今回のお相手:中嶋千夏さん
水族館の飼育員という仕事を生業としている。飼育員になって27年の、海の動物たちのお母さんのような存在。福岡県にある「マリンワールド海の中道」で、アシカ、アザラシ、イルカ、スナメリの飼育を担当している。一番好きな動物はアシカ。
子ども取材班
No.13 みかん:
勉強やダンスを頑張っている。水槽から飛び出した魚が生きていて、元気になったことが嬉しかった。
No.14 伊藤 凛:生業にしたい職業は女優。ミスプリティーンインターナショナル日本大会グランプリになったので、世界大会に向けてウォーキングやスピーチをがんばっている。
No.10 ばん:
バスケのドリブル練習・二重とびをがんばっている。誕生日にレストランに行ったこと、大繩でみんなで目標達成したことが嬉しかった。
No.12 虹太:
お母さんが読んでいる新聞を、自分も読むことを頑張っている。山を散策して木を切ったことや、ビームライフルの体験をしたことが嬉しかった。
命と向き合うことの大切さを知った
ばん:
この職業の魅力と、大変だと思うことは何ですか?
私にとってこの職業の魅力は、命と向き合えることです。赤ちゃんが生まれたときは、本当に嬉しい瞬間です。でも反対に、おじいちゃんおばあちゃんになった動物たちが病気で亡くなったときは、とても悲しい気持ちになります。
命の誕生に出会えることや、悲しくても亡くなった動物たちをちゃんと見送ることができるのは、水族館で飼育係をしている私にとっての大きな魅力です。
大変なことは、悲しくても落ち込んでも、ずっと泣いてはいられないこと。水族館にいらっしゃったお客さまは、飼育員に泣きながら「こんにちは」と言われても困りますよね。
それに悲しんでいる間も、他の動物たちが元気で健康に暮らせるように、お世話をしないといけませんから。
みかん:
マリンワールドでは、亡くなった生き物はどうしていますか?
その生き物をちゃんと調べて、どうして亡くなってしまったのか、病気だったのか、それとも事故だったのか、理由を探すために解剖をします。原因を突き止めて、「私たちにできることはもっとあったんじゃないか」としっかり反省します。
解剖=体を切り開いて原因を調べること
ばん:
動物のお世話で大変なことは何ですか?
動物たちは、お話ができないですよね。「お腹痛い?」と聞いて、「痛いよ」と返してくれるわけじゃない。動物たちが人間の言葉で話せない分、私たちは動物たちをよく観察することで、「何かおかしいんじゃないか」「もしかしたら病気かもしれない」など、具合を感じ取れるようにしています。
ドラえもんみたいに何か道具があって、動物たちと簡単に会話ができたらわかるんだけど(笑)。普通にお話ができないのが、ちょっと難しいところです。
動物たちそれぞれのいいところを伝えていきたい
虹太:
生まれ変わっても、またこの仕事がしたいですか?
はい、もちろんしたいです!水族館で飼育係として働くことができて、今とても楽しいので、私はすごく恵まれていると思います。生まれ変わってもこの仕事がしたいです。
ばん:
今まで水族館で何の生き物のお世話をしましたか?
最初は魚の飼育係をしました。魚にもたくさんの種類があるんですよ。
それからアシカショーのチームに入り、アシカとラッコの飼育をしました。今は違うチームにいて、アシカ、アザラシ、イルカ、スナメリを飼育しています。
アザラシだけでも11頭いるし、イルカも3頭います。ショーをしているイルカたちとは、チームが違うんですけどね。
全員:
へえー!
イルカに似た動物、スナメリ
動物たちは、みんなそれぞれ顔が違います。イルカもアザラシも、アシカもそう。顔も違えば性格も違って、強気なアザラシ、頑固なアザラシ、気弱なアザラシもいます。そういうところもお客さまに伝えられればいいなと思っています。
頑固=意地っ張りなこと
写真をお見せしましょうか。この日に生まれたゴマフアザラシの子どもです。
お母さんは体重が120kgあるけれど、子どもは8kgくらいです。
これは、お母さんと子どもの写真。鼻を突き合わせているのがわかりますか?お互いの匂いを確認しているところです。
アザラシのお母さんが、子どもが生まれて最初にすることは、自分の子どもの匂いの確認です。鳴き声も、お母さんと子どもの間ではとても重要なんです。
自然の海で生まれたら、周りにもたくさんの親子がいます。だから、お母さんの匂いや自分の子どもの匂いをわかっておかないと見つけられません。子どもたちは、間違えて近所のおばちゃんのところに行かないように、自分のお母さんの匂いや鳴き声をちゃんと覚えて探します。
もし間違ってお隣のお母さんのところに行っちゃうと、そのお母さんから怒られるんです。
全員:
(笑)。
水族館で飼育している時も、お母さんは子どもをすごく大切に育てます。水族館には、生まれたらお母さんと子どもだけで暮らせるスペースがあるんですよ。
―お父さんは関わらないんですか?
残念ながらアザラシのお父さんは、子育ては何もしませんねえ。みんなのお父さんは、子育てしているよね?(笑)
動物たちのために、細かいケアを続けていきたい
虹太:
飼育員の仕事は、今の子どもにおすすめできますか?
おすすめできます!さっきお話ししたように、水族館の飼育係は命と向き合うことができるお仕事なので、子どもたちにもおすすめです。
動物の飼育係は難しいけれど、とても楽しい仕事です。なので、アザラシの飼育係になりたいって言ってもらえると嬉しいです。
みかん:
アザラシの飼育員になるために、今のうちにしておいたほうがいいことは何ですか?
水族館に行って、動物をよく見ることかな。飼育員になるには、もちろん学校の勉強も役に立ちますよ。友達と遊ぶのも、お父さんやお母さんのお手伝いをするのも、飼育員になるためにもとても重要なことだと思う。
「これさえやっておけばいい!」というのはないんだけれど、毎日体に気をつけながら、一つひとつに一生懸命取り組んでいくのがいいと思います。
マリンワールドのゴマフアザラシ
みかん:
飼育員さんが働いている時に、質問したり話しかけたりしてもいいんですか?
いいですよ、もちろん!何でも聞いてください。飼育員さんとたくさんお話できるといいね。
伊藤凛:
私たち子どもが、海や海の生き物を守るためにできることは何だと思いますか?
みんな難しいことを聞いてくるね!(笑)
海や川に遊びに行った時に、そこにゴミを捨ててはいけないのは、もちろんみんなもわかっていると思う。海にゴミがあるとどういうことになるのかをわかっていれば、今はそれでいいんじゃないかな。
友達や周りの人に、「海にゴミがあると、動物たちや魚たちに影響があるんだよ」と教えられるようになれば、それはすごくいいことです。「ウミガメはクラゲと間違えて、ビニール食べることもあるんだよ」「ビニールをポイ捨てないようにしようね」と言うだけでも、すごく意味がある。
ぜひ取材班のみんなから、周りの子どもたちに伝えてもらいたいです。
伊藤凛:
わかりました!
虹太:
これからやっていきたいことは何ですか?
「生き物は自然の海で暮らすほうがいいんじゃないか」と言う人もいます。でも、生き物たちのすばらしさや能力などを感じてもらえる場所が水族館だと思います。自然も、水族館も、どちらもいい部分がある。
最後の最後まで元気に、ちゃんと寿命を全うできるようにサポートするのが、飼育係の仕事。私は今、生き物たちが健康で暮らせるように、毎日一生懸命仕事をしています。これからも今まで通り、生き物たちをしっかりとサポートできるように、一つひとつ丁寧に仕事をしていきたいと思います。
寿命を全うする=病気やケガなく、限界まで生き抜くこと
動物たちのすばらしさを伝える場所、マリンワールド海の中道
ばん:
ここからは「働く」と「お金」の関係についても聞いていきます。「働く」ということについてどう思いますか?
社会で働く1人として、自分が働くことで、何かしら社会の役に立っていると思えているので、それはすごく嬉しいことです。
何より私の場合は、水族館で自分の好きな仕事をやらせてもらっているのが、本当にありがたいですね。
みかん:
「お金」についてどう思いますか?
「お金がないと生きていけない」とみんな言うよね。たしかに、食べるもの、着るもの、住んでいる場所にはお金が必要です。
私は大金持ちにならなくてもいいから、普通に生活できるくらいのお金は持っておきたいので、お金はとても大事だと思います。
伊藤凛:
「お金を稼ぐ」ということについてどう思いますか?
みんなも毎日ご飯を食べるよね?お父さんお母さんが一生懸命お仕事をして、お金を稼いできてくれたからご飯を食べられる。お金を稼ぐということは、生きていくためにもすごく大切なことです。
私は自分のやりたい仕事をしながら、お金をいただいています。すごく幸せなことだなぁと思います。
動物たちとのふれあいは、とても幸せな瞬間
虹太:
お給料はどうやって決まりますか?満足していますか?
ここだけの話、私のお給料はあまり高くないのよ(笑)。でもね、会社がその人の能力や働き方を見て決めているので、私は満足しています。
能力=持っている力
ばん:
中嶋さんは、何のために働いていますか?
私はこの仕事がしたいので働いています。27年前からずっとそう。自分がこの仕事をやりたいと選んだので、お給料が高くなくても頑張っています。
みかん:
「働く」と「お金」の関係についてどう思いますか?
これもまた難しい質問だね。
普段以上に一生懸命頑張った時や、もっとお金が欲しい時には、「少しお給料を上げてほしいな」と悩むこともあります。満足はしていると言ったものの、バランスが難しいですね(笑)。
自分の能力を使って仕事をし、評価してもらってお金をいただく。働くうえで、そのバランスがうまく取れているといいなと思います。
伊藤凛:
では最後に、この記事を読む子どもたちへメッセージをお願いします。
自分が本当にやりたい仕事をして、お給料がもらえている私は、とても幸せだと思います。みなさんにもぜひ、「この仕事をしてみたい」「こんなことがやりたい」と思うことを見つけてほしいです!
全員:
ありがとうございました!
こんなお話しもしました
この子はシシオ君といいます。生まれて2日くらいの写真なので、この姿を覚えておいてくださいね。
では次。手の部分の毛がなくなっているのがわかりますか?
全員:
わかります。
アザラシは、ホッキョクグマという天敵に見つかることが多いんです。でも、白い氷の上で白い体をしていると、見つかりづらい。だから、生まれた時は白い毛に覆われています。
覆われる=包み込まれること
この毛は14日間で、全部抜けます。生まれた時に生えていた白い毛が、14日経つとこの写真のようなゴマ模様になっちゃう。海に浮かんでいる氷の上にいるアザラシにとって、自分の体が黒いとすごく目立つでしょう?
子どものアザラシは白い毛が全部抜ける間に、自分でご飯を食べたり、泳いだりする方法を全部覚えないといけません。14日後には、お母さんはそばにいなくなるから。
全員:
えっ!
アザラシは14日間のうちに、たくさんおっぱいを飲んで、体を大きくして、魚を自分で捕まえられるようになります。自分で泳いで、自分で生きていく方法をお母さんから教えてもらう。そうして毛も生え変わって成長していきます。
アザラシたちにとって、あっという間にお母さんがいなくなってしまうので、さみしいでしょうね。でも水族館の場合は一緒のプールで生活をすることがあるので、お母さんと子どもの様子を見られますよ。それは水族館ならではですね。
水族館の飼育員ってどんな仕事?
・動物の観察をしながら、お世話をしている
・エサの準備をしたり与えたりする
・動物たちが快適に暮らしやすいようにする
・プールや水槽など、住む場所をきれいに維持するために掃除をする
水族館の飼育員の魅力
・命と向き合える
・命の誕生に出会える
・亡くなった動物たちをちゃんと見送ることができる
・大好きな動物たちと毎日ふれあうことができる(中嶋さんの場合)
大変なこと
・悲しくても落ち込んでも、ずっと泣いてはいられない
・動物は会話ができないので、観察して様子を読み取らないといけない
「働く」と「お金」の関係について
・生活できるくらいのお金は必要
・お金を稼ぐのは、生きていくためにもすごく重要なことであり、大切なこと
・「働く」と「お金」の関係は、バランスが大事
中嶋さんが思う大切なこと
・動物たちを一頭一頭ちゃんと見極めて、名前と顔を覚える
・毎日「動物たちは元気に過ごしているかな?」と観察する
・自分のやりたい仕事をしながら、働いてお金をいただけるのはすごく幸せ
・「この仕事をしてみたい」「こんなことがやりたい」と思うものを見つける
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:みかん、伊藤凛、虹太、ばん
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
写真提供:マリンワールド海の中道
ライティング:吉川ゆゆ
サムネイルデザイン:南 裕子
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO