今回のお相手:谷英希さん
合同会社ヴァレイの経営者で、起業家。縫製工場を経営し、職人さんたちに誇りを持って働いてほしいと思っている。世の中の困りごとを解決しようと、熱い想いを持って起業家になった。日本のいろんな街に、子どもにミシンを教える教室を開いている。ルービックキューブが得意なお父さん。
子ども取材班
No.3 るったん:
勉強や書道を一生懸命頑張っている。最近ビブリオバトルで準優勝した。
No.7 マヒ:
水泳を一生懸命頑張っている。最近、水泳でクイックターンができるようになったことが嬉しかった。
生活をするためにお金を稼ぐ仕事のことを「生業」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。
今回のゲストは谷英希さん。起業家です。起業家って、いったいどんなお仕事なのでしょう?
るったん・マヒ:
よろしくお願いします。
谷さん:
よろしくお願いします。
世界を変えたかった子ども時代
るったん:
子どものころ、どんな大人になりたかったですか?
世界を変える誰かになりたい、努力が報われる社会をつくりたいと思っていました。
僕、芸能人になりたかったんですよ。小学2年生くらいから毎年、内緒でいろんなオーディションを受けてました。でも自分が芸能人になりたいというのが恥ずかしくて。
受かったら、親と一緒に東京に行かなきゃいけないこともあったんですけど、親に言うのも恥ずかしくてそのときは諦めました。
でもその夢をあきらめきれず、高校を途中でやめて、俳優の道へ進みました。ただ俳優になってから、「違うな」と思ってすんなりとやめました。
報われる=頑張りに対して、きちんと結果や成功を手にすること
オーディション=作品などに合う俳優や歌手を選ぶための審査
俳優=お芝居をする人
マヒ:
なぜ芸能人になりたいと思っていたんですか?
僕は周りの人と考え方が違って、浮いてたんですよね。みんなが楽しそうにしていることが楽しくなくて、周りと違うことを楽しんでやっていたので、「自分はみんなと違うのかな?」と思っていました。
なので「違う」ということを認められる環境で、仕事をしたかったんです。芸能人って、みんな変わってるけどおもしろいじゃないですか?
るったん・マヒ:
はい。
「変」なことは「才能」だと思っていたので、芸能界は特別な才能を活かせる場所だなと。だからそういう人になろうと思いました。
ただ今考えると、その時は「特別な場所」が芸能界しかなかったけど、他にも才能を活かせる場所はたくさんあったことに後から気づきました。
才能=生まれつき持っているすばらしい力
るったん:
憧れていた人はいますか?
小学生くらいから、豊臣秀吉という歴史上の人物が好きでした。秀吉は体が小さくて、猿って呼ばれていたんです。
るったん:
サル?
そう。お猿さんの猿。それを知って、僕も体が小さかったけど、頑張ったら秀吉のように有名な人になれるんだと思いました。
ある日、僕と秀吉は誕生日が一緒だということがわかったんです。もしかしたら秀吉と何か関係があるんじゃないか、と勝手に想像して憧れていました。
4歳の子どもを持つパパでもある谷さん
努力が報われる世界にしたい
マヒ:
職業名は何ですか?
「起業家」という仕事をしています。お仕事をつくる人です。
るったん:
つまり何をしているお仕事なんですか?
名前のない仕事を、名前のある仕事に変えています。簡単に言うと、誰かが困っていることを解決するために、一から仕事をつくる人。うーん、難しいよね。
マヒ:
詳しく教えてください!
今は2人が着ているような、洋服をつくっています。服は機械じゃなくて、職人さんと呼ばれる人たちが、全部ミシンを使ってつくっているんですよ。
今、日本よりも中国やベトナム、バングラデシュなどの海外のほうが、服を安くつくれます。
すると、今まで日本で服をつくっていた職人さんたちのお仕事がなくなってしまう。それは困っちゃいますよね。
だから、困っている職人さんたちに「一緒にお仕事しましょう」と声をかけて、日本で服をつくるように動いています。
また、結婚をして子育てをしていて働けない人、年を取った親を介護している人など、さまざまな職人さんたちが技術を持っているのに働けなくて困っています。
その職人さんたちが、家にいながら服づくりができるようにサポートしています。他にも、子どもたちにミシンを教える教室をやっていますよ。
介護=自分で生活をすることが難しい人へのお手伝い
技術=ものを作り出したり、生み出したりする方法
ヴァレイでは、ミシンを使ってたくさんの服を生み出している
るったん:
ヴァレイさんの服づくりって、ハンドメイドなんですか?
そうですね。ハンドメイドにもいろいろあるけれど、職人さんがミシンを使って一着一着、手でつくっています。
るったん:
では、なぜその仕事をしようと思ったのか、そしてしているのかを教えてください。
2人は何歳かな?
るったん:
11歳と……
マヒ:
10歳です。
僕は2人と同じくらいの年齢のときに、いじめられていたんですよ。でも、すごく頑張りました。体が小さくていじめられていたけど、急に大きくはなれないからどうしようもない。だから体育などで負けないように、家で特訓していました。
何かに対して努力を続けることが得意で、目標に向かってコツコツと努力をしました。でもその頃は「イケメン」「運動神経がいい」「勉強ができる」「明るい」とかが評価されて、僕が頑張っていることは評価されなかった。
その時から、僕は「努力して頑張ったことが報われる社会にしよう」と思っていました。そして大人になって、職人さんたちの多くの努力が報われていないことを知りました。
職人さんたちが一生懸命頑張って服をつくれるようになったのに、海外で安くつくられていることで、どんどん仕事がなくなっていく。今までの頑張りがちゃんと報われるようにしたいと思って、服づくりの会社を始めました。
評価=どれだけ価値があるかを考えたもの
マヒ:
どうやったらなれるのか教えてください。
起業家は、誰でもなれます。僕の知っている中で一番若い起業家は、中学2年生で14歳の子です。実際に自分で会社をつくって、すでにお金を稼いでいます。
るったん:
中学生でですか?
そう。その人も、困っている人を助けたいと思って起業しました。もともと会社をつくることがしたかったんじゃなくて、困っている人を助けたいと思った結果が、起業家だったわけです。
中学生でも誰でも、起業家になろうと思えばなれる。でも本当に人のためになりたいと思ったら、ものすごく勉強しなきゃいけない。
そして起業家になれたとしても、それを続けるためには「お金のこと」「社会のこと」「政治のこと」「人のこと」「海外のこと」などさまざまな情報が必要です。
だれにでもなれる職業ですが、努力が必要な職業だと思っています。
政治=国のやり方やルールを考えたり決めたりすること
るったん:
資格は必要ですか?
必要ないです。業種といって、やる仕事の種類によるけど僕の場合はいりません。
ニュース番組にも出演し、想いを語った
職業名よりも理由が大切
マヒ:
この職業の魅力と大変だと思うことを教えてください。
起業家は、自分で会社をつくって動かしていくので、すべての責任が自分自身にあるんです。
例えば、もしみんなが失敗したり、よくないことをしたりしたときは、親も一緒に謝ってくれますよね。部活などで試合に負けても、その人のせいにはならない。ミスがあっても、みんなの責任になると思うんです。
でも起業家は、何かあったときは全部起業家の責任になります。お金がなくなったり、つくったものが売れなかったり、借金をして返せなくなったり。トラブルに巻き込まれても、すべて自分の責任です。
他にも今、新型コロナウイルスの影響で学校に行けなかったり、人に会えなくなったりしている。でも、たとえそのせいで会社が大変になったり、お店がつぶれたり、お金がなくなったりしても、誰のせいにもできない。
この仕事で一番大変なことは、誰のせいにもできないことです。
大変ではあるけれど、自分で頑張った分だけいっぱいお金が入ってくるし、困った人たちを助けられる。「自己責任」というのは「努力次第で何とでもなる」ということでもあります。
運ではなく、自分の実力で結果が出るのは魅力的です。そして自分が解決したいと思う問題を自分自身で解決できるのも、とても大きな魅力です。
自己責任=自分の責任
るったん:
生まれ変わってもまたこの仕事がしたいと思いますか?
服づくりはもういいかな(笑)。
るったん・マヒ:
ふふふ(笑)。
服づくりは大好きなんだけど、他にも困っている人たちがたくさんいるので、生まれ変わったらまた違う人たちを助けたいと思います。他の人たちのためにお仕事がしたい。
起業家にはなると思います。でも、研究者にもなりたい。もしかすると今生きている間に、起業家をしながら研究者を目指すかもしれません。
すべては自分次第。努力を続けている。
マヒ:
起業家は、今の子どもにおすすめできますか?
おすすめできます。
マヒ:
その理由も教えてください。
新しい仕事を生み出せるから、そして問題を解決する仕組みをつくれるからです。
ちなみに、るったんとマヒちゃんは、将来の夢ってある?
るったん:
弁護士です。
るったんは弁護士ね。
マヒ:
わたしは、スタイリストかヘアメイクアーティストになりたいです。
マヒちゃん、おしゃれですね。じゃあ、るったんはなんで弁護士になりたいの?
るったん:
困っている人を助けたいからです。
うんうん。マヒちゃんは?
マヒ:
おしゃれが好きだからです。
そっかそっか。じゃあその職業にどうやったらなれる?
るったん:
たくさん勉強して、難しい司法試験に合格して、弁護士の免許を取ったらなれるって本に書いてありました。
司法試験=弁護士になるための試験
マヒ:
専門学校に行ったり、アルバイトで結婚式場などで働いたりしてなれる……?
うんうん、なるほどね。僕は俳優をしていたので、スタイリストの友達がすごく多いんだけど、みんなそうやってアルバイトをしながら頑張ってました。
何で2人に聞いたかというと、将来のことを聞かれるとき、だいたい「何になりたいの?」って聞かれると思うんです。でも、今名前のないお仕事っていっぱいありますよね。
今ある仕事というのは、誰かがつくった仕事なんです。遠い昔に、僕たちみたいな起業家がゼロから仕事をつくっている。時代はどんどん変わり、ちょっと前までYouTubeなんてなかったけど、それでお金を稼ぐ人たちが出てきました。
るったんが弁護士になりたいのは、困っている人を助けたいから。でも困ってる人を助けるお仕事は、弁護士以外にもあるね。
るったん:
はい。
るったんが「弁護士になりたい」と思って頑張っていたら、どこかのタイミングで、もしかしたら新しい仕事になるかもしれない。マヒちゃんのおしゃれに関わる仕事もそう。
マヒちゃんは、おしゃれだからスタイリストやヘアメイクアーティストになりたいんだよね。でもおしゃれを突き詰めていったら、もしかしたら服をつくる人になるかもしれない。服を勉強して、本を書く人になるかもしれない。
一番大事なのは、例えば弁護士になることではなく、「困った人を助ける人になる」ということだと思うんです。職業名よりも、「困っている人を助けたい」とか「おしゃれが好き」という理由が大事。
本当にやりたいことは、まだ名前がない新しい仕事かもしれません。その新しい仕事を生み出すのが、起業家です。
あと、世の中には困りごともたくさんあります。例えばいじめを解決させるのは学校の先生かな?お医者さん、保護者、政治家、教育委員会などいろんな人が関わっていますよね。
でも、解決することを世界中で広げて、仕組みをつくって、お金に変えている人たちはまだいません。この問題を解決できるかもしれないのも、起業家だと思っています。
るったんは弁護士になりたいんだね。
保護者=子どもの親や、親に代わる人
政治家=政治をする人
教育委員会=その街の教育について大事なことを決めたり、そのために動く団体
るったん:
はい。
ご両親とか、周りに弁護士がいるの?
るったん:
いや、全然いないです。
あ、そうなんや。弁護士は、いいお仕事だよね。
るったん:
でも結構難しそうです。
いっぱい勉強した方がいいよ。もし弁護士にならなかったとしても、勉強したことは無駄にならないから。僕は東大に行くのかというほど、ものすごく勉強しました。結局行かなかったけれど、それまでの勉強が今でも役に立っています。
マヒちゃんもおしゃれが好きなのはいいね。うちは今、子どもにミシンを教えるスクールを開いていて。小学校3年生くらいでも、自分で服をつくってるよ。
マヒ:
ええっ!
僕のお姉ちゃんの子は、4年生でコートをつくって着てるよ。
マヒ:
コート!すごい!
好きなことって、どれだけでもできるからさ。好きなことを見つけましょう!
るったん・マヒ:
はい!
子どもだってできる!
起業家のお仕事について、熱い想いと考えを語ってくださった谷さん。
後編ではこれからやっていきたいこと、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係も聞いていきます。
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【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:るったん、マヒ
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:吉川ゆゆ
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO