今回のお相手:並木優さん
株式会社クオルで、エリアマネジメントに関わる仕事をしている。東京都新宿区にある「みちくさくらす」のオーナーでもある。仕事でもプライベートでも、まちづくりに励んでいる。子どもが二人いて、子どもに楽しく働く母の姿を見せたいと、毎日笑顔で働くお母さん。音楽が大好き。
子ども取材班
No.9 わー:
にわとりの世話をがんばっている。書道の級が上がったことが嬉しかった。
No.12 虹太:
お母さんが読んでいる新聞を、自分も読むことをがんばっている。山を散策して木を切ったことや、ビームライフルの体験をしたことが嬉しかった。
小さな積み重ねがまちをよくしていく
わー:
お仕事の魅力と、大変だと思うことは何ですか?
みちくさくらすでもクオルでも、いろんな人と関われることが魅力かな。まちのことを考えていく中で、たくさんイベントをひらいて、関係者とやりとりをします。
どちらも人が集まる仕事なので、いろんな人と知り合いになれます。ただ生活をしているだけでは出会わないような、魅力的な人に出会えたりする。これが一番の魅力だと思いますね。
わー:
魅力的な人って、具体的にどんな人ですか?
みちくさくらすはワークショップをやったり、カフェとして場所を使ってもらったりしています。私はまちづくりや建築をやっていますが、イベントをすることで、私とは全く違う仕事をしている人たちと出会える。近所のお寺のお坊さんが遊びに来てくれたり、喫茶店のマスターと仲良くなったりもしていますよ。
まちにはいろんなスキルを持った人や、まちをよくするために活動している人がいます。そういう人たちは、とても魅力的です。
今はコロナ禍で全然イベントができていないんですが……これはワークショップをやっている様子です。ワークショップをすると、子ども同士の出会いもありますね。
コロナ禍=新型コロナウイルスの感染が広がり、生活が変わってしまった状態のこと
みちくさくらすでのイベントのようす
わー:
大変だと思うことはありますか?
いろんな人が集まってくるので、困ることもあるんです。例えば怪しい勧誘の人が来たり、意見の違いがあったり。人が多いほど意見がぶつかることもあるので、その調整も大変です。
まちづくりは、その地域の人たちとやりとりを続けることが大事。やったことに対して、明日すぐに結果が出るというわけではありません。毎日の小さなことの積み重ねが、まちをよくしていくことにつながります。
小さなやりとりがすごく多いので、それも大変ですね。
勧誘=すすめや誘い
虹太:
生まれ変わってもまたこの仕事がしたいですか?
生まれ変わっても、まちに関わる活動はやりたいと思います。
今自分がやっていることを振り返ると、自分の家族がやっていたことにつながっているなと思いました。祖父は町長だったので、自分のまちでどうやってまちづくりをしていくのか、決める役目がありました。私がまちづくりに関わっているのは、もしかしたら祖父の血を受け継いでいるからかもしれません。
それに私が子どもの頃、祖母と母は英語の先生をしていました。その頃は英語教室というのは珍しかったので、夕方の時間になると私の家に毎日のように子どもが集まっていました。その風景が心の奥底にあって、いつか私も子どもが集まる場所をつくりたいと思いました。
家族がやっていたようなことを、今自分もやっている。家族のいい部分を引き継いでいると、大人になってから改めて思い、家族に感謝をしています。
地元はまちづくりのきっかけになった大切な場所
お金には代えられない価値がある
わー:
まちづくりの仕事は、今の子どもにもおすすめできますか?
おすすめできます。すごく楽しいです。
大きな会社に勤めている人も社会の力になっているし、おもしろいことをやっていると思う。でも個人や小さな団体でも、自分のやりたいことを、しかも社会にとっていいことをやっていこうという考えを持っている人が、私の周りに増えています。私は今33歳なんですが、特に同じ年代の人たちが多いですね。
これからの時代、お金には換えられない価値が、どんどん大事になっていくんじゃないかな。場所も、人も、ものも、みんなでシェアして、みんなで価値を共有していく。お金だけでは図れないところにやりがいを見いだしたり、自分で挑戦してみたいと思ったりする人が増えていくと思います。
2人が就職する年齢になったとき、まちづくりに関わる仕事は増えていくだろうし、注目されていくんじゃないかな。
価値=どれほどすばらしいか、またどれくらい大切かということ
シェア=分け合うこと
虹太:
これからやっていきたいことは何ですか?
自分の子どもが楽しく生きられる世界をつくりたいです。新宿区に住んでいる人間として、周辺のまちや人を巻き込んで、新宿を元気にしていくのが今後の目標ですね。
コロナ禍になってしまったことは、まちづくりの活動においてもインパクトがありました。2年前にはできていたことが、全然できなくなっちゃった。みちくさくらすも、コロナ禍の前ほどイベントができていません。
いろんなことを考えると、物事はなかなか進みません。感染が広がってもいけないし、思うように活動ができてない部分もありました。今後も新型コロナウィルスのような感染症と付き合いながら、生活していくことになるんでしょうけどね。
虹太:
そうだと思います。
今、愛知と茨城にいる2人と話せているのは、Zoomがあるおかげです。コロナ禍になって、オンラインでできることの幅が広がったと思うので、それはすごくいいことだと思います。
でも対面で会って話をすることや、集まって活動することの楽しさや価値は、今後も絶対にあるはず。会ってコミュニケーションをとることで生まれる価値を大事にしながら、活動を続けていきたいです。
わー:
楽しく生きられる世界をつくりたいって、具体的にどんな世界にしたいですか?
保育園や学童の人数がいっぱいで、なかなか入れないという話をしましたね。さらに新型コロナウィルスの影響で学校が休校になったり、イベントがなくなったりと、今の子どもは社会の影響を強く受けてしまっていると思うんです。私は、この状況を何とかしたい。
東京都内にはいろんな人が住んでいます。マンションの隣の部屋に住んでいる人を知らないこともある。
また、電車でも心配なことがあります。小さい子どもは、まだ上手にお話ができません。泣いたり大きな声を出したりして、自分の気持ちを伝えます。でも周りの人にはそれがうるさく感じられることも。だから、子どもを連れて電車に乗るだけで、迷惑そうに冷たい目で見られることもあります。
親だけで子育てをしなくちゃいけない世の中だと、子どもも生きづらいんじゃないかな。
もっとまち全体で、子どもを育てる意識を持てるといいですね。まちの人、一人ひとりが「まちをよくしていこう」「子どもを見守ろう」という意識を持ったら、きっと犯罪も減ると思います。
うちの子どもは、わーちゃんと虹太くんと年齢が近いので、2人にとっても楽しく生きられる世界にしたいな。
わー:
なるほど。
まちに顔見知りの人がたくさんいると、子どもも安心できるし、毎日が楽しくなると思うんですよ。だから、まち全体で子どもを育てるのが当たり前で、今よりも子どもがいろんな大人と関われる世の中になったらいいなと思います。
2人はNARIWAIにも積極的に参加しているから、きっとすてきな大人ともたくさん出会っているんでしょうね。これからはそれが当たり前になって、大人と子どもが出会える機会も増えていくといいんじゃないかな。
たくさんの人たちとの出会いを大切にしている
どうせなら楽しく働いて、いきいきしたい!
虹太:
ここからは、「働く」ということと「お金」の関係について聞いていきます。「働く」ということについてどう思いますか?
私にとって仕事は、趣味や興味、楽しいと思うことと重なります。だから「働くこと=楽しい」。毎日働いているのか趣味でやっているのか、いい意味でわからなくなるほど楽しいです。
でもそういう人ばかりじゃなくて、お金を稼ぐために割り切って働いている人もいると思うので、考えは人それぞれ。ただ一般的に1日8時間は働くだろうから、仕事がつまらないと、1日の多くの時間が楽しくなくなりますよね。
1日の大部分を使って、わざわざ子どもを保育園に預けてまで働いていますからね。どうせなら楽しいことをやりたいと思うし、みんなが楽しいと思って働いたら、いきいきした社会になるのになと思います。
わー:
「お金」についてはどう思いますか?
最低限生きていくお金は誰でも必要だと思うので、その分のお金は稼がなきゃいけないと思います。わーちゃんと虹太くんのご両親もきっと、2人を育てるために働いたり、貯金したりしていると思う。
私も親なので、子どもに不自由をさせず、自分もちゃんと生きていけるお金が必要です。でもいっぱいお金が欲しいからって、毎日毎日残業して働いて、つらい思いをたくさんして、全然プライベートを楽しめないのは違うかな。
私だったら、楽しさと、お金と、どうやったら社会やまちにいいことができるかが大切。その3つが、うまくバランスが取れて納得のいくところを選んで働いています。
クオルでのワークショップのようす
虹太:
お金を「稼ぐ」ことについてはどう思いますか?
稼げなかったら生きていけないので、最低限稼ぐことは必要だと思います。でもさっき言ったように、お金には換えられない価値もある。私の場合は、人が集まる場所でいろんな人と知り合いになれます。人がつながっていくことで、新しい発見ができるし楽しい。
出会いの中で、「この人に頼んでみよう」「この人と一緒にプロジェクトをやったらおもしろいことが生まれるかも」と、新しいプロジェクトが生まれることもあります。
そういうつながりをたくさん持っていると、もっとおもしろいことができたり、もしかしたら新しいお仕事が生まれて、お金になったりするかもしれない。私はお金には換えられない価値を大事にしていきたいので、稼ぐことにはこだわらなくてもいいのかな、とも思います。
プロジェクト=目標を達成するための計画
わー:
お給料はどうやって決まるんですか?満足していますか?
クオルのお給料は、会社からの評価で決まります。社長と3ヶ月に1回面談をして、成果が認められたらお給料も上がります。前に働いていた会社では、年齢で金額が決まるという、納得がいかない評価もありました。だから、今は満足していますよ。
成果=やり遂げたことで得る結果
評価=どれだけ価値があるかを考えたもの
虹太:
並木さんは、何のために働いていますか?
最低限のお金を稼ぎつつも、楽しくまちに関わって好きなことをして、楽しく働いている母の背中を自分の子どもたちに見せるためです。
わー:
「働く」と「お金の関係」について思うことを教えてください。
私は社会と関わる活動をしているので、仕事が直接お金になりにくいというジレンマもあります。活動がもっと世の中に評価されて、お金が集まるような仕組みになっていればいいのにな、と思うことがよくあります。
どんなに魅力的な活動でも、お金が全くなくては続けられませんからね。
わー:
最後に、子どもたちへのメッセージをお願いします!
私はわりと何も考えないで、子どもの頃から大学までぼーっと過ごしてしまいました。もっと社会を見て、いろんな人と会って、自分は大人になったら何がしたいのか真剣に考えればよかったなと思います。
仕事をするにも、趣味を楽しむにも、子どもとの時間を過ごすにも、結局は人の縁。魅力的な人と出会い、一緒になにかをやり遂げることで、きっと自分の可能性は広がります。
だから子どもや若者には、いろんな大人にたくさん会って話をして、いろんな活動に飛びこんでみてほしいです。私も子どもが生きていく環境をいいものにできるよう、一人の大人として、そして母として全力を尽くします。
勉強も大事ですが、いろんな考え方の人に出会って、自分の世界を広げていってくださいね!
わー・虹太:
ありがとうございました!
まちづくりコーディネーターってどんな仕事?
・イベントをやったり、いろんな仕掛けを考えたりしながら、街全体を盛り上げる
・人と人がつながるきっかけづくりのイベントを考える
・人と一緒に、まちや地域のコミュニティをつくる
・まちの魅力を上げることを目指して、コンサルティングをする
まちづくりコーディネーターの魅力
・いろんな人と関われる
・いろんな人と知り合いになれる
・ただ生活をしているだけでは出会わないような、魅力的な人に出会える
・お金だけでは測れないところにやりがいを見いだせる
大変なこと
・いろんな人が集まってくるので、変な人が来ることもある
・意見の違いやぶつかることがある
・仕事や活動に対して、すぐに結果が出るというわけではない
・小さな積み重ねややりとりが多い
「働く」と「お金」の関係について
・働くこと=楽しい
・みんなが楽しんで働けるようになると、いきいきとした、いい社会になる
・最低限生きていくお金は誰でも必要
・仕事の楽しさと、もらえるお金のバランスが大切
並木さんが思う大切なこと
・楽しく働いている親の背中を子どもたちに見せる
・実際に会ってコミュニケーションをとることで、生まれる価値がある
・魅力的な人と出会い、一緒になにかをやり遂げることで可能性が広がる
・お金には換えられない価値が、どんどん大事になっていく
・毎日の小さなことの積み重ねが、街をよくしていくことにつながる
・まち全体で子どもを育てるのが当たり前で、もっと子どもがいろんな大人と関われる世の中になってほしい
・いろんな大人にたくさん会って、たくさん話をして、いろんな活動に飛びこんでほしい
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:わー、虹太
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:吉川ゆゆ
サムネイルデザイン:南 裕子
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO