今回のお相手:中里希さん
東京の神宮前にあるご飯屋さん「ことり食堂」の店主。食材の仕入れから料理、お客さんに注文をきいて料理を出すことまで全部一人でおこなっている。食品ロスについても考え、普段から生産者の顔が見えるようにしている。ご飯を食べて喜んでもらえることが幸せ。
子ども取材班
No.5 かのぴ:
画力を上げることを頑張っている。将来の夢はイラストレーター。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことが嬉しかった。
相手の気持ちを想像しよう
かのぴ:
中里さんは食品ロスにも取り組んでいると聞いたのですが、どんな効果がありましたか?
食品ロスをすべてなくすのは難しいと思っていますが、「つくったものを大切にしよう」と思うと、減らすアイデアは考えられます。余ったものを捨てるのはもったいないので、違う料理にリメイクすることがあります。例えばマッシュポテトが余ったら「スープにすればおいしいかも」など、新しいアイデアによってびっくりするほどおいしいものができます。
食品ロス=売れ残りや食べ残し、賞味期限切れなどで本当なら食べられるのに、ごみとして捨てられてしまうこと
リメイク=元あるものを作り変えること
マッシュポテト=蒸したりゆでたりしたじゃがいもをつぶした料理
かのぴ:
リメイクでは何が一番おいしかったですか?
スープかな。冬はとろっとしたスープがおいしいだろうなと思いましたね。実際おいしくできたときは「捨てなくてよかった」「みんなやればいいのに」と思うほどでした。おうちでもできるし、無駄が減っておいしいものができると思います。
かのぴ:
食品ロスを気にせず、残したり捨てたりする人をどう思いますか?
ロスを出す人はつくった人のことを知らなかったり、料理している人の気持ちがわからなかったりするのかもしれないね。
「想像力の欠如」ですね。相手の気持ちを想像できないから、そうなっちゃうのかなと思います。野菜をつくる人、料理をする人など、食卓に料理が届くまでの間にいる人のことがよくわからないから、捨ててもいいかなと思うのかもしれません。知れば考えは変わってくると思います。
欠如=足りないこと、ないこと
食卓=ご飯を食べるテーブル
相手の気持ちを想像しながら料理をしている
命について考えることの大切さ
かのぴ:
食べ物を扱うお仕事ですが、食べ物についてはどう思いますか?
私が扱うお野菜やお米は全部、つくっている人のことを知っています。その人たちが雨の日も風の日も大切につくられるのを知っている。嘘をついたりごまかしたりすることなく、ちゃんと料理して食べてもらわなくてはいけないと思います。
以前、鶏肉をたくさん使っていました。お店に届くお肉は、スーパーに売っているのと同じように切られてパックで届きます。でもあるとき、「変だな」と思いました。
かのぴ:
変?
お野菜は畑から取っているのを調理しています。じゃあお肉は?もともと生き物ですよね。同じ命なのに、お肉は切ってあるものばかり使うのはおかしいと思いました。だからにわとりをさばくことにしました。
調理=料理をすること。その準備
かのぴ:
えっ!
首をおとして、包丁で腸や内臓を出しました。あのとき、命について考えなければいけないと思いました。お肉にカットされた状態のものばかり使っていたら、感覚が麻痺しちゃう。もともとがどういうものだったかわからなくなるからです。
腸=食べ物を消化してくれる内臓のひとつ。胃の下からおしりまである
内臓=体の中にある、体を元気にしたり動かしたりする部分。心臓や肺、胃、腸などがある
麻痺=何も感じなくなってしまうこと(「感覚が麻痺している」の場合)
ーとても大切なことだと思います。今は、スーパーで切り身になっている魚と、水族館で泳いでいる魚が同じものであると一致しない子もいるそうです。
そうですね。お肉もお魚も、もともと生きていた。それを想像することはとても大切で、忘れてはいけないと思います。わかっていたらもっと大切にするはずですから。
かのぴ:
私も大切にしようと思います。
どれももともとは命だった
―ここからは、「働く」ことと「お金」の関係についてもお聞きしていきましょう。働く大人はこの二つについてどのように考えているのでしょう?
楽しく暮らすために働いている
かのぴ:
中里さんは「働く」ということについてどう思いますか?
うーん、そうだなあ。働くとお金をもらえるでしょう?それは、相手からの「ありがとう」の気持ちでお金をもらっていると思うんです。
働いてお金を稼ぐことで、他の働く人にもお金を払える。服屋や、靴屋など、人はその仕事に対して「ありがとう」と思ってお金を使います。人と人とがつながっていくことが、働くということだと思います。
かのぴ:
「お金」についてはどう思いますか?
「働く」ということと似てきますが、誰かの仕事に対して「ありがとう」って言うための道具だと思います。「ありがとう」の言葉だけじゃなくて、お金を払うことがその人を応援することにもなります。
かのぴ:
では「お金を稼ぐ」ということについてどう思いますか?
昔はいっぱいお金がほしかったんです。なりたいものや、やりたいこともわからなかったから、お金があれば幸せになれると思っていました。
でも今は、おいしいご飯が食べられて、お布団で眠ることができて、好きな人に囲まれていたら幸せだとわかりました。お金はほどほどにあればいい。たくさん働くと疲れるし体を壊すから、自分が一番健康でいられるところを知るのが大事です。
かのぴ:
おいしいご飯とお布団、私も幸せです。お給料はどうやって決まるんですか?
食べてくれた人の数で決まる。わかりやすいよね(笑)。
かのぴ:
満足していますか?
満足しています。もうちょっとあったらいいなと思うけど、そう思うくらいがきっとちょうどいいんでしょうね。
幸せはお金だけじゃない
かのぴ:
中里さんは何のために働いていますか?
楽しく暮らすためかな。私の場合は、やっぱり人に会わないとつまらない。少しでもご飯を食べに来てくれる人がいて、お話しして、おいしかったよってお代をもらえて……楽しいよね(笑)。
はじめは料理もできないしお客さんもいなかったから、「なんて苦しい仕事なんだろう」と思っていました。でも今は毎日のように来てくれる人もいるし、会いに来てくれる友達もいます。幸せですね。
かのぴ:
「働く」と「お金の関係」についてどう思いますか?
働いて、お金をいただく。食材をつくっている人、料理を食べてくれる人など、顔がわかると信頼できるんだなと思います。その相手の顔を見て話して、どういう人かを知ると嘘はつけない。ずっとそうありたいです。
毎日幸せを感じながら働いている中里さん
かのぴ:
では最後に、子どもたちにメッセージをお願いします。
ご飯をつくって出す飲食店の仕事は、一度は経験してほしい。ただ食べに行くだけだとわからないことがすごく詰まっているから、ぜひ働いてみてほしいです。
ご飯を食べること、食べる場所には根本的なことが詰まっているから、どうやって成り立っているのかを知ると世の中が楽しく見えるし、変わって見えると思います。もし機会があったら、まずはアルバイトをやってみるといいよ。
根本=ものごとの最初にあるもの
かのぴ:
私もことり食堂で働きたい!
そう言ってもらえると頑張れます。
かのぴ:
ありがとうございました!
こんなお話もしました
かのぴ:
決まったメニューはないんですか?
そうだね。おうちでのご飯みたいに、私が考えて毎日違うご飯を出しています。
かのぴ:
えー!考えてくれるって、お客さんに嬉しいサービスですね。
会社員として働いていたころ、仕事が終わると疲れすぎて、食べたいものがないときがあったんです。お母さんがつくってくれたご飯が食べたかった。お母さんがつくるような気まぐれご飯が食べられるように、メニューは決まっていないお店にしました。
かのぴ:
たしかにお母さんのご飯は、メニューからは選ばないですね。中里さんが食べるときに何か思うことはありますか?
「人がつくったものはとてもおいしい」と私は思います。それに目の前の人のためにつくったご飯は、間違いなくおいしいと思っています。そういう関係性の場所でご飯を食べたいですね。ことり食堂もそうだといいな。
関係性=関係ができていること
食堂の店主ってどんな仕事?
・お店で毎日、朝にお客さんにご飯を出す準備をする
・ケータリングで料理をすることもある
・お客さんにご飯を食べてもらって、お金をもらって、お皿を洗って片づけをして、次の日の準備をして帰っている
食堂の店主の魅力
・ごはんを食べて喜んでくれる人が目の前にいる
・「自分がやったことの結果が目に見える
・全部が目の前で起こるため、幸せな気持ちになれるしやりがいがある
大変なこと
・全部一人でやっていること(中里さんの場合)
・風邪を引いたりけがをしたりしたら、お店を休みにしなくてはならない
・全部自分でしないと始まらないし終わらない
「働く」と「お金」の関係について
・働いてお金を稼ぐことで、他の働く人にもお金を払える
・誰かの仕事に対して「ありがとう」って言うための道具
・お金を払うことが相手を応援することにもなる
・人と人とがつながるきっかけになる
中里さんの思う大切なこと
・ つくってくれた人など、相手の気持ちを想像すること
・おいしいご飯が食べられて、お布団で眠れて、好きな人に囲まれていたら幸せ
・相手のことを考えて調理したご飯は間違いなくおいしいし、そういう関係がいい
・嘘をついたりごまかしたりしない
・お肉もお魚ももともと生きていたとを想像することが、命を大切にすることにつながる
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:かのぴ
編集部:スナミアキナ、吉川由
ライティング:吉川由
編集:スナミアキナ
編集長:吉川由
主催:YOKARO