今回のお相手:大越晴子さん
横浜にある「象の鼻テラス」のスタッフとして、イベントの運営や企画をしている。街とアートに関心が深い。もともとは美術大学で建築の勉強をしていて、建築の仕事をしていたこともある。横浜生まれ、横浜育ちのハマっ子。
子ども取材班
No.1 ケイティ:
空手や書道を一生懸命がんばっている。空手で館長賞を取ったことが嬉しかった。
No.5 かのぴ:
画力を上げることを頑張っている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことが嬉しかった。
生活をするためにお金を稼ぐ仕事のことを「生業」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。
今回のゲストは大越晴子さん。アートマネジメントです。アートマネジメントって、いったいどんなお仕事なのでしょう?
ケイティ・かのぴ:
よろしくお願いします。
大越さん:
よろしくお願いします。
やりたいという熱意と想像からはじまる
かのぴ:
子どもの頃は、どんな大人になりたかったですか?
漫画家、ガラス職人、花火職人、和菓子職人など、ものをつくる人に憧れていました。子どもの頃から、手の中ですてきなものが出来上がるようなテレビ番組をよく見ていたんです。
今でも職人さんが、手を動かしてつくっている様子を眺めるのが好きです。ものができあがっていく様子や、職人さんの鮮やかな手の動きが好きなんだと思います。
もうひとつ好きだったのが、新聞に挟まっているマンション販売のチラシを眺めて、自分の部屋のレイアウトを空想すること。そこからだんだんと就きたい職業につながっていき、インテリアコーディネーターに憧れるようになりました。それが建築系に進むきっかけです。
販売=売ること
空想=実際にはないことを頭の中で想像すること
ケイティ:
憧れていた人はいますか?
誰かに憧れていたというのはなくて。職人さんみたいな職業に憧れることはありました。
かのぴ:
職業名は何ですか?
アートマネジメントです。
ケイティ:
つまり何をしているお仕事なんですか?
音楽、舞台、展覧会など、さまざまな文化・芸術活動の作品を、人の目に届くまでに必要な仕事を全体的に行っています。アートと社会をつなぎます。
展覧会の企画に合わせ、作家さんの作品をどのようにお客さんが観て体験するのかを考え、展示方法を決めて、必要な設備などを準備する。そしてお客さんに作品のことを詳しく知ってもらうためにどうするかを考えます。多くのお客さんに来てもらえるようお知らせをする広報活動もしますよ。チラシをつくったり、WEBページやSNSなどインターネットを活用したりする方法もあります。
実際にお客さんが来るようになったら、運営といってお客さんの対応をしたり、問題がないかチェックをしたりしています。やることはいっぱいありますね。これらを全部考えながら進めていきます。
設備=ある目的のために必要なものや装置、建物などを備えたもの
広報=多くの人に知ってもらうための仕事
WEB=インターネット
SNS=ソーシャルネットワークサービス。インターネット上でコミュニケーションをとることができる仕組み
かのぴ:
いっぱいあってすごい……。
美術館や劇場など、場所によってやりかたは違うと思うので、あくまで象の鼻テラスを運営している私の立場のお話ですけどね。
私が働いている象の鼻テラスは、アートに関わっているけれど美術館ではなく、無料休憩施設とアートスペースを合わせた場所です。なので、休憩施設を使うためにふらっと立ち寄るお客さんが、アートを観たり体験したりすることを考えて運営しています。
まずは利用する方、主に横浜市民のみなさんにとって、今の社会にどういうプログラムがあるといいかを考えます。それをもとに展覧会を企画して、「どんな芸術活動があるといいか」「どう展示するか」「観るだけじゃなく体験できるワークショップを企画するか」「広報をどうするか」などいろんなことを考えます。毎回同じようにはいかないですね。
たくさんの人が休憩する象の鼻テラス
かのぴ:
アートマネジメントにはどうやったらなれるんですか?
美術に関わる人は、学芸員資格を持っていることが多いです。私は持っていないんですけどね。私の職場は資格がないと働けないわけではなく、やりたいという熱意が大切だと思っています。観る人の気持ちや、展示物の取り付け方に危険はないか、さまざまな場面で想像できることも必要です。
もちろん、芸術が好きなことも重要です。誰かがつくったものをお客さんに見せるサポート側の職業なので、縁の下の力持ちになれるタイプが向いてるかな。一緒に形にできた時はとても嬉しいので、仲間と一緒につくることが好きだといいですね。毎回文化祭の準備をしている気分です。
学芸員資格=博物館や美術館で働くための資格
縁の下の力持ち=見えないところで人を支えること
ケイティ:
資格は必ず必要なものじゃないんですね。
資格はなくても、私の周りにはプロフェッショナルとして、いろんな分野で活躍している人がいます。それぞれの視点で課題を持って向き合っている。芸術は、世の中のいろんな問題を目に見える形にしてくれます。芸術の勉強をしてきた人だけではなく、誰もが関わる可能性がある仕事だと思います。
分野=ものごとをある基準で分けたもの
視点=ものごとの見方
課題=解決しなくてはならない問題
ケイティ:
プロフェッショナルとして活躍している人って、どんな人たちですか?
照明技術の仕事をしているとか、自身もアーティストとして活躍しているとか。私はプロとはいえないけど、建築設計に関わってました。あと語学が堪能な人も多いです。いろんな国の、表現方法が違う人たちとコミュニケーションを取ることがあるので、大切な能力ですね。
照明技術=照明を使って見やすくしたり演出したりすること
堪能=上手なこと、優れていること
大越さんが働いている象の鼻テラス
かのぴ:
劇場ってお芝居をするところですよね。アートマネジメントは、そこではどんなことをするんですか?デザインや、ものを置くところも考えるんですか?
どのようなデザインやセットがあるといいのかは、作家さんが考えます。私たちは、作家さんのアイデアを形にするにはどうすればいいかを考えます。
例えば、「倒れたりしないよう安全に置くためにどうするか」「専門家に意見を聞いた方がいいのか」「作品のイメージに合わせてどんなふうに置くか」などですね。ただものを置くだけではありません。危ないことや心配なことがないように、対策を考えるのが仕事です。
専門家=その分野のプロ
ケイティ:
子どもの頃に空想していたことで、大人になってから展覧会などで実現した経験はありますか?
子どもの頃に思い描いていたのは、自分の身の回りの暮らしでした。自分の部屋がこうだったらいいなあ、みたいな。今の仕事では、展覧会に来た人がどういう風に展示室の中を歩いていくのか、どういう風に作品と出会うのかを考えます。それは昔、自分の部屋を思い描いていたのと同じように想像しながら考えていますね。
展示室=展示している部屋
作品をどう見せるか真剣に考えている
アートをもっといろんな場所に登場させたい
かのぴ:
大越さんが建築系のお仕事ということで、私も建築のドラマを見てみました。そのドラマでは模型をつくっていたんですが、アートマネジメントという職業でも模型をつくりますか?
場合にもよるけど、模型をつくることがあります。私は大学で建築を学んでいたので、模型をつくったり絵を描いたりする勉強をしました。一緒に建物をつくる人に説明するときに、文字よりも模型や絵のほうが一目でわかるし、伝えやすいんですよね。今の職場でも、伝えやすいと思ったときは模型をつくることがあります。
模型=実物に似せてつくったもの。ものによっては、実際よりも大きくしたり小さくしたりすることもある
かのぴ:
なぜアートマネジメントの仕事をしようと思ったのか、そしてしているのかを教えてください。
アートマネジメントの仕事は、どうすれば美術・芸術活動をもっといろんな場所に登場させることができるのかを考えます。
美術館だけではなくて、田んぼの中や都会の空きビルを使うなど、外に飛び出してまちの人と一緒に作品をつくることもあります。そうすると、関わる人が美術館の中以外にも増えてくる。このような活動を通じて、新しく関わった人も価値観が変わったり、その場所の新しい魅力につながったりもします。
美術や芸術としてみせるだけでなく、周りに影響を与えられます。舞台となった場所や、人々に変化を生み出すこともできる。このことを「まちづくり」と呼びます。建築を学びながらまちづくりにも関わりたいと思っていたので、今の仕事につきました。
ケイティ:
まちの人と一緒につくると、どんないいことがありますか?
新しい体験が人々の価値観や意識を変え、より豊かな暮らしにつながることだと考えています。芸術活動は、そういう体験を生みだせると思っています。芸術活動に当事者になって関わるほうがより実感できる。そして街に広げることで、人々が関われるきっかけをなるべく多くつくることができます。
価値観=どれほどすばらしいかという考え
参加者は楽しんでアートとふれあっている
かのぴ:
建築や企画のアイデアはどうやって浮かぶんですか?
作家さんの作品を置くときに、どういう企画にするとよいかをまず考えます。さっきの田んぼの中に作品を置くというのもそうですが、こうしたらどんな風にいいことがあるかを提案する。
このようなアイデアは、今世の中の考えがどうなっているか、そのまちが抱える課題が何かを考えて提案したほうがいいと思うんです。あとは、今まで関わりがなかった場所に、新しい使い方で新しい価値を生み出す。それが企画のもとになります。
アイデアは今までの人生の中での出会いや、体験から来ることが多いです。修学旅行やお泊り会みたいに、小さい頃の楽しかった思い出とか。自分だけでなく、みんなも経験してきたことなので、楽しい思い出と重なっていいイベントになります。
かのぴ:
私は今度学校で日光に行くことになって。パンフレットづくりを頑張ってるんですが、企画のコツなどはありますか?
参加する人にどういう気持ちになってもらいたいか。それをゴールに設定します。たくさん情報がほしいのか、読みものとしておもしろくしたいのか、ガイドブックのように歩いてもらいたいのかなどを想像して企画します。ゴールを決めたら、載せる情報や順番を考え、どうしたらみんなが読みやすくなるか。大事な軸がぶれないようにするのがポイントです。そうすると、きちんとまとまると思います。
これは結構大事なこと。私の仕事も同じで、展覧会の企画が、誰にとってどういうものになってほしいかというのが、一番の軸になります。
アートといっても本当にさまざまな種類がある
アートと社会をつなぐサポート役
かのぴ:
この職業の魅力と、大変だと思うことは何ですか?
届けたい思いをきちんと形にするために、「ここまでやり切ろう」とゴールを決めます。それに向かって、するべきことを1つずつ組み立てていくのは楽しいです。
大変だなと思うことは……毎日大変ですね(笑)。書類を10つくったら今日の仕事は終わり、のようなちゃんとした終わりがありません。「こうしたらもっと伝わるかも」と考えれば考えるだけ仕事があります。自分で仕事内容を決めたり、ゴールを決めたりしないといけません。
かのぴ:
エンドレスなんですね。
お客さんに届けたい思いをどのようにするといいか、やり方はいつも違います。同じこと一度もないので新鮮ですが、大変でもあります。
世の中の動きを見つめて、一つ先をいくような価値観をみせる。今まで体験したことがないものを生み出すことを意識しているし、これからもそうしていきたいです。
エンドレス=終わりがないこと
ケイティ:
生まれ変わってもまたこの仕事がしたいですか?
NOですね(笑)。生まれ変わった人生で、心を動かされる何かに出会って、それを目指したい。違う人生も楽しみたいです。
かのぴ:
アートマネジメントは、今の子どもにおすすめできますか?
「その人に合うかどうか」「好きかどうか」が大事なので、この職業にかかわらず、全員におすすめするというのは難しいですね。表で作品をつくる人たちがいて、それを社会とつなぐためにサポートする。アートマネジメントは、裏方のお仕事です。
ただ、大事な職業だと思います。どの仕事でも、表で活躍しているものの裏側には、それを支える人や陰で頑張っている人がいます。そういう人がいるということを、忘れないでほしいですね。
裏方=表に出ている人を裏で支えること
ケイティ:
大越さんが、表に出ている人を支えるために頑張っていることは何ですか?
アーティストの作品を、より広くいろんな人に知ってもらいたい、感じてもらいたい、体験してもらいたい。そのためのやり方は、すごくたくさんあります。自分がどれだけ想像して動くかによって、体験する機会も内容も変わります。より多くの人に伝えられるよう、考えながら動いています。
アートを体験できるイベントもある
FUTURE SCAPE PROJECTについて
ー今回の取材は、10月2日から開催されるイベント「FUTURE SCAPE PROJECT」の企画のひとつとして行われました。イベントについても、詳しくお話を聞いてみました。
ケイティ:
大越さんがいる場所は、なぜ象の鼻テラスという名前なんですか?
実はね、海の向こうに堤防があって。それが象の鼻のような形をしていることが由来です。江戸時代に日本は鎖国をしていました。学校でも習ったかな?そこにペリーがやってきて、国が開いて海外との交流や貿易がが盛んになりました。そのペリーがやってきた場所がここなんです。
堤防=水が入ってこないように、土や砂、コンクリートでつくったもの
由来=名前のもとになったもの
鎖国=外国の人が入ってこられなくしたり、やりとりをできなくしたりすること
貿易=海外ともののやり取りをすること
ケイティ・かのぴ
すごい!
私もここで働くようになって知ったんですけどね(笑)。船の行き来が盛んになってきたときに、波が押し寄せるのをとめるために堤防ができました。その堤防がどんどん形を変えていって、象の鼻に似た形になったそうです。
かのぴ:
今回のイベントではどんなことをしているんですか?すごく気になってて。
ありがとうございます。「FUTURESCAPE PROJECT(フューチャースケープ・プロジェクト)」というアートプロジェクトです。
象の鼻テラスがあるのが、象の鼻パークという広場なんですね。広場や公園のようなみんなが使える場所を「公共空間」と呼びます。象の鼻パークも、公共空間。私たちが自由に過ごしたり使ったりしていいんですが、禁止されていることも多いんです。
2人は公共空間にどんなイメージがありますか?
かのぴ:
友達と遊んだり、持久走をしたりするイメージです。
ケイティ:
私も。あと気分転換の場所とか。
うんうん、思い思いに使ってる場所のイメージがあるんですね。
公園はだいたい行政の人が管理しています。誰かに迷惑をかけるのはよくないですよね?みんなが使う場所だからこそ、ルールがある。でもそのルールも、行政の人が管理をしやすいように決まっていることが多いです。私たちは決められたルールに慣れてしまっているけど、本当はもっと「自分たちが使う場所として、自分たちで使い方の可能性を広げたい」と思ったのが、今回のイベントのはじまりです。
公共空間を自由に使うことを、アートプロジェクトを通して伝えたい。新しい使い方をしたり、一人一人が自分から関わろうとする機会につながることを目指しています。
そして、もう一つ大事にしたいと思っていることがSDGsです。わかりますか?
行政=この場合は、県庁や市役所でその街のために働いている人たちのこと
SDGs=持続可能な開発目標のこと。地球や地球に住む人を守るために、2030年までに達成すべき17の目標。
参考資料:UNICEF
かのぴ:
学校でたくさん調べました。
ケイティ:
私も。
学校で習うんですね。わたしたちはSDGsにつながる、環境、災害、教育、食、花と緑、健康の6つのテーマに合わせて、プログラムをつくりました。
アートマネジメントのお仕事について、熱意をもってお話ししてくださった大越さん。子どもたちもその熱さに驚いていました。後編では引き続きイベントの内容と、アートマネジメントへの想い、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係についても聞いていきます。
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イベント情報
ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT 2021
会期:2021年10月2日(土)ー 10月24日(日)
※公募プログラムコア期間:2021年10月2日(土)・3日(日)
時間:10:00ー18:00(10/3(日) および 金・土は20:00まで)
会場:象の鼻テラス、象の鼻パーク、日本大通り駅三塔広場、オンライン
料金:無料
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:ケイティ、かのぴ
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:吉川ゆゆ
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO