インタビュー記事

第11回 世の中の困りごとを解決 「起業家」 谷 英希さん【前編】

今回のお相手:谷英希たにひできさん

合同ごうどう会社ヴァレイの経営者けいえいしゃで、起業家きぎょうか縫製ほうせい工場こうじょうを経営し、職人しょくにんさんたちにほこりをってはたらいてほしいとおもっている。世の中のこまりごとを解決かいけつしようと、あつおもいを持って起業家になった。日本のいろんなまちに、子どもにミシンを教える教室を開いている。ルービックキューブが得意とくいなお父さん。

子ども取材班しゅざいはん

No.3 るったん:
勉強や書道を一生懸命けんめい頑張がんばっている。最近さいきんビブリオバトルでじゅん優勝ゆうしょうした。

No.7 マヒ:
水泳すいえいを一生懸命頑張っている。最近、水泳でクイックターンができるようになったことが嬉しかった。

生活をするためにお金をかせぐ仕事のことを「生業なりわい」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係かんけいについてお話を聞いていきます。

今回のゲストはたに英希ひできさん。起業家きぎょうかです。起業家って、いったいどんなお仕事なのでしょう?

るったん・マヒ:
よろしくおねがいします。

谷さん:
よろしくお願いします。

世界を変えたかった子ども時代

るったん:
子どものころ、どんな大人になりたかったですか?

世界せかいえるだれかになりたい、努力どりょくむくわれる社会しゃかいをつくりたいとおもっていました。

ぼく芸能げいのうじんになりたかったんですよ。小学2年生くらいから毎年まいとし内緒ないしょでいろんなオーディションを受けてました。でも自分が芸能人になりたいというのがずかしくて。

かったら、おや一緒いっしょ東京とうきょうに行かなきゃいけないこともあったんですけど、親に言うのも恥ずかしくてそのときはあきらめました。

でもそのゆめをあきらめきれず、高校を途中とちゅうでやめて、俳優はいゆうの道へすすみました。ただ俳優になってから、「ちがうな」と思ってすんなりとやめました。

報われる=頑張がんばりにたいして、きちんと結果けっか成功せいこうを手にすること

オーディション=作品などに合う俳優や歌手をえらぶための審査しんさ

俳優=お芝居しばいをする人

マヒ:
なぜ芸能人になりたいと思っていたんですか?

僕はまわりの人とかんがかたが違って、いてたんですよね。みんなが楽しそうにしていることが楽しくなくて、周りと違うことを楽しんでやっていたので、「自分じぶんはみんなと違うのかな?」と思っていました。

なので「違う」ということをみとめられる環境で、仕事をしたかったんです。芸能人って、みんな変わってるけどおもしろいじゃないですか?

るったん・マヒ:
はい。

「変」なことは「才能さいのう」だと思っていたので、芸能界は特別とくべつな才能を活かせる場所だなと。だからそういう人になろうと思いました。

ただ今考えると、その時は「特別な場所」が芸能界しかなかったけど、他にも才能を活かせる場所はたくさんあったことに後から気づきました。

才能=生まれつき持っているすばらしい力

るったん:
あこれていた人はいますか?

小学生くらいから、豊臣とよとみ秀吉ひでよしという歴史れきし上の人物がきでした。秀吉は体が小さくて、さるってばれていたんです。

るったん:
サル?

そう。お猿さんの猿。それをって、僕も体が小さかったけど、頑張ったら秀吉のように有名ゆうめいな人になれるんだと思いました。

ある日、僕と秀吉は誕生たんじょう一緒いっしょだということがわかったんです。もしかしたら秀吉となに関係かんけいがあるんじゃないか、と勝手かって想像そうぞうして憧れていました。

4歳の子どもを持つパパでもある谷さん

努力が報われる世界にしたい

マヒ:
職業しょくぎょう名は何ですか?

起業家きぎょうか」という仕事しごとをしています。お仕事をつくる人です。

るったん:

つまり何をしているお仕事なんですか?

名前のない仕事を、名前のある仕事に変えています。簡単かんたんに言うと、だれかがこまっていることを解決かいけつするために、一から仕事をつくる人。うーん、むずかしいよね。

マヒ:
くわしく教えてください!

いまは2人がているような、洋服ようふくをつくっています。服は機械きかいじゃなくて、職人しょくにんさんと呼ばれる人たちが、全部ぜんぶミシンを使ってつくっているんですよ。

今、日本よりも中国やベトナム、バングラデシュなどの海外のほうが、服をやすくつくれます。

すると、今まで日本で服をつくっていた職人さんたちのお仕事がなくなってしまう。それは困っちゃいますよね。

だから、困っている職人さんたちに「一緒いっしょにお仕事しましょう」とこえをかけて、日本で服をつくるように動いています。

また、結婚けっこんをして子育こそだてをしていてはたらけない人、年をった親を介護かいごしている人など、さまざまな職人さんたちが技術ぎじゅつを持っているのに働けなくて困っています。

その職人さんたちが、家にいながら服づくりができるようにサポートしています。ほかにも、子どもたちにミシンを教える教室をやっていますよ。

介護=自分で生活をすることが難しい人へのお手伝い

技術=ものを作り出したり、生み出したりする方法

ヴァレイでは、ミシンを使ってたくさんの服を生み出している

るったん:
ヴァレイさんの服づくりって、ハンドメイドなんですか?

そうですね。ハンドメイドにもいろいろあるけれど、職人さんがミシンを使って一着いっちゃく一着、手でつくっています。

るったん:
では、なぜその仕事をしようと思ったのか、そしてしているのかを教えてください。

2人は何さいかな?

るったん:
11歳と……

マヒ:
10歳です。

僕は2人とおなじくらいの年齢ねんれいのときに、いじめられていたんですよ。でも、すごく頑張りました。体が小さくていじめられていたけど、急に大きくはなれないからどうしようもない。だから体育などでけないように、家で特訓とっくんしていました。

何かにたいして努力どりょくを続けることが得意とくいで、目標もくひょうかってコツコツと努力をしました。でもその頃は「イケメン」「運動うんどう神経しんけいがいい」「勉強ができる」「明るい」とかが評価ひょうかされて、僕が頑張っていることは評価されなかった。

その時から、僕は「努力して頑張ったことが報われる社会にしよう」と思っていました。そして大人になって、職人さんたちの多くの努力が報われていないことを知りました。

職人さんたちが一生懸命けんめい頑張って服をつくれるようになったのに、海外で安くつくられていることで、どんどん仕事がなくなっていく。今までの頑張りがちゃんと報われるようにしたいと思って、服づくりの会社をはじめました。

評価=どれだけ価値があるかを考えたもの

マヒ:
どうやったらなれるのか教えてください。

起業家は、誰でもなれます。僕の知っている中で一番わかい起業家は、中学2年生で14歳の子です。実際じっさいに自分で会社をつくって、すでにお金をかせいでいます。

るったん:
中学生でですか?

そう。その人も、困っている人を助けたいと思って起業しました。もともと会社をつくることがしたかったんじゃなくて、困っている人をたすけたいと思った結果けっかが、起業家だったわけです。

中学生でも誰でも、起業家になろうと思えばなれる。でも本当に人のためになりたいと思ったら、ものすごく勉強しなきゃいけない。

そして起業家になれたとしても、それを続けるためには「お金のこと」「社会のこと」「政治せいじのこと」「人のこと」「海外のこと」などさまざまな情報じょうほうが必要です。

だれにでもなれる職業ですが、努力が必要な職業だと思っています。

政治=国のやり方やルールを考えたり決めたりすること

るったん:
資格しかくは必要ですか?

必要ないです。業種ぎょうしゅといって、やる仕事の種類によるけど僕の場合はいりません。

ニュース番組にも出演し、想いを語った

職業名よりも理由が大切

マヒ:
この職業の魅力みりょくと大変だと思うことを教えてください。

起業家は、自分で会社をつくって動かしていくので、すべての責任せきにんが自分自身じしんにあるんです。

たとえば、もしみんなが失敗しっぱいしたり、よくないことをしたりしたときは、親も一緒にあやまってくれますよね。部活ぶかつなどで試合しあいけても、その人のせいにはならない。ミスがあっても、みんなの責任になると思うんです。

でも起業家は、何かあったときは全部起業家の責任になります。お金がなくなったり、つくったものが売れなかったり、借金しゃっきんをしてかえせなくなったり。トラブルにまれても、すべて自分の責任です。

他にも今、新型しんがたコロナウイルスの影響えいきょうで学校に行けなかったり、人に会えなくなったりしている。でも、たとえそのせいで会社が大変になったり、お店がつぶれたり、お金がなくなったりしても、誰のせいにもできない。

この仕事で一番大変なことは、誰のせいにもできないことです。

大変ではあるけれど、自分で頑張った分だけいっぱいお金が入ってくるし、困った人たちを助けられる。「自己じこ責任せきにん」というのは「努力次第しだいで何とでもなる」ということでもあります。

うんではなく、自分の実力じつりょく結果けっかが出るのは魅力てきです。そして自分が解決したいと思う問題を自分自身で解決できるのも、とても大きな魅力です。

自己責任=自分の責任

るったん:
生まれ変わってもまたこの仕事がしたいと思いますか?

服づくりはもういいかな(笑)。

るったん・マヒ:
ふふふ(笑)。

服づくりは大好きなんだけど、他にも困っている人たちがたくさんいるので、生まれ変わったらまた違う人たちを助けたいと思います。他の人たちのためにお仕事がしたい。

起業家にはなると思います。でも、研究けんきゅうしゃにもなりたい。もしかすると今生きている間に、起業家をしながら研究者を目指めざすかもしれません。

すべては自分次第。努力を続けている。

マヒ:
起業家は、今の子どもにおすすめできますか?

おすすめできます。

マヒ:
その理由りゆうも教えてください。

新しい仕事を生み出せるから、そして問題を解決する仕組しくみをつくれるからです。

ちなみに、るったんとマヒちゃんは、将来しょうらいゆめってある?

るったん:
弁護べんごです。

るったんは弁護士ね。

マヒ:
わたしは、スタイリストかヘアメイクアーティストになりたいです。

マヒちゃん、おしゃれですね。じゃあ、るったんはなんで弁護士になりたいの?

るったん:
困っている人をたすけたいからです。

うんうん。マヒちゃんは?

マヒ:
おしゃれがきだからです。

そっかそっか。じゃあその職業にどうやったらなれる?

るったん:
たくさん勉強して、難しい司法しほう試験しけん合格ごうかくして、弁護士の免許めんきょを取ったらなれるって本に書いてありました。

司法試験=弁護士になるための試験

マヒ:
専門せんもん学校に行ったり、アルバイトで結婚けっこん式場しきじょうなどで働いたりしてなれる……?

うんうん、なるほどね。僕は俳優をしていたので、スタイリストの友達ともだちがすごく多いんだけど、みんなそうやってアルバイトをしながら頑張ってました。

何で2人に聞いたかというと、将来のことを聞かれるとき、だいたい「何になりたいの?」って聞かれると思うんです。でも、今名前のないお仕事っていっぱいありますよね。

今ある仕事というのは、誰かがつくった仕事なんです。とおむかしに、僕たちみたいな起業家がゼロから仕事をつくっている。時代じだいはどんどん変わり、ちょっと前までYouTubeなんてなかったけど、それでお金を稼ぐ人たちが出てきました。

るったんが弁護士になりたいのは、困っている人を助けたいから。でも困ってる人を助けるお仕事は、弁護士以外いがいにもあるね。

るったん:
はい。

るったんが「弁護士になりたい」と思って頑張っていたら、どこかのタイミングで、もしかしたら新しい仕事になるかもしれない。マヒちゃんのおしゃれにかかわる仕事もそう。

マヒちゃんは、おしゃれだからスタイリストやヘアメイクアーティストになりたいんだよね。でもおしゃれをめていったら、もしかしたら服をつくる人になるかもしれない。服を勉強して、本を書く人になるかもしれない。

一番大事なのは、例えば弁護士になることではなく、「困った人を助ける人になる」ということだと思うんです。職業名よりも、「困っている人を助けたい」とか「おしゃれが好き」という理由が大事。

本当にやりたいことは、まだ名前がない新しい仕事かもしれません。その新しい仕事を生み出すのが、起業家です。

あと、世の中には困りごともたくさんあります。例えばいじめを解決させるのは学校の先生かな?お医者いしゃさん、保護ほごしゃ、政治家、教育委員いいん会などいろんな人が関わっていますよね。

でも、解決することを世界中で広げて、仕組みをつくって、お金に変えている人たちはまだいません。この問題を解決できるかもしれないのも、起業家だと思っています。

るったんは弁護士になりたいんだね。

保護者=子どもの親や、親にわる人

政治家=政治をする人

教育委員会=その街の教育について大事なことを決めたり、そのために動く団体だんたい

るったん:
はい。

両親りょうしんとか、まわりに弁護士がいるの?

るったん:
いや、全然ぜんぜんいないです。

あ、そうなんや。弁護士は、いいお仕事だよね。

るったん:
でも結構けっこう難しそうです。

いっぱい勉強した方がいいよ。もし弁護士にならなかったとしても、勉強したことは無駄むだにならないから。僕は東大に行くのかというほど、ものすごく勉強しました。結局けっきょく行かなかったけれど、それまでの勉強が今でも役に立っています。

マヒちゃんもおしゃれが好きなのはいいね。うちは今、子どもにミシンを教えるスクールを開いていて。小学校3年生くらいでも、自分で服をつくってるよ。

マヒ:
ええっ!

僕のお姉ちゃんの子は、4年生でコートをつくって着てるよ。

マヒ:
コート!すごい!

好きなことって、どれだけでもできるからさ。好きなことを見つけましょう!

るったん・マヒ:
はい!

子どもだってできる!

起業家のお仕事について、熱い想いと考えを語ってくださった谷さん。
後編ではこれからやっていきたいこと、
そして働くことや「仕事」と「お金」の関係も聞いていきます。

谷英希さんのSNSと会社ホームページ

 

【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:るったん、マヒ
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:吉川ゆゆ
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO