今回のお相手:大越晴子さん
横浜にある「象の鼻テラス」のスタッフとして、イベントの運営や企画をしている。街とアートに関心が深い。もともとは美術大学で建築の勉強をしていて、建築の仕事をしていたこともある。横浜生まれ、横浜育ちのハマっ子。
子ども取材班
No.1 ケイティ:
空手や書道を一生懸命がんばっている。空手で館長賞を取ったことが嬉しかった。
No.5 かのぴ:
画力を上げることを頑張っている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことが嬉しかった。
自分のこととして考え、行動しよう
ケイティ:
FUTURE SCAPE PROJECTでは、どんなアートを取り入れてるんですか?
ひとつは《ひかりの実》といって、2011年から象の鼻テラスに誕生した、髙橋匡太さんの作品です。果実袋という、梨やりんごを育てるときに実を守るためにつける袋があります。その袋に髙橋さんが丸を書いて、その中に参加者が笑顔を描き足すことで、ひとつの作品にします。その中にLEDライトを入れて、実がなっているように木に取り付けて展示します。光る実が集まって、幻想的な風景をつくり出します。とてもきれいですよ。
幻想的=現実ではなく、夢のようなようす
ケイティ・かのぴ
へえー!すごい!
2011年から始まったんですが、その年に何があったか……覚えてはないか。まだ小さかったもんね。東日本大震災という大災害が起こった年です。
東日本大震災=東北地方で起きた、ものすごく大きな地震のこと。津波が来て街や人が流されたり、原子力発電所が故障したりして今も人が住めなくなっているところがある。
かのぴ:
まだ1才だ……。
1才だったんだね。そんな世代の子たちにも、当時感じたわたしたちの教訓を伝えていかなくてはいけないなという思いがあって。
象の鼻テラスでは、アートで夜景をつくるイベントを企画していました。そのとき震災が起こり、エネルギーをつくる場所がダメージを受け、電気を使うことについて考えさせられるきっかけになりました。私たちは、たくさん電気を使ってきらびやかさを競うのではなく、省エネルギーでつくる創造的な夜景を通して、エネルギーのことを考え、伝えることにしました。「スマートイルミネーション」というプログラムです。
その中で、《ひかりの実》という作品は生まれました。東北の子どもたちと笑顔を送り合う交流プログラムも行い、作品に元気づけられたという声も届きました。今年で10年目。あの頃の思いを忘れないために、今年また東北に作品を届けるプログラムを立ち上げ、全国に呼びかけて参加者を集めました。
他にも、記憶に残る都市の風景をテーマに絵を描いて、自分の記憶と誰かの記憶を交換する参加型の作品があります。
教訓=経験から学んだこと
創造=新しいものを初めてつくりだすこと
かのぴ:
記憶を交換?
ちょっと難しく聞こえるね(笑)。心に残っている風景など、思い出に残っている風景をポストカードに描いて、自分では持ち帰らず他の人と交換します。または、電話越しに見知らぬ誰かから思い出の場所の話を聞いて、それを絵にして持ち帰ります。これが、自分の記憶と相手の記憶を交換する。想像力を使いますね。
食のプログラムでは、食をテーマに活動しているアーティストが屋台で展示をします。2人は、屋台にはどんなイメージがありますか?見たことあるかな?
かのぴ:
見たことあります。お祭りとか。
ケイティ:
私も。
ああなるほど、お祭りもそうだね。今回は食にかかわる、海洋資源、農業、リサイクル、民族多様性などのテーマを屋台にして表現します。
演劇のプログラムもあります。普段は見たいお芝居のチケットを買って、決まった時間に劇場に行きますよね。そうではなく公園の中でみせることができたら、もともと見たいと思って来た人だけではなく、たまたま通りがかった人もその演劇に出会うことができます。気軽に演劇にふれることができるようなプログラムです。演劇はお芝居なので、現実とは違う。象の鼻パークで行うことで、現実とそうじゃないものが重なるおもしろい作品になっています。
「自分のこととして考え、行動しよう」と誘うようなプログラムを集めていますよ。
海洋資源=海にある、人が生活に使用できるものやエネルギーのこと
多様性=性別・年齢・国・人種・宗教・障がいなど、人それぞれちがうこと
演劇=お芝居
今回のイベントが行われる象の鼻パーク
かのぴ:
たくさんあるんですね。大越さんは、その中でも特にこれを見てほしい!というものはありますか?
難しいですね(笑)。全部それぞれ伝えたいメッセージがあって、見せ方も変わってきます。1つには絞れませんが、どれも来てくれた人に感じてほしい思いが込められています。実際に来て体験したり見たりして、そのメッセージを受け取ってほしいですね。
受け取り方は、一人ひとり全然違っていいんです。芸術作品は答えがありません。見た人に、何かを感じて考えて帰ってほしいと思います。
ケイティ:
今回のイベントに対する思いを教えてください。
SDGsにあるような社会の課題に対して、私たちの伝えたいメッセージを形にして見せるために、アーティストさんたちと展示をつくりあげます。1つでも2つでも、参加したことでその人の考えに新しい知識や気持ちが芽生えたらいいなと思います。
象の鼻パークには、象がたくさん!
自分がやりたいことを大切にする
ケイティ:
「働く」ということについてどう思いますか?
刺さる質問ですね(笑)。私はサラリーマンなので、働くこと=お金を稼ぐことです。なぜお金を稼ぐのかというと、暮らすために必要だから。暮らすということは、生きることや食べることにもつながります。もし自分で野菜などをつくって食べて生活できるなら、お金は必要ないかもしれません。
私が働くのは、自分がやりたいことと、暮らすためにお金を支払う必要があるからかな。「何がしたいのか」を常に考えて大事にして、それが叶う仕事を探しました。
サラリーマン=会社で雇われてお給料をもらっている人
かのぴ:
「お金」についてどう思いますか?
芸術の場では、アート作品を売ったり買ったりします。ゴッホみたいに有名な人の作品だと、オークションで何億円もの価値がつきます。「それだけお金を出す人がいるなら、きっといいものなんだろうな」という意識が、他の人にも芽生えますよね。お金は、人とやりとりするうえで、わかりやすいものさしになるのかなと思います。
ものの価値は人それぞれなので、人によって違います。値段をつけることで、価値がわかりやすくなると思います。お金で決められた価値観がすべてではないと思いますけどね。
ゴッホ=オランダの画家
価値=どれほどすばらしいか、またどれくらい大切かということ
イベントはアートディレクターの腕の見せ所
ケイティ:
「お金を稼ぐ」ということについてどう思いますか?
お金がなくてもいい生き方もあるかもしれないけど、どう暮らしたいか、どこで暮らしたいかによってはお金も必要です。住みたい場所があっても、お金とのバランスを考えないといけない。何事もバランスが大事です。 私の場合は、生活のために最低限のお金が必要だと思っています。
かのぴ:
お給料はどうやって決まりますか?満足していますか?
満足はしていません(笑)。サラリーマンで雇われているので、会社が決めます。満足はしていないけれど、好きで充実した仕事だと思っています。
ケイティ:
何のために働いていますか?
今の暮らしで生きていくためでもあるし、やりたいことをするためでもあります。やりたいことを仕事にしてお金をもらっているので、幸せだとは思っています。
休憩所とアートスペースが合わさった空間
感情と理由が自分のものさしになる
かのぴ:
「働く」と「お金の関係」についてどう思いますか?
そうですねえ……。働いたらお金をもらうという常識の中で生きてきたからなあ。考えたことなかったけど、今は「働いたらお金をもらうもの」だと思っています。
常識=社会で当たり前となっていること
かのぴ:
今まで取材してきた人は、生きていくためと答える人が多かったんですが、大越さんはどっちかというと好きだから働いている、という感じがします。
ありがとうございます、悩みもありますけどね(笑)。やっぱり、好きかどうかは大事だと思います。
かのぴ:
これからやっていきたいことはありますか?
いつも自分の中に、目標やアイデアを持っていたいと思います。今までにないような出来事をつくっていきたいですね。
ケイティ:
最後に、子どもたちにメッセージをお願いします!
好きなことが何なのかを、常に自分の中に持って生きてほしいと思います。気になることや心が動かされるもの、「美しい」「嫌い」といった自分の感情を大事にしてほしい。そしてなんでそう感じるのか、その理由も考えてみてください。仕事に関係なく、それが自分の考えるものさしになるし、ブレない軸になっていく気がします。
自信を持ってくださいね。あなたが思うことはあなたにとって正しいし、まちがっているなんてことはないです。人それぞれなので、他の人が違うことを感じていたとしても、それも正しい。それぞれの違いを認めることが、多様性です。多様性を大事にしてほしいと思います。
感情=喜び、怒り、悲しみ、楽しさなどの気持ちのこと
ケイティ・かのぴ:
ありがとうございました!
アートマネジメントってどんな仕事?(大越さんの場合)
・企画に合わせ、作家さんの作品をどのようにお客さんが観て体験するのかを考える
・展示方法を決めて、必要な設備などを準備する
・お客さんに作品のことを詳しく知ってもらうためにどうするかを考える
・チラシをつくったり、WEBページやSNSなどインターネットを活用したりする
・来場したお客さんの対応をしたり、問題がないかチェックをしたりする
アートマネジメントの魅力と大変なこと(大越さんの場合)
・決めたゴールや目標に向かって、するべきことを1つずつ組み立てていくのが楽しい
・まちづくりともつながっている
・場所の新しい使い方や価値を生み出せる
・はっきりとした終わりがない
アートマネジメントという仕事をおすすめできる理由
・全員におすすめできないけれど、表で作品をつくる人たちと社会とをつなぐサポートができる
・表で活躍する人を支える大事な職業
「働く」と「お金」の関係について
・働くこと=お金を稼ぐこと
・お金は自分がやりたいことをするためや、暮らすために必要
・お金と生活のバランスを考えることが大切
・お金は、人とやりとりするうえで、わかりやすいものさしになる
・今の暮らしで生きていくため、やりたいことをするために働いている
大越さんが思う大切なこと
・好きなことが何なのかを、常に自分の中に持つ
・気になることや心が動かされるもの、「美しい」「嫌い」といった自分の感情を大事にしする
・感情の理由を考えることが、自分を考えるものさしになるし、ブレない軸になる
・自信を持つ
・人それぞれの違いを認める
こんなお話もしました
2人は芸術や美術に興味があるんですか?
かのぴ:
私は絵を描くことが大好きで。大越さんが言っていた田んぼや街の中で絵を描くことにも興味があるので、話を聞いてみたかったです。なので今日はとっても嬉しいです!
よかった!お金の話にもつながりますが、アーティストと呼ばれる人の中には、作品を売ってそのお金だけで生活している人は、ほんの一部です。別のお仕事しながら活動している人も結構いらっしゃって。自分の表現したいことを表現するために手を動かしている人は、みんなアーティストだと思います。そう思うと、選択肢はいっぱいありますね。
選択肢=選べるもの
ケイティ:
私も絵が好きで、アートを見るのも好きです。なので今回のイベントの内容を聞いて、すごいなあと思いました!
2人とも視点がすごいね!すでにNARIWAIのロゴマークを描いているなんて。経験の積み重ねは大事ですね。
ケイティはNARIWAIのロゴマークをデザインしています
象の鼻テラスとイベントのホームページ
イベント情報
ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT 2021
会期:2021年10月2日(土)ー 10月24日(日)
※公募プログラムコア期間:2021年10月2日(土)・3日(日)
時間:10:00ー18:00(10/3(日) および 金・土は20:00まで)
会場:象の鼻テラス、象の鼻パーク、日本大通り駅三塔広場、オンライン
料金:無料
【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:ケイティ、かのぴ
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:吉川ゆゆ
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO