インタビュー記事

第12回 新しい体験を生み出す 「アートマネジメント」 大越 晴子さん【後編】

今回のお相手:大越晴子おおこしはるこさん

横浜よこはまにある「ぞうはなテラス」のスタッフとして、イベントの運営うんえい企画きかくをしている。まちとアートに関心かんしんふかい。もともとは美術びじゅつ大学で建築けんちくの勉強をしていて、建築の仕事しごとをしていたこともある。横浜生まれ、横浜育ちのハマっ子。

子ども取材班しゅざいはん

No.1 ケイティ:
空手や書道を一生懸命いっしょうけんめいがんばっている。空手で館長賞かんちょうしょうを取ったことがうれしかった。

No.5 かのぴ:
画力がりょくを上げることを頑張がんばっている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことがうれしかった。

自分のこととして考え、行動しよう

ケイティ:
FUTURE SCAPE PROJECTでは、どんなアートをり入れてるんですか?

ひとつは《ひかりの》といって、2011年からぞうはなテラスに誕生した、髙橋たかはし匡太きょうたさんの作品です。果実かじつぶくろという、なしやりんごをそだてるときに実をまもるためにつける袋があります。その袋に髙橋さんが丸を書いて、その中に参加さんかしゃ笑顔えがおすことで、ひとつの作品さくひんにします。その中にLEDライトを入れて、実がなっているように木に取りけて展示てんじします。光る実があつまって、幻想げんそうてき風景ふうけいをつくり出します。とてもきれいですよ。

幻想的=現実げんじつではなく、ゆめのようなようす

ケイティ・かのぴ
へえー!すごい!

2011年からはじまったんですが、その年になにがあったか……おぼえてはないか。まだ小さかったもんね。ひがし日本大震災しんさいという大災害さいがいこった年です。

東日本大震災=東北地方で起きた、ものすごく大きな地震のこと。津波つなみが来てまちや人が流されたり、原子力発電所が故障こしょうしたりして今も人が住めなくなっているところがある。

かのぴ:
まだ1さいだ……。

1才だったんだね。そんな世代せだいの子たちにも、当時とうじかんじたわたしたちの教訓きょうくんつたえていかなくてはいけないなというおもいがあって。

象の鼻テラスでは、アートで夜景やけいをつくるイベントを企画きかくしていました。そのとき震災が起こり、エネルギーをつくる場所がダメージを受け、電気を使つかうことについてかんがえさせられるきっかけになりました。わたしたちは、たくさん電気を使ってきらびやかさをきそうのではなく、しょうエネルギーでつくる創造そうぞうてきな夜景をとおして、エネルギーのことを考え、伝えることにしました。「スマートイルミネーション」というプログラムです。

その中で、《ひかりの実》という作品は生まれました。東北の子どもたちと笑顔をおくり合う交流こうりゅうプログラムもおこない、作品に元気づけられたというこえとどきました。今年で10年目。あのころの思いを忘れないために、今年また東北に作品を届けるプログラムを立ち上げ、全国に呼びかけて参加者をあつめました。

ほかにも、記憶きおくのこ都市としの風景をテーマに絵をえがいて、自分の記憶とだれかの記憶を交換こうかんする参加さんかがたの作品があります。

教訓=経験から学んだこと

創造=新しいものを初めてつくりだすこと

かのぴ:
記憶を交換?

ちょっとむずかしく聞こえるね(笑)。こころに残っている風景など、思い出に残っている風景をポストカードに描いて、自分じぶんではかえらず他の人と交換します。または、電話でんわしに見知みしらぬ誰かから思い出の場所の話を聞いて、それを絵にして持ち帰ります。これが、自分の記憶と相手あいての記憶を交換する。想像そうぞうりょくを使いますね。

食のプログラムでは、食をテーマに活動しているアーティストが屋台やたいで展示をします。2人は、屋台にはどんなイメージがありますか?見たことあるかな?

かのぴ:
見たことあります。おまつりとか。

ケイティ:
私も。

ああなるほど、お祭りもそうだね。今回は食にかかわる、海洋かいよう資源しげん農業のうぎょう、リサイクル、民族みんぞく多様たようせいなどのテーマを屋台にして表現ひょうげんします。

演劇えんげきのプログラムもあります。普段ふだんは見たいお芝居しばいのチケットをって、まった時間に劇場げきじょうに行きますよね。そうではなく公園こうえんの中でみせることができたら、もともと見たいと思って来た人だけではなく、たまたま通りがかった人もその演劇に出会うことができます。気軽きがるに演劇にふれることができるようなプログラムです。演劇はお芝居なので、現実とは違う。象の鼻パークでおこなうことで、現実とそうじゃないものが重なるおもしろい作品になっています。

「自分のこととして考え、行動しよう」と誘うようなプログラムを集めていますよ。

海洋資源=海にある、人が生活に使用しようできるものやエネルギーのこと

多様性=性別せいべつ年齢ねんれい・国・人種じんしゅ宗教しゅうきょうしょうがいなど、人それぞれちがうこと

演劇=お芝居

今回のイベントが行われる象の鼻パーク

かのぴ:
たくさんあるんですね。大越さんは、その中でもとくにこれを見てほしい!というものはありますか?

難しいですね(笑)。全部ぜんぶそれぞれつたえたいメッセージがあって、見せ方も変わってきます。1つにはしぼれませんが、どれも来てくれた人にかんじてほしい思いがめられています。実際じっさいに来て体験たいけんしたり見たりして、そのメッセージをけ取ってほしいですね。

受け取り方は、一人ひとり全然ぜんぜんちがっていいんです。芸術げいじゅつ作品さくひんこたえがありません。見た人に、何かを感じてかんがえてかえってほしいと思います。

ケイティ:
今回のイベントにたいする思いを教えてください。

SDGsにあるような社会の課題かだいに対して、私たちの伝えたいメッセージを形にして見せるために、アーティストさんたちと展示をつくりあげます。1つでも2つでも、参加したことでその人の考えに新しい知識ちしきや気持ちが芽生めばえたらいいなと思います。

象の鼻パークには、象がたくさん!

自分がやりたいことを大切にする

ケイティ:
「働く」ということについてどう思いますか?

さる質問しつもんですね(笑)。私はサラリーマンなので、働くこと=お金をかせぐことです。なぜお金を稼ぐのかというと、らすために必要ひつようだから。暮らすということは、生きることや食べることにもつながります。もし自分で野菜やさいなどをつくって食べて生活できるなら、お金は必要ないかもしれません。

私が働くのは、自分がやりたいことと、暮らすためにお金を支払しはらう必要があるからかな。「何がしたいのか」をつねに考えて大事だいじにして、それがかなう仕事を探しました。

サラリーマン=会社でやとわれてお給料きゅうりょうをもらっている人

かのぴ:
「お金」についてどう思いますか?

芸術の場では、アート作品を売ったり買ったりします。ゴッホみたいに有名ゆうめいな人の作品だと、オークションでなんおくえんもの価値かちがつきます。「それだけお金を出す人がいるなら、きっといいものなんだろうな」という意識が、他の人にも芽生えますよね。お金は、人とやりとりするうえで、わかりやすいものさしになるのかなと思います。

 ものの価値は人それぞれなので、人によって違います。値段をつけることで、価値がわかりやすくなると思います。お金で決められた価値観がすべてではないと思いますけどね。

ゴッホ=オランダの画家

価値=どれほどすばらしいか、またどれくらい大切かということ

イベントはアートディレクターの腕の見せ所

ケイティ:
「お金を稼ぐ」ということについてどう思いますか?

お金がなくてもいい生き方もあるかもしれないけど、どう暮らしたいか、どこで暮らしたいかによってはお金も必要です。住みたい場所があっても、お金とのバランスを考えないといけない。何事もバランスが大事です。 私の場合は、生活のために最低さいていげんのお金が必要だと思っています。

かのぴ:
お給料はどうやって決まりますか?満足まんぞくしていますか?

満足はしていません(笑)。サラリーマンで雇われているので、会社がめます。満足はしていないけれど、好きで充実じゅうじつした仕事しごとだと思っています。

ケイティ:
何のために働いていますか?

今の暮らしで生きていくためでもあるし、やりたいことをするためでもあります。やりたいことを仕事にしてお金をもらっているので、幸せだとは思っています。

休憩所とアートスペースが合わさった空間

感情と理由が自分のものさしになる

かのぴ:
「働く」と「お金の関係」についてどう思いますか?

そうですねえ……。働いたらお金をもらうという常識じょうしきの中で生きてきたからなあ。考えたことなかったけど、いまは「働いたらお金をもらうもの」だと思っています。

常識=社会で当たり前となっていること

かのぴ:
今まで取材しゅざいしてきた人は、生きていくためとこたえる人が多かったんですが、大越さんはどっちかというと好きだから働いている、という感じがします。

ありがとうございます、なやみもありますけどね(笑)。やっぱり、好きかどうかは大事だと思います。

かのぴ:
これからやっていきたいことはありますか?

いつも自分の中に、目標もくひょうやアイデアを持っていたいと思います。今までにないような出来事できごとをつくっていきたいですね。

ケイティ:
最後さいごに、子どもたちにメッセージをおねがいします!

好きなことが何なのかを、常に自分の中に持って生きてほしいと思います。気になることや心が動かされるもの、「うつくしい」「きらい」といった自分の感情かんじょうを大事にしてほしい。そしてなんでそう感じるのか、その理由りゆうも考えてみてください。仕事に関係かんけいなく、それが自分の考えるものさしになるし、ブレないじくになっていく気がします。

自信じしんを持ってくださいね。あなたが思うことはあなたにとって正しいし、まちがっているなんてことはないです。人それぞれなので、他の人が違うことを感じていたとしても、それも正しい。それぞれの違いをみとめることが、多様性です。多様性を大事にしてほしいと思います。

感情=喜び、怒り、悲しみ、楽しさなどの気持ちのこと

ケイティ・かのぴ:
ありがとうございました!

アートマネジメントってどんな仕事?(大越さんの場合)

・企画に合わせ、作家さんの作品をどのようにお客さんが観て体験するのかを考える

・展示方法を決めて、必要な設備などを準備する

・お客さんに作品のことを詳しく知ってもらうためにどうするかを考える

・チラシをつくったり、WEBページやSNSなどインターネットを活用したりする

・来場したお客さんの対応をしたり、問題がないかチェックをしたりする

アートマネジメントの魅力と大変なこと(大越さんの場合)

・決めたゴールや目標に向かって、するべきことを1つずつ組み立てていくのが楽しい

・まちづくりともつながっている

・場所の新しい使い方や価値を生み出せる

・はっきりとした終わりがない

アートマネジメントという仕事をおすすめできる理由

・全員におすすめできないけれど、表で作品をつくる人たちと社会とをつなぐサポートができる

・表で活躍する人を支える大事な職業

「働く」と「お金」の関係について

・働くこと=お金を稼ぐこと

・お金は自分がやりたいことをするためや、暮らすために必要

・お金と生活のバランスを考えることが大切

・お金は、人とやりとりするうえで、わかりやすいものさしになる

・今の暮らしで生きていくため、やりたいことをするために働いている

大越さんが思う大切なこと

・好きなことが何なのかを、常に自分の中に持つ

・気になることや心が動かされるもの、「美しい」「嫌い」といった自分の感情を大事にしする

・感情の理由を考えることが、自分を考えるものさしになるし、ブレない軸になる

・自信を持つ

・人それぞれの違いを認める

こんなお話もしました

2人は芸術や美術に興味きょうみがあるんですか?

かのぴ:
私は絵を描くことが大好きで。大越さんが言っていた田んぼや街の中で絵を描くことにも興味があるので、話を聞いてみたかったです。なので今日はとっても嬉しいです!

よかった!お金の話にもつながりますが、アーティストと呼ばれる人の中には、作品を売ってそのお金だけで生活している人は、ほんの一部です。べつのお仕事しながら活動している人も結構けっこういらっしゃって。自分の表現したいことを表現するために手を動かしている人は、みんなアーティストだと思います。そう思うと、選択せんたくはいっぱいありますね。

選択肢=選べるもの

ケイティ:
私も絵が好きで、アートを見るのも好きです。なので今回のイベントの内容ないようを聞いて、すごいなあと思いました!

2人とも視点してんがすごいね!すでにNARIWAIのロゴマークを描いているなんて。経験けいけんみ重ねは大事ですね。

ケイティはNARIWAIのロゴマークをデザインしています

象の鼻テラスとイベントのホームページ

イベント情報

ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT 2021
会期:2021年10月2日(土)ー 10月24日(日)
   ※公募プログラムコア期間:2021年10月2日(土)・3日(日)
時間:10:00ー18:00(10/3(日) および 金・土は20:00まで)
会場:象の鼻テラス、象の鼻パーク、日本大通り駅三塔広場、オンライン
料金:無料

 

【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:ケイティ、かのぴ
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:吉川ゆゆ
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO