インタビュー記事

第12回 新しい体験を生み出す 「アートマネジメント」 大越 晴子さん【前編】

今回のお相手:大越晴子おおこしはるこさん

横浜よこはまにある「ぞうはなテラス」のスタッフとして、イベントの運営うんえい企画きかくをしている。まちとアートに関心かんしんふかい。もともとは美術びじゅつ大学で建築けんちくの勉強をしていて、建築の仕事しごとをしていたこともある。横浜生まれ、横浜育ちのハマっ子。

子ども取材班しゅざいはん

No.1 ケイティ:
空手や書道を一生懸命いっしょうけんめいがんばっている。空手で館長賞かんちょうしょうを取ったことがうれしかった。

No.5 かのぴ:
画力がりょくを上げることを頑張がんばっている。ソラマチできれいなかんざしを買ってもらったことがうれしかった。

生活をするためにお金をかせぐ仕事のことを「生業なりわい」といいます。おしごとメディアNARIWAIでは、働く大人に「仕事」と「お金」の関係についてお話を聞いていきます。

今回のゲストは大越晴子さん。アートマネジメントです。アートマネジメントって、いったいどんなお仕事なのでしょう?

ケイティ・かのぴ:
よろしくおねがいします。

大越さん:
よろしくお願いします。

やりたいという熱意と想像からはじまる

かのぴ:
子どものころは、どんな大人になりたかったですか?

漫画まんが家、ガラス職人しょくにん、花火職人、和菓子わがし職人など、ものをつくる人にあこがれていました。子どもの頃から、手の中ですてきなものが出来でき上がるようなテレビ番組ばんぐみをよく見ていたんです。

今でも職人さんが、手を動かしてつくっている様子ようすながめるのがきです。ものができあがっていく様子や、職人さんのあざやかな手の動きが好きなんだとおもいます。

もうひとつ好きだったのが、新聞しんぶんはさまっているマンション販売はんばいのチラシを眺めて、自分の部屋のレイアウトを空想くうそうすること。そこからだんだんときたい職業しょくぎょうにつながっていき、インテリアコーディネーターに憧れるようになりました。それが建築けいすすむきっかけです。

販売=売ること

空想=実際にはないことを頭の中で想像すること

ケイティ:
憧れていた人はいますか?

だれかに憧れていたというのはなくて。職人さんみたいな職業に憧れることはありました。

かのぴ:
職業名はなんですか?

アートマネジメントです。

ケイティ:
つまり何をしているお仕事なんですか?

音楽、舞台ぶたい展覧てんらんかいなど、さまざまな文化・芸術げいじゅつ活動の作品さくひんを、人の目にとどくまでに必要ひつような仕事を全体ぜんたいてきに行っています。アートと社会をつなぎます。

展覧会の企画に合わせ、作家さんの作品をどのようにおきゃくさんが体験たいけんするのかをかんがえ、展示てんじ方法ほうほうめて、必要な設備せつびなどを準備じゅんびする。そしてお客さんに作品のことをくわしくってもらうためにどうするかを考えます。多くのお客さんに来てもらえるようお知らせをする広報こうほう活動もしますよ。チラシをつくったり、WEBウェブページやSNSエスエヌエスなどインターネットを活用かつようしたりする方法もあります。

実際にお客さんが来るようになったら、運営といってお客さんの対応たいおうをしたり、問題もんだいがないかチェックをしたりしています。やることはいっぱいありますね。これらを全部考えながら進めていきます。

設備=ある目的もくてきのために必要なものや装置そうち建物たてものなどをそなえたもの

広報=多くの人に知ってもらうための仕事

WEB=インターネット

SNS=ソーシャルネットワークサービス。インターネット上でコミュニケーションをとることができる仕組み

かのぴ:
いっぱいあってすごい……。

美術びじゅつかんや劇場など、場所によってやりかたはちがうと思うので、あくまで象の鼻テラスを運営しているわたし立場たちばのお話ですけどね。

私がはたらいている象の鼻テラスは、アートにかかわっているけれど美術館ではなく、無料むりょう休憩きゅうけい施設しせつとアートスペースを合わせた場所です。なので、休憩施設を使つかうためにふらっと立ちるお客さんが、アートを観たり体験したりすることを考えて運営しています。

まずは利用りようするかたおもに横浜市民しみんのみなさんにとって、今の社会にどういうプログラムがあるといいかを考えます。それをもとに展覧会を企画して、「どんな芸術活動があるといいか」「どう展示するか」「観るだけじゃなく体験できるワークショップを企画するか」「広報をどうするか」などいろんなことを考えます。毎回同じようにはいかないですね。

たくさんの人が休憩する象の鼻テラス

かのぴ:
アートマネジメントにはどうやったらなれるんですか?

美術に関わる人は、学芸員がくげいいん資格しかくっていることが多いです。私は持っていないんですけどね。私の職場は資格がないと働けないわけではなく、やりたいという熱意ねついが大切だと思っています。観る人の気持ちや、展示物の取り付け方に危険きけんはないか、さまざまな場面ばめん想像そうぞうできることも必要です。

もちろん、芸術が好きなことも重要じゅうようです。誰かがつくったものをお客さんに見せるサポートがわの職業なので、えんの下の力持ちになれるタイプが向いてるかな。一緒いっしょかたちにできた時はとてもうれしいので、仲間なかまと一緒につくることが好きだといいですね。毎回まいかい文化さい準備じゅんびをしている気分です。

学芸員資格=博物館や美術館で働くための資格

縁の下の力持ち=見えないところで人をささえること

ケイティ:
資格は必ず必要なものじゃないんですね。

資格はなくても、私のまわりにはプロフェッショナルとして、いろんな分野ぶんや活躍かつやくしている人がいます。それぞれの視点してん課題かだいを持って向き合っている。芸術は、世の中のいろんな問題を目に見える形にしてくれます。芸術の勉強をしてきた人だけではなく、誰もが関わる可能性かのうせいがある仕事だと思います。

分野=ものごとをある基準で分けたもの

視点=ものごとの見方

課題=解決しなくてはならない問題

ケイティ:
プロフェッショナルとして活躍している人って、どんな人たちですか?

照明しょうめい技術ぎじゅつの仕事をしているとか、自身じしんもアーティストとして活躍しているとか。私はプロとはいえないけど、建築設計に関わってました。あと語学が堪能たんのうな人も多いです。いろんな国の、表現方法が違う人たちとコミュニケーションを取ることがあるので、大切な能力ですね。

照明技術=照明を使って見やすくしたり演出えんしゅつしたりすること

堪能=上手なこと、すぐれていること

大越さんが働いている象の鼻テラス

かのぴ:
劇場ってお芝居しばいをするところですよね。アートマネジメントは、そこではどんなことをするんですか?デザインや、ものを置くところも考えるんですか?

どのようなデザインやセットがあるといいのかは、作家さんが考えます。私たちは、作家さんのアイデアを形にするにはどうすればいいかを考えます。

例えば、「たおれたりしないよう安全あんぜんに置くためにどうするか」「専門せんもんに意見を聞いた方がいいのか」「作品のイメージに合わせてどんなふうに置くか」などですね。ただものを置くだけではありません。危ないことや心配なことがないように、対策たいさくを考えるのが仕事です。

専門家=その分野のプロ

ケイティ:
子どもの頃に空想していたことで、大人になってから展覧会などで実現じつげんした経験けいけんはありますか?

子どもの頃に思いえがいていたのは、自分の身の回りのらしでした。自分の部屋がこうだったらいいなあ、みたいな。今の仕事では、展覧会に来た人がどういう風に展示てんじしつの中をあるいていくのか、どういう風に作品と出会うのかを考えます。それはむかし、自分の部屋を思い描いていたのと同じように想像しながら考えていますね。

展示室=展示している部屋

作品をどう見せるか真剣に考えている

アートをもっといろんな場所に登場させたい

かのぴ:
大越さんが建築系のお仕事ということで、私も建築のドラマを見てみました。そのドラマでは模型もけいをつくっていたんですが、アートマネジメントという職業でも模型をつくりますか?

場合にもよるけど、模型をつくることがあります。私は大学で建築を学んでいたので、模型をつくったり絵を描いたりする勉強をしました。一緒に建物をつくる人に説明せつめいするときに、文字よりも模型や絵のほうが一目でわかるし、伝えやすいんですよね。今の職場でも、伝えやすいと思ったときは模型をつくることがあります。

模型=実物に似せてつくったもの。ものによっては、実際よりも大きくしたり小さくしたりすることもある

かのぴ:
なぜアートマネジメントの仕事をしようと思ったのか、そしてしているのかを教えてください。

アートマネジメントの仕事は、どうすれば美術・芸術活動をもっといろんな場所に登場させることができるのかを考えます。

美術館だけではなくて、田んぼの中や都会とかいの空きビルを使うなど、外に飛び出してまちの人と一緒に作品をつくることもあります。そうすると、関わる人が美術館の中以外にもえてくる。このような活動を通じて、新しく関わった人も価値観が変わったり、その場所の新しい魅力につながったりもします。

美術や芸術としてみせるだけでなく、周りに影響えいきょうを与えられます。舞台となった場所や、人々に変化を生み出すこともできる。このことを「まちづくり」と呼びます。建築を学びながらまちづくりにも関わりたいと思っていたので、今の仕事につきました。

ケイティ:
まちの人と一緒につくると、どんないいことがありますか?

新しい体験が人々の価値かちかん意識いしきを変え、より豊かな暮らしにつながることだと考えています。芸術活動は、そういう体験を生みだせると思っています。芸術活動に当事者になって関わるほうがより実感できる。そして街に広げることで、人々が関われるきっかけをなるべく多くつくることができます。

価値観=どれほどすばらしいかという考え

参加者は楽しんでアートとふれあっている

かのぴ:
建築や企画のアイデアはどうやって浮かぶんですか?

作家さんの作品を置くときに、どういう企画にするとよいかをまず考えます。さっきの田んぼの中に作品を置くというのもそうですが、こうしたらどんな風にいいことがあるかを提案する。

このようなアイデアは、今世の中の考えがどうなっているか、そのまちが抱える課題が何かを考えて提案したほうがいいと思うんです。あとは、今まで関わりがなかった場所に、新しい使い方で新しい価値を生み出す。それが企画のもとになります。

アイデアは今までの人生の中での出会いや、体験から来ることが多いです。修学しゅうがく旅行りょこうやおとまり会みたいに、小さい頃の楽しかった思い出とか。自分だけでなく、みんなも経験してきたことなので、楽しい思い出とかさなっていいイベントになります。

かのぴ:
私は今度学校で日光に行くことになって。パンフレットづくりを頑張ってるんですが、企画のコツなどはありますか?

参加さんかする人にどういう気持ちになってもらいたいか。それをゴールに設定せっていします。たくさん情報じょうほうがほしいのか、読みものとしておもしろくしたいのか、ガイドブックのように歩いてもらいたいのかなどを想像して企画します。ゴールを決めたら、せる情報や順番じゅんばんを考え、どうしたらみんなが読みやすくなるか。大事なじくがぶれないようにするのがポイントです。そうすると、きちんとまとまると思います。

これは結構大事なこと。私の仕事も同じで、展覧会の企画が、誰にとってどういうものになってほしいかというのが、一番の軸になります。

アートといっても本当にさまざまな種類がある

アートと社会をつなぐサポート役

かのぴ:
この職業の魅力と、大変だと思うことは何ですか?

届けたい思いをきちんと形にするために、「ここまでやり切ろう」とゴールを決めます。それに向かって、するべきことを1つずつ組み立てていくのは楽しいです。

大変だなと思うことは……毎日大変ですね(笑)。書類しょるいを10つくったら今日の仕事は終わり、のようなちゃんとした終わりがありません。「こうしたらもっと伝わるかも」と考えれば考えるだけ仕事があります。自分で仕事内容を決めたり、ゴールを決めたりしないといけません。

かのぴ:
エンドレスなんですね。

お客さんに届けたい思いをどのようにするといいか、やり方はいつも違います。同じこと一度もないので新鮮しんせんですが、大変でもあります。

世の中の動きを見つめて、一つ先をいくような価値観をみせる。今まで体験したことがないものを生み出すことを意識しているし、これからもそうしていきたいです。

エンドレス=終わりがないこと

ケイティ:
生まれ変わってもまたこの仕事がしたいですか?

NOですね(笑)。生まれ変わった人生で、心を動かされる何かに出会って、それを目指したい。違う人生も楽しみたいです。

かのぴ:
アートマネジメントは、今の子どもにおすすめできますか?

「その人に合うかどうか」「好きかどうか」が大事なので、この職業にかかわらず、全員におすすめするというのは難しいですね。表で作品をつくる人たちがいて、それを社会とつなぐためにサポートする。アートマネジメントは、裏方うらかたのお仕事です。

ただ、大事な職業だと思います。どの仕事でも、表で活躍しているものの裏側うらがわには、それを支える人やかげで頑張っている人がいます。そういう人がいるということを、忘れないでほしいですね。

裏方=表に出ている人を裏で支えること

ケイティ:
大越さんが、表に出ている人を支えるために頑張がんばっていることは何ですか?

アーティストの作品を、より広くいろんな人に知ってもらいたい、感じてもらいたい、体験してもらいたい。そのためのやり方は、すごくたくさんあります。自分がどれだけ想像して動くかによって、体験する機会も内容も変わります。より多くの人に伝えられるよう、考えながら動いています。

アートを体験できるイベントもある

FUTURE SCAPE PROJECTについて

ー今回の取材は、10月2日から開催かいさいされるイベント「FUTURE SCAPE PROJECT」の企画のひとつとして行われました。イベントについても、詳しくお話を聞いてみました。

ケイティ:
大越さんがいる場所は、なぜ象の鼻テラスという名前なんですか?

じつはね、海の向こうに堤防ていぼうがあって。それが象の鼻のような形をしていることが由来ゆらいです。江戸えど時代じだいに日本は鎖国さこくをしていました。学校でもならったかな?そこにペリーがやってきて、国が開いて海外との交流こうりゅう貿易ぼうえきががさかんになりました。そのペリーがやってきた場所がここなんです。

堤防=水が入ってこないように、土や砂、コンクリートでつくったもの

由来=名前のもとになったもの

鎖国=外国の人が入ってこられなくしたり、やりとりをできなくしたりすること

貿易=海外ともののやり取りをすること

ケイティ・かのぴ
すごい!

私もここで働くようになって知ったんですけどね(笑)。船の行き来が盛んになってきたときに、なみせるのをとめるために堤防ができました。その堤防がどんどん形を変えていって、象の鼻に似た形になったそうです。

かのぴ:
今回のイベントではどんなことをしているんですか?すごく気になってて。

ありがとうございます。「FUTURESCAPE PROJECT(フューチャースケープ・プロジェクト)」というアートプロジェクトです。

象の鼻テラスがあるのが、象の鼻パークという広場なんですね。広場や公園のようなみんなが使える場所を「公共こうきょう空間」と呼びます。象の鼻パークも、公共空間。私たちが自由に過ごしたり使ったりしていいんですが、禁止されていることも多いんです。

2人は公共空間にどんなイメージがありますか?

かのぴ:
友達ともだちあそんだり、持久じきゅうそうをしたりするイメージです。

ケイティ:
私も。あと気分転換てんかんの場所とか。

うんうん、思い思いに使ってる場所のイメージがあるんですね。

公園はだいたい行政ぎょうせいの人が管理しています。誰かに迷惑めいわくをかけるのはよくないですよね?みんなが使う場所だからこそ、ルールがある。でもそのルールも、行政の人が管理をしやすいように決まっていることが多いです。私たちは決められたルールにれてしまっているけど、本当はもっと「自分たちが使う場所として、自分たちで使い方の可能性を広げたい」と思ったのが、今回のイベントのはじまりです。

公共空間を自由に使うことを、アートプロジェクトを通して伝えたい。新しい使い方をしたり、一人一人が自分から関わろうとする機会につながることを目指しています。

そして、もう一つ大事にしたいと思っていることがSDGsです。わかりますか?

行政=この場合は、県庁や市役所でその街のために働いている人たちのこと

SDGs=持続じぞく可能かのう開発かいはつ目標のこと。地球や地球に住む人を守るために、2030年までに達成すべき17の目標。

参考資料:UNICEF

かのぴ:
学校でたくさん調べました。

ケイティ:
私も。

学校で習うんですね。わたしたちはSDGsにつながる、環境、災害、教育、食、花と緑、健康の6つのテーマに合わせて、プログラムをつくりました。

アートマネジメントのお仕事について、熱意をもってお話ししてくださった大越さん。子どもたちもその熱さに驚いていました。後編では引き続きイベントの内容と、アートマネジメントへの想い、そして働くことや「仕事」と「お金」の関係についても聞いていきます。

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イベント情報

ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT 2021
会期:2021年10月2日(土)ー 10月24日(日)
   ※公募プログラムコア期間:2021年10月2日(土)・3日(日)
時間:10:00ー18:00(10/3(日) および 金・土は20:00まで)
会場:象の鼻テラス、象の鼻パーク、日本大通り駅三塔広場、オンライン
料金:無料

【子どものためのおしごとメディアNARIWAI】
子ども取材班:ケイティ、かのぴ
編集部:スナミアキナ、吉川ゆゆ
ライティング:吉川ゆゆ
編集:スナミアキナ
編集長:吉川ゆゆ
主催:YOKARO