教科書に、ぼくの作品の紹介が載っているんです。
琴ノ助・かのぴ:
きれい!
「ひかりの実」という作品が、教科書で紹介されました。ぼくも教科書に載るとは思っていなかったので、すごく嬉しかったです。
匡太さんの作品がのった図工の教科書
象の鼻テラスや横浜のまちなかで発表した作品も、少しだけ紹介しようかな。
たとえば「スマートイルミネーション」という横浜の夜景を開発するプロジェクトでは、毎年いろいろな作品をつくっていて、その中に「たてもののおしばい」というシリーズがあります。
機関車トーマスってありますよね?
象の鼻テラス=横浜市にある、みんなが使える街のスペース
開発=新しいものを生み出したり、使えるようにしたりしていくこと
かのぴ:
ありますね。
機関車トーマスのビル版のようなものをつくりました。ビルから浮き出た顔たちが、「普段しゃべることのないビル同士がお芝居をしたら、どんなことをしゃべるかな?」と思ってつくった「たてもののおしばい」です。そういった街の風景を演劇空間にする作品をつくっています。
演劇=お芝居
ビルがおしゃべりするアート「たてもののおしばい」
あと、ふたりに今の「夢」の話を聞いて、今日どうしても紹介したいと思ったものがあります。
1万人の夢のたねプロジェクト
「1万人の夢のたねプロジェクト」というプロジェクトです。
かのぴ:
わあ。幻想的です。
幻想的ですよね。実際に夢のたねが降っているところも見てほしいな。熱気球をドンと打ち上げて、そこからキラキラした「夢のたね」を撒くんですけど、その1枚1枚が手紙みたいになっているんです。
この時は、大人から子どもまでみんなに自分の夢を書いてもらい、1万人の「夢のたね」を集めました。
琴ノ助:
すごい!
「夢のたね」に書かれた誰かの夢を読んで、これはどんな子が書いたんだろうと想像したり、自分の夢って何かな、どんな子が自分の夢の種を持っていってくれたかなって考えたり……。
そういう「夢の交換」や「人に対しての想像力」をテーマにしたいと思ってはじめたプロジェクトです。
小学校でワークショップをすると、低学年から中学年の子は、すぐ夢が書けるんだよ。自分は何にでもなれると思っているから。でも学年が上がるとだんだん悩み出す。
大人は「家族みんなが健康で暮らせますように」とか「これからもずっと平和でありますように」と書く人が多いね。
夢をいろいろ集めていると、年齢によって夢って変わっていくんだなあ、思いが深くなっていくんだなあと感じました。
かのぴ:
すてきな気づきです。
作品をつくるたびにいろんな気づきや出会いがある
「ひかりの実」という作品に込めた思い
かのぴ:
実はさっき匡太さんの「ひかりの実ワークショップ」を体験してきました。すごくかわいらしかったし、ひかりの実をかざった木を見て「こんなにたくさんの人がやっているんだ!」と思いました。
琴ノ助:
わたしも、いろんな人たちの10年間の願いが込められていて、すごくいいなと思いました。
二人ともとてもかわいいのをつくってくれたよね。あれは誰の顔を描いてくれたんですか?
琴ノ助:
わたしはお母さんの絵を描きました。
かのぴ:
わたしは誰かわからないけど、今日夢に出てきた女の子を描きました。
へぇ!それは今聞くまでわからなかった。おもしろいね。
ひかりの実ワークショップにチャレンジ!
木に2人がつくったひかりの実を取りつけます
さっき二人にも体験してもらったのだけど、「ひかりの実」のワークショップをするときは、まず目をつぶってもらって、「大好きな人を思い浮かべてください」と問いかけます。
そしてその時思い浮かんだ人の笑顔を描いてもらうんです。自分の笑顔でもいいし、お友達、お母さんやお父さん、おじいちゃんやおばあちゃん、誰でもいい。
心の中に大好きな人の笑顔を思い浮かべることが、「ひかりの実」のすごく大事な部分だと思っているからです。
みんなの笑顔がきらきら輝く「ひかりの実」
横浜・象の鼻パークでの展示の様子
表現することで認められるのが嬉しかった
琴ノ助:
子どもの頃は、どんな大人になりたかったですか?
子どもの頃の夢はいろいろと変わりました。物語の世界に入り込むタイプだったので、仮面ライダーを見たら「大人になったらバイクに乗るんだ!」とか、宇宙飛行士のドキュメンタリーをテレビで見たら「どうやったらなれるんだろう?」とか、やりたいことがたくさんありました。
ただ大きくなってくると、宇宙飛行士は体が強くなきゃいけないとか、エリート中のエリートがなれるものなんだとか、だんだんわかってきて。
ぼくは、子どものときは体が弱くて、学校もけっこう休みがちでした。運動は全然だめだったんですよ。
でも、本を読んだり、映画やテレビを見たり、絵を描いたり工作をしたりするのが好きだったから、そういうことを活かしたいなと思ったんです。小学校の卒業文集には「画家になって、世界の人とつながりたい」と書いたのを覚えていますね。
ドキュメンタリー=実際のできごとについての映画や番組
エリート=優秀で力がある人
かのぴ:
事前アンケートに、絵や工作のコンクールでたくさん賞状をもらったと書いてあったので、子どもの頃からすごくチャレンジ精神があったんだなと思いました。
チャレンジ精神=挑戦しようという気持ち
そうですね、いろんなコンクールに参加していました。人って、認められると嬉しいじゃないですか。
かのぴ・琴ノ助:
そうですね。
体は弱かったけれど、絵を描いたり、工作したりすることで、なんだか認められる感じがしました。みんなが喜んでくれたり、ほめてくれたりしたときの嬉しさというのは、何かをはじめるきっかけになりますよね。
かのぴ:
子どもの頃に憧れていた人はいますか?
小学生のときにすごいなと思ったのが、画家のゴッホですね!
ゴッホが子どものときに描いた絵が、ものすごく上手いんです。犬が走ってきて、キュっと踵を返す瞬間が描いてあるんだけど、ほんとうに上手で。「自分と同じくらいの年でこんな絵を描いていたのか」「ぼくには描けないなあ」と思いました。
それから、自分と同じ年でどんな作家がいるのかをよく考えるようになりました。ある海外の詩人も、14歳ですばらしい詩を書いているんですよ。憧れというよりも、ちょっと嫉妬に近かったかもしれません。
踵を返す=急に向きを変えること
詩人=詩を書く人
嫉妬=うらやましいと思う気持ち
かのぴ:
「アーティストになるってすごく大変だぞ」って周りの人から言われたそうですが、わたしはそういうプレッシャーにすごく弱いんです。プレッシャーのはねのけ方って、何かありますか?
ぼくも、プレッシャーにはそんなに強くないんですよ。
ぼくは中学から高校2年生まで、芸術家への道をあきらめていたことがあります。部活動はずっと美術部だったけどね。きっと、周りの大人や先生からの「芸術家ってすごく大変だぞ」という言葉がすごいプレッシャーだったんだと思う。
ところが、高校2年生の時にそれまでよかった成績が少し落ちて、その時に「ぼくは本当は映画や絵を描くことが好きだったな。もしかしたら自分は表現する仕事が好きなんじゃないか」とふと気づいたんです。
ずっといい成績を取らなければいけないというプレッシャーから、解放されたかったのもあるかもしれない。でもそれが改めて自分のやりたいことを考えるきっかけになりました。
プレッシャーをはねのけたいときは、自分で「これでいいんだ!」と信じられることが大事だと思います。高校生の頃のぼくも、自分で自分にプレッシャーをかけてしまっていましたが、でも結局は、「俺はこれが好きなんだ!これでいいのだ!」と思うしかなかったですね。バカボンのパパみたいに(笑)。
解放=自由になること
これまでに手がけたアートプロジェクトについて、たくさん紹介してくれた髙橋匡太さん。後編では子どもの頃からアーティストになるまでに経験したこと・考えたことや、みんなでつくる「アートプロジェクト」だからこそのおもしろさ、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係についても聞いていきます。
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:かのぴ、琴ノ助
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:南 裕子
サムネイルデザイン:南 裕子
編集:吉川ゆゆ・スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO